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うっかりからの、「しっかり2.0」(後編)|大和田奈津|2023-24 essay 10 【竹端ゼミ・フィールドワーク】

所属や分野・領域の垣根を超えて多様な人たちが集まり、対話し、実践的に学び合う「ふくしデザインゼミ」。2度目となる今年は、28名の学生と若手社会人が、東京八王子、伊豆大島、滋賀高島、長崎諫早の4地域をフィールドに「福祉をひらくアイディア」を考えてきました。

正解のない世界を漂流する2ヶ月のプロセスのなかで、若者たちは何を感じ、何を思うのか。このエッセイでは、ゼミ生一人ひとりの視点から、ふくしデザインゼミを記録します。

こんにちは。ふくしデザインゼミの竹端先生のゼミで活動している大和田奈津(なっちゃん)です。竹端ゼミでは、「福祉に余白を造り出す」ことをテーマに長崎県諫早市の社会福祉法人・南高愛隣会に行って「余白」について考えています。

この記事は、先日長崎にフィールドワークをして感じたことをエッセイにしたもので、今回は後編をお送りします。

色んな感情、言葉に向き合った二日間の記録です。それでは、よろしくお願いします!

▽ 前編はこちら ▽


朝からモヤモヤ

2日目朝。新幹線開通に合わせてとても綺麗になった諫早駅のスタバにいた。

まちや地域の研究をする身として、「新幹線の効果ってここまであるんかい!」と驚いた。地方都市のスタバにビジネス客用の相席スペースが広々と存在するのが意外だった。そんな相席スペースで、朝の7時30分からゼミ生たちは話し合った。「だいたいみんな来ているの、このゼミめちゃ真面目だよね~」とあっこちゃんが言った。マジでそう思う。

諫早駅のスタバにて。
高校生だったとき、スタバは「東京」だと思っていたし恋焦がれていた。今、地元で高校生とまちづくりをしていて、地元にほしいものは?と高校生に聞くと「スタバ!!!!!」という答えが返ってきた。スタバの影響力おそるべし。

2日目の午前中は、南高愛隣会で職員さんと利用者さんと一緒にお話をすることになっていた。でも、朝の時点ではどう進めるか?どう話すか?みたいなことがまっさらな状態で、私は正直不安だった。昨日の夜から話していたこともまとまらないし、どうしよう~、と漂っていた。

結局、いじろんが司会をやることになって、グループに分かれて40分×2回のお話をする形になった。ひとまずお話できそうな気がしてきた。でもなんか、昨日の疲れもあって不安は残ったままだった。

最初はみんなで輪になった
アイスブレイクで行った「源平合戦」

「源平合戦」とは、施設で行っているレクの一つ。2つのチーム(紅・白)に分かれて、床に置いてある大量のカードをできるだけ多く自分のチームの色にするために、ひたすら裏返すゲーム。

椅子取りゲームも盛り上がった(竹端さん、半袖!)

椅子を輪になるように置いていたら、「椅子取りゲームしたいね」ってなって、気が付いたら椅子取りゲームをやることになっていた。最後に勝ったのは、ある利用者さんだった。

利用者さんも職員さんもみんな本気。このレクを通してみんな、気がついたら「ひとりの人間」として存在しているように私は思った。

会いたい人に会いに行く!お話し会

場が温まったところで、お話会が始まった。

私が最初に話したのは、職員の渡部さんと利用者さん、グループホームの世話人さん、ゼミ生のおひよ。どう始めたらよいか...と悩んでいたけど、まずは改めて自己紹介しよう!と自分のことを話し出した。

社会学を専攻しまちについて研究していること、実家が社会福祉法人を運営しているけどなかなか福祉について考える機会がなかったから、今回のゼミで考えてみたいとおもっていることを共有した。自分のことを話したら、自分をひらいたら、なんかお話する準備ができた気がした。

世話人さんとは、利用者さんのグループホームでの生活を、地域の人に近い立場からサポートする人のこと。今回お話した世話人さんは、利用者さんのお誕生会のときにすごく久しぶりに書道をして「お誕生日おめでとう」と書いたと話をしていた。詳しく聞くと、利用者さんから書道で書いてほしいと要望があったらしい。お子さんが子どもの時に使っていた書道セットを使い、墨をすって、書いたという気遣いは、なかなかできないことだと思った。

奥にいる世話人さんと、私。めちゃ楽しそうに話している。

「解きほぐす」関係性

2回目のお話会、私は、結婚を機にグループホームを卒業してパートナーと二人で暮らしている利用者さんと、彼と同年代の職員さんとお話した。

南高愛隣会では、障害者の結婚や恋愛を支援している。どんな人間も人を好きになり、その人と暮らしたいと思う気持ちを大切にできるような地域づくりが、かたちになっている。

