見出し画像

【イベントレポート】9月26日に「ふくらむフクシ研究所トークライブvol.1」を開催しました

文:大谷理歩(おおたに・りほ)

今回は、ふくらむフクシ研究所の記念すべき第1回目のイベント、『ふくらむフクシ研究所トークライブvol.1』の様子をお伝えします!

ふくらむフクシ研究所とは、トークイベントや勉強会、ワークショップや地域での実験をしながら、「福」祉の世界に新しい価値を「膨」らませ、また「含」ませていくための研究・活動を行うプロジェクト。草加市発、「福祉プラスのまちづくり」事業の一環で行われています。

今回はコミュニティデザインラボ所長の松崎亮(まつざき・あきら)さん、合同株式会社ライフイズと一般社団法人Life is代表の影近卓大(かげちか・たくだい)さんにお越しいただき、「福祉を地域に開いていくってどういうこと?」をテーマにお話しいただきました。

会場としてお借りしたのは、草加市内にある「THE COCO CAFE’s」さん。不動産業とともに、イベント会場としても使えるカフェの運営を行っています。店内では、地域で暮らす方や福祉事業所の利用者の方によるハンドメイド作品が展示販売され、オシャレな空間で美味しい料理を食べられるとても素敵な会場でした。

イベントには福祉事業に携わる方、草加市で暮らす方、福祉に興味を持った方など70人ほどが集まり、はじまる前から「すごく楽しみ」という声で溢れていました。

草加市長・山川百合子さんからお言葉をいただき、イベントがスタートしました。


タグに注目する。タッチポイントをずらす。

松崎 亮(まつざき・あきら)コミュニティデザインラボ所長
大学卒業後、社会福祉協議会に入職し地域福祉業務を担当。平成29年こどもの貧困支援に対して、具体的な支援施策を見つけられず悶々としていたところ、東京都文京区がおこなう「こども宅食」を知り、独自にリサーチ。平成30年4月、商業デザイナー等とチームを組み、こども宅食をローカライズした「みまたん宅食どうぞ便」を立ち上げ、コミュニティデザインによるアウトリーチの可能性を感じる。平成31年4月より、「自分たちのまちを、自分たちで楽しく」をコンセプトに、宮崎県三股町社会福祉協議会内に「COMMUNITY DESIGN LAB.(コミュニティデザインラボ)」を立ち上げ、2025年までに200の活動、2025人の地域活動者を生み出し、地域住民の活動で、地域課題の解決を目指すミッションを掲げ、目下活動中。令和5年から、地域の居場所にフォーカスした「夜立よる学校プロジェクト」も進行中。

まず、松崎さんのトークです。松崎さんは、宮崎県三股町の社会福祉協議会で働きながら、コミニュティデザインラボの所長として活動されています。

松崎さんは、地域共生社会を概念として捉えるのではなく、1人の個別事例から仕組みをつくってきたといいます。

例えば、学校に行けていない、ゲーム好きの小学生の男の子がいたとき、福祉的な視点からは「小学生」「不登校」というタグが付けられ、「不登校児の居場所支援」がなされがちです。しかし、タグに縛られず、地域のさまざまな大人や子どもと出会う場、つまり「タッチポイントをつくっていくこと」がコミュニティデザインラボ式のメソッド。そうすることで男の子は自信がつき、みんなの前でブレイクダンスを披露するなど、これまでとは違う一面を出すようになったといいます。
この例から、もともと男の子が持っていた一面が「場の力」によって引き出されたと分析する松崎さん。
地域にたくさんのタッチポイントがあることで、その人の多面性を引き出すことができる。そうした多面性を引き出しながら、一人ひとりが活かせる場を地域につくっていくことが、地域共生社会なのではないかと松崎さんは語ります。

