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猫が空き家に迷い込む
向かいの家はずっと空き家でした。
梅雨のある日、玄関を開けっぱなしにした隙に母猫が脱走。こういう時は追いかけてはダメで、落ち着いてチュールでも持っておびき寄せればよかったのですが、動転してつい追っかけてしまった。ノラだった彼女は一目散に向かいの空き家に駆け込んで行ってしまいました。
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空き家とはいえ、勝手に入るのははばかられます。名前を呼びながら門扉から中を伺うと、敷地の奥の塀を駆け上がって左の方へ走って家の影に隠れて見えなくなりました。
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それからきっかりひと月後、梅雨もそろそろ明けるかと思われる頃に、彼女はまた向かいの空き家の塀から姿を現しました。ノラだったとはいえ、保護した家から引っ越したので土地勘はなく、ほとんど向かいの空き家にいたのかも知れないと、見つけてくれた猫探偵の人は言っていました。
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空き家は地方のまちや田舎でたくさん増えているようです。
この家を借りる前にともだちの紹介で、まちの中を流れる川のそばにある空き家を借りようとしました。おばあさんが一人暮らしをしていた家で、孫たちに会いに東京に出た時にそこで倒れてしまい、そのまま家に戻ることなく東京の病院で亡くなられたとのこと。おじいさんのたくさんの蔵書や二人の家財道具がそのまま残っていて、膨大な古い切手のコレクションが立派なアルバムにぎっしりと何冊にも収められていました。おじいさんはここで子どもたち向けに英語教室を開いたりしていたそうです。話を聞かせてくれた老夫婦(おじいさんとおばあさんはその老夫婦の奥さんの方の両親でした)は、ちょっと離れたところにある川の堰の音が、夜中にずっと聞こえていた家だった、と話してくれました。残されている家財道具は自分たちで片付けるのでぜひこの家を貸して欲しい、とお願いしました。
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しばらくして、片付けてもらうのはあまりに気がひけるので