私は、事前にオンラインでのお話会に参加することがあまりできていなかった。だから、この利用者さんとお話するのは初めて。でも、長い付き合いの職員さんが同じグループにいたこともあって、利用者さんは安心して話せているように見えた。利用者さんと職員さんの関係のよさが、それ以外の人とのつながりもよりよくすることを感じた。

2回のお話会が終わり、最後に数人からお話会の感想をみんなで聞く時間があった。今回のようなお話会は、ふだんの仕事では話さないようなことを話せる場にもなったというようなコメントがでてきた。お話会を行うことは、ふだんの仕事の「当たり前」を解きほぐすことになっていたのかもしれない。これ、「余白」なのでは?と思った。

みんなでok!ポーズ。南高愛隣会のロゴにちなんだポーズをした。

「しっかり1.0」→うっかり→「しっかり2.0」

午後からは、公開プレゼンにむけて2日間で感じたことを言語化しまくった。

昨日の「ただ、いる」で感じた生の充足と様々な難しさ、午前中のお話会で感じた余白..。得た経験によって、自分たち自身が満たされているような感じがした。

めちゃくちゃぶっちゃけ話をする大和田。
みんなが笑いながら、でも真剣に聴いてくれていたし、それが写真でも伝わってくる

私たちは、これまで竹端ゼミのミッションである「福祉に余白をつくり出す」ことを「うっかりする」と捉えて議論してきた。

今回のフィールドワークでの気づきをもとに、「うっかりする」の対極にある「しっかりする」との関係性や、どうしたら「うっかりする」のか?を考えた。それと同時に、うっかりすることは具体的に現場にどういう良さをもたらすのか?も議論した。

竹端先生のファシリテーションのもと、以下のようにひとまず落ち着いた。

竹端先生がみんなの声を引き出しながらかたちにしてくださった。自分が気づいたことを率先して話し、「しっかり2.0」のような概念を言葉にした。社会学で行う質的調査では考えたことをコード化するんだけど、それが今回活きた気がする。院生としてやってきたことが学外で活きる嬉しさをかみしめていた。

現状の「しっかり」な業務では見えにくい大切なものを見えるようにするために、「うっかりする」。大切なものが見えるようになることで、「しっかり」な業務がさらに良くなるのではないかと考えた。このような状態を「しっかり2.0」とした。

最後の洪水

色んなことを話して固めていき、議論が熱くなるなかで、いつの間にかゼミのメンバーの一人が涙を流し始め、それに自分も共鳴してしまった。最後に一人ずつこの二日間で感じたことや今の気持ちを共有する時、自分の心のダムが決壊して、涙が止まらなくなった。その涙は、ふくしデザインゼミだけに関わることというよりは、自分自身の悩みや葛藤に関わるものだった。

社会人になった同年代と、社会人になれていない自分との様々な差、ふくしデザインゼミのような活動を理解してくれない人の存在、大学院での研究がうまくいかないこと...。涙を流したまま話していたら、他のゼミ生も泣き出し、自分のことを語り出した。

ふくしデザインゼミは、いろんな若者が福祉の課題と向き合い、対話し、糸口を見つける活動だ。一見すると、福祉のなかでの課題を見つけてその解決方法を見出せば十分なのかもしれない。しかし実際はそうではなく、自分自身に向き合ってはじめて福祉に向き合える。

今回のフィールドワークの最後にゼミ生が自分のことを語り、涙したことは、福祉に向き合おうとしている証拠なのかもしれない。

フィールドワーク最後の集合写真。泣いて10分後くらいに撮影。
自分の目が腫れているのは仕方ない。

おわりに

3月3日の公開プレゼンテーションに向けて、みんなで毎日のように議論している。この生活もあと少しで終わってしまうと思うとさびしくなる。

自分は小さい頃からグループワークが苦手だった。自分が周りよりもできる場合は、自分一人でやった方が早い場合もあるし、逆に周りよりも自分ができないと申し訳なさを感じてしまってうまく行動できなかった。

でも、今回のふくしデザインゼミは違う。それぞれが自分と向き合いながら他のゼミ生とも向き合い、そして福祉/ふくしにも向き合う。

自分ができること(=しっかりすること)を考えるのではなく、うっかりすることがむしろ大切になってくる。そう思うと心が楽になって「素の自分」でいられる気がした。

もう少しでプレゼン当日。ゼミ生みんなで「しっかり2.0」も「うっかり」も大切にして過ごしたい。

|このエッセイを書いたのは|

大和田 奈津(おおわだ なつ)
早稲田大学大学院教育学研究科社会科教育専攻修士課程2年

お知らせ ~公開プレゼンを開催します!~

3月3日(日)には、正解のない世界を漂流した2ヶ月のプロセス、そしてアウトプットを共有し、みなさんとともに思考と対話を深める、公開プレゼンテーション〈「ふくしをひらく」をひらく〉を開催します!
エッセイを綴るゼミ生たちがみなさんをお待ちしています。ぜひご参加ください!


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