また、従来の福祉のやり方では届かない人たちに福祉を届けるため、「タッチポイントをずらす」ことも大切なのだそう。

「福祉分野は課題を決めてターゲット層を限定しがちだが、それではスティグマが生まれやすい」

「みんな楽しいことに関わりたい。だからこそ、タッチポイントを暮らしの領域にずらす。そうすることで、福祉とつながることができる」

1つの個別事例から生まれたプロジェクトは、初めは1人のためかもしれません。けれど、同じような困りごとを持っている人へも届けていくことができます。

福祉の押し付けではなく、福祉を日常に潜ませる」

コミュニティデザインラボの取り組みの節々に、福祉を日常に潜ませる工夫と想いを感じることができました。


日常生活の景色を多様にする。

影近 卓大(かげちか・たくだい)合同会社ライフイズ / 一般社団法人Life is代表
北海道網走市出身。東京都多摩市在住。訪問看護ステーションや重症児者の通所施設、計画相談支援の事業所を運営。多摩ニュータウンというフィールドに魅力を感じ、様々なコミュニティの中で豊かな場が生まれるように活動中。「日常生活の景色を多様に」というビジョンを掲げ、「障害者と健常者」「支援者と被支援者」という画一的な関係性の枠を取り払い、全ての人が対等な市民としてその場に存在し続けられるような取り組みを実践中。イベントとしての関わりではなく、日常生活の中で自然に関わり合うということを大切にし、事業所には多くの人が手に取れるような関わりしろを置くとともに、事業所自体を地域住民とともに使い合うような場としている。駄菓子屋というコンテンツに可能性を感じ、駄菓子を持って地域を飛び回る。最近好きな駄菓子はポテトフライとさくら大根。

続いて、影近さんのトークです。

冒頭、「市長、好きな駄菓子はないですか?」と影近さん。
「う〜ん…」と言葉を詰まらす市長に「好きな駄菓子ないんですか?」と投げ返し、会場から笑いが湧き上がりました。

東京都多摩市の団地商店街の一角にある、重症心身障がい児の通所事業「+laugh(アンドラフ)」。そこには地域の子ども達も訪れる駄菓子屋さんが併設されています。

事業所の入り口を常に開き、関わる人を心から歓迎する。福祉という言葉を使わなくても、その価値観が根付く場所が+laughなのだと感じるお話でした。

「今の課題は、医療の進歩に地域がついていけていないところ」

医療技術の進歩とともに医療的ケア児の数が増えていく中、医療的ケア児が地域から孤立してしまっていることに問題を感じた影近さん。
手始めに公園でヨガをしたり、芋煮会をしたり…重症児の子も含めてみんなで楽しめる場をつくってみたのだそうです。

(会場の様子。トークライブも後半に差し掛かり、リアクションも大きくなります。)

自分が楽しむことが一番大事!」

ということで、ビールをたくさん飲んだ影近さんは子どもからビール怪獣と呼ばれていたそう。それには会場からも笑いが!

「イベントでの景色を日常でも見たい」「地域に医療的ケア児が楽しく過ごせる場所があれば…」そんな想いからできたのが+laughだそうです。

事業所を立ち上げる過程から地域の子ども達が関わり、今では年間8,000人が訪れる場所なのだそう。
最初はチューブや呼吸器に興味を持ち質問する子どもたちも、一度理解すれば、その後は利用者さんを名前で呼んでくれる関係性になるといいます。

「福祉の2字はどちらも幸せを表す字」

「福祉とは、道ゆく全ての人の幸せを考えること」

職員の方に対しても、身を粉にして働くのではなく、まず自分自身を大切にすること。そこがなくては相手のことも大切にはできないと語る影近さん。「私もあなたも地域も心地よく」という言葉を大切にしており、三者のバランスを保ちながら、役割ではなく、あなただからいて欲しいという場をつくろうとしているのだそうです。

「地域に開かれた事業所にしたいなら、まずはそのまちを好きになることから」

「地域社会は一人一人の関係性でできている。だから、私たちは、手の届く範囲でできることをやっていく」

「福祉を地域に開く」鍵がこの言葉に詰まっていると感じました。

(熱いゲストの方々のトークに、
参加者同士の感想共有も時間が足りないほど盛り上がりました。)

そして、最後はクロストーク。
クロストークでは、聞き手の株式会社ここにある代表取締役の藤本遼さん、特定非営利法人believe副代表の関根共子さんがゲストお二人に質問をぶつけていきます。

Q:活動のきっかけはなんだったのでしょうか?

「姉の子どもに障がいがあって、姉が泣いていたんですよね」と影近さん。
将来の不安が今の幸せよりも上回ってしまっていることを目の当たりにし、将来の不安を減らしたいと思ったのがきっかけだといいいます。

一方、松崎さんは社会福祉協議会で働く中にきっかけがあったとのこと。
福祉を学ぶ中で相手の目線に立つことの大切さを何度も学んできたにもかかわらず、ユーザー目線ではなく、福祉専門職の思いばかりが先立ってしまった経験を振り返ります。
福祉専門職で協議を重ねてきた子どもの貧困支援は、1度も当事者からの相談が寄せられずにいたといいます。課題は存在するはずなのに、「相談がない」とはどういうことなのか悩んでいたところ、「今のデザインでは、支援を受けること自体が本人にとって辛い状況を作っているのではないか」という一言にはっとさせられたといいます。改めて「相手の目線に立ちたい」と思ったことから、コミュニティデザインラボを始めたのだそうです。

(聞き手の関根さんと藤本さん。)

Q:人は本来、さまざまな興味関心や特徴、個性(=タグ)を持つという話が松崎さんからありましたが、1つのタグにのみ注目するのではなく、その人自身を受け入れられるよう心がけていることはありますか?また、「支援する/される」といった関係性や専門性が、多面的に見ることを邪魔してしまうと感じたことはありましたか?

