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猫と出会う1

その家ではちょうど10年暮らしました。
それまでそれほど猫好きでもなかった私はその家で猫と出会い、一緒に暮らすようになったのでした。
大きなまちでのマンション暮らしから、地方に引っ越して、家賃の安さに驚きました。月10万円も出さなくても、庭付き二階建て一軒家が借りられる!今考えればもっといい物件もあったと思うのですが、比較的生活にも便利な立地でしかも静かな住宅地の中のその家がとても魅力的に思えたのです。

Usuはその家で生まれました。

紹介してくれた不動産屋さんの事務所には立派な大きな猫がいました。長い毛の白いやつで、書類の出来上がりを待っている私の前にやってきておっくうそうに寝そべりました。地方はなんかゆるくていいな、とぼんやりながめていると、事務員の人がコーヒーを持ってきてくれて、そいつは一瞥をくれると、ゆっくり立ち上がり、優雅に去っていきました。

初夏の薄曇りの日、鍵をもらって初めて一人でその家に入りました。どこに何を置こうかと考えながら部屋を見て歩きながら、ふと二階の窓から外を見ると、隣の家との境のブロック塀の上に黒が目立つ濃い色の三毛猫がいるのが見えました。むこうもこっちに気づいたらしく、びっくりして大きく見開かれた目がとても印象的で、「びっくり目」という言葉が頭に浮かびました。

庭が手に入ったので、ゴーヤーやナスなど植えてみました。びっくり目の三毛はその庭によくやってきました。でもその頃は猫を飼うということは全く考えられなくて、無責任に餌をやったりするのもよくないと思い、なんとなく距離を置く感じでした。
地方のまちの暮らしは新鮮で、郊外型のホームセンターなどの大型店舗文化や、空の広さ、ちょっと車で山に向かえば日帰り温泉がいくつもある、という環境は、都心暮らしが長かった私にとっては冒険のしがいのある新世界のようなものに思え、ホームセンターで家具や苗木を買ったり、週末にはいくつもの温泉を巡ったりしました。

いつしか季節はうつり、ゴーヤーやナスも終わり、いつの間にか濃い色の三毛はうちの庭でキャットフードをもらうようになっていました。毎日顔を合わせているうちに、すっかり情が移ってしまったのです。でも家で飼うことまではまだ踏み切れずにいました。


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