くねくねについての雑談
大学生の頃、オカルトに縁のある人間がまわりに多かったことがあり、夏になるとよく怖い話など、オカルト話で盛り上がった。
私も叔母が新興宗教で怪しいことをしているのを手伝わされたり、なぜかオカルトに縁がある人生を送ってきたので、よく話をしたものだった。
そのときは、ミヤニシくん、T、リザ、私、という、当時所属していた音楽サークルのメンバー4人で、部室でなんとなく怖い話をしていた。
「あのさぁ、有名な話でくねくねってあるじゃん。あれってどんな感じなの?」
リザがミヤニシくんに聞く。
「あーくねくねってアレでしょ!見たら気が狂うみたいな」Tが乗ってくる。
ミヤニシくんが難しい顔をしている。ミヤニシくんはフランスに縁がある祈祷師の血を継いでいて、霊的なことや超自然的なことにとても詳しかった。霊能力のようなものがあり、特に未来予知のような能力に秀でていた。
「うーん、どんな感じって、どういう感じの説明をしたらいいんですか?」
「いや、ミヤニシくんだったら、あれはああいうもんです!とか言ってくれそうな気がしたから、なんとなく聞いただけ」
「僕もよくわかんないんですけど、あれって多分世界のバグみたいなものだと思ってて」
「世界のバグ・・・全然わからん」Tが言う。
「64のマリカーですり抜けできる場所とかあるじゃないですか。ああいう場所って普通に日常にあるんですよね。認知できないだけで、で、そういうところに発生するのがああいうのじゃないかなって思います」
「あるんだ・・・」
「そりゃありますよ。あれもそういうものというか、多分もとは人間だと思うんですよね。生きてる人間か人間の幽霊かはわかんないんですけど。で、あれってディティールが見えちゃうと気が狂うみたいな話じゃないですか」
「うん」
「あれのディティールって僕はわかるんですけど」
「わかんの!?」リザが食いつく。
「あれって人間をぐちゃぐちゃにしたみたいなかたちなんですよ」
「えっキモ」
「なんだろう。人間の関節を全部なくして、球体に近い感じにして、空中に浮かせてうねうねってさせる感じですね。動きとしてはけっこう三次元的というか、ぐちゃぐちゃしながら動いてる感じですね。」
「なんかもっと、人が踊ってるみたいな感じかと思ってた」
「多分見る人の認知の仕方によっても違うと思うんですけど、僕のイメージではそんな感じですね」
「へー」
「あれって本来人間として生まれるものとか、人間として死ぬ業のものが、世界のバグみたいなのでああなっちゃってるような気がするんですよね」
「それって幽霊とかとはまた違うんだ」
「僕は幽霊とは違うと思います。『おばけ』のほうに近いのかな。たとえが良くないかもしれないですけど、『おばけ』の奇形児みたいなものなんだと思います。『おばけ』より、もっとバグっぽい。だから普通の人が見たら脳がちゃんと認識できなくて、エラーを起こして頭がおかしくなっちゃうんだと思いますよ。ふつうのおばけとか幽霊とかなら普通の人なら認知できますからね。だから世の中に怖い話がいっぱいあるんですよ」
「へへー」
「でもなんかそう聞くとかわいそうなもののような気もするね」
「本人というか、彼らに意志とかはないだろうから、やたらめったら怖がられてるのはかわいそうですよね。雷とか、地震とか、台風とか、そういう自然災害みたいのを、もっと人間の認知できないエラーに近寄せていくと、ああいうかたちになるのかなって思います」
「わかるようで全然わかんねぇな」
「うーん、なんて説明したらいいんだろ。僕の親戚で、工場ですごく精密なバネをつくる仕事をしてる人がいるんですけど」
「うん」
「ときたま、何年かに1回とか『どうやったらこんなことになるんだ?』っていう、原因がわからない、説明不能な不良品が出ることがあるらしいんですよね。ものすごい形が歪んじゃってたりとかして。そういうのはもう説明がつかないから、不良、ってことで原因究明とかせずに捨てちゃうらしいんですけど」
「くねくねもそういうものだと思うんですよね。お化けのエラー品、業のエラー品、自然のエラー品、なんだっていいですけど、そういうものだと思います。業のエラー品、っていうのが一番しっくりくるかな」
「そういうものは、たぶん普通の人が思ってるより、意外と近くにあるもんだと思います」