自分の見方だけ、1つの専門性だけでその人を見ていくのには限界があるという松崎さん。いろんな人と出会い、異なる意見が得られる関係性や場をつくっていくことが重要だといいます。

影近さんも「専門性だけで見ることはとても危ないこと。だけど、その専門性がなくなることを専門職の人は恐れてしまう」と言います。
自分自身もさまざまなタグをうまく使い分けることが必要だと、専門性の危うさと自分のタグを理解することの重要性を伝えていただきました。

「タグ」に関するエピソードは、関根さん、藤本さんにも経験があるようです。

親の介護の場面で「◯◯さんの娘さん」と呼ばれ、母親が「耳の遠いおばあさん」と見られた経験から、「名前を呼び合える関係性っていいな」と関根さんは振り返ります。

また、藤本さんが企画した、お寺でカレーを食べる「カリー寺」というイベントでは、住職さん、檀家さんがお互いにこれまで知らなかった一面を知り、関係性が変化したそう。
イベントを通して檀家さんは、「地域の若い人と関わっている住職」、「大学の先生として教え子と関わる住職」、「地域の檀家ではない人と関わる住職」など、今まで見たことのなかった住職さんのさまざまな姿を目にしたのだといいます。住職さんへのタグを増やせたことで「住職である」という認識をほぐすことができ、檀家さんも住職さんも、今までとは異なる話ができるようになったそうです。

地域活動はタグを増やすプロセスであり、その過程で別のコミュニティが広がっていくことであると藤本さんは話します。一方、福祉の世界では、支援「する側」と「される側」のように関係性が狭くなりやすく、相手の別の一面を知るところまで到達しづらい。だからこそ、ゲストお二人のお話から、地域と福祉のつながり方、タグの増やし方を参考に変化を起こせたらと藤本さんは話します。

Q:ここまでキーワードとなってきたタッチポイントをつくる、タグを見つけることは難しそうに感じますが、これらを生み出すためにどんなことを意識しているのでしょうか?

地域福祉を自分たちがめちゃくちゃ面白がり、それを見た地域の人がその状況を面白い!と思えるようにすることを目指していると松崎さん。

一方、影近さんは「わかりやすさ」に走らないことが、関わりしろの1つになるといいます。「ここはなんのお店ですか?」という質問からコミュニケーションが生まれ、その人との関わりが始まることを大切にする一方で、コミュニケーションのタイミングは相手に委ね、始まった時に歓迎する準備だけはしておくのだそう。他者との関係性が生まれるきっかけを「小石」に喩え、「小石をそっと置いておく」ことを影近さんは大事にしていると説明します。

「福祉を地域に開く」とは、相手が心を開くタイミングを待ちつつ、開きたいと思うような仕掛けをつくったり、開いた時には歓迎したり。そんな形なのかもしれないと思いました。

(会場では要約筆記と手話通訳が用意されました。)

最後に、「この場に来ていること自体が、新しいタッチポイントを増やし、自分らしい福祉の楽しみ方を見つける一歩なのかもしれない!」と藤本さん。
イベントは、草加市障がい福祉課長の長堀さんの言葉で締められました。

イベント終了後も参加者のみなさんの熱は冷めず、「今度遊びににきてください!」とさまざまなところで新たな出会いが生まれているようでした。

今後もふくらむフクシ研究所のイベントは続いていきます!
ここでできたつながりから、ぜひ、福祉をふくらませていきましょう!


今後の予定

その他イベントの詳細については「ふくらむフクシ研究所」のFacebookをご覧ください。
https://www.facebook.com/fukuramufukushikenkyuzyo

▼「ふくフク映画祭」

「ふくらむフクシ研究所」による「福祉」や「暮らし」についてみんなで考えるイベント題2弾

フクシにまつわる映画を見たり、障がいがあってもなくても気軽に楽しんだりすることのできる映画祭を2023年12月3日(日)に開催予定です。今回は「37セカンズ」と「コーダあいのうた」などの上映に加え、ほか数本の映画や映像作品の上映、また体験型コンテンツやワークショップもいくつかご用意しています。子どもでも大人でも楽しめますので、お気軽にお越しください。※いくつかの映画が満席となっているため、当日のご入場をお断りする可能性がございます。

いいなと思ったら応援しよう!