ガラパゴス諸島の不思議と生命のひみつ②|福岡伸一 講演
2021年に朝日カルチャーセンターにて開催された、福岡伸一による講座(全2回)を編集して掲載します。
種の存続か、個の自由か
〈ガラパゴス諸島の不思議と生命のひみつ①〉で、「ロゴス」と「ピュシス」について説明した通り、ロゴス(論理とか言語)によって、人間は人間たりえたと言えます。
ピュシス(ありのままの自然)の本当の目的は、「産めよ、増やせよ、地に満ちよ」、つまり種の保存なので、種が存続すれば生命としては目的を達成していることになります。なので多くの生物は、ものすごい数の卵を産んだり、子どもをたくさん作ります。その大半は、幼生や幼虫になりますが、その途中でほかの生物に食べられてしまったり、水に流されてしまったり、風に吹かれてどこかに行ってしまったりして死んでしまいます。でも、たくさんの子孫がいるので、その中のわずかな幸運だったものが生き残って、パートナーを見つけて次の世代を産めば、種としてはオッケーなんですね。ピュシスの現実としては、種が何より大切であり、個体というのはツールでしかない。個の生命の価値というのは、人間以外の生物にとってはそれほど高くないというふうにも言えるわけです。
でも、人間だけは違います。ロゴスをつくったことによって、その遺伝子の企みというか、種さえ存続できればいいという掟から自由になることができた。掟をロゴスによって相対化できた。そういう目的を遺伝子が持っていて、利己的にふるまっているけれども、そこから個体が自由になっても罪もないし罰もない、むしろ個の生命の価値や、個が自由であることに意味があるということに初めて気がついた生物が人間なんですね。個の自由をロゴスの力によって獲得したことが、人間を人間たらしめ、あるいは基本的人権というものの大切さをみんなが約束できたのが、「人間」という生物なのです。
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生命海流|GALAPAGOS
ガラパゴス諸島を探検したダーウィンの航路を忠実にたどる旅をしたい、という私の生涯の夢がついに実現しました。実際に行ってみると、ガラパゴスは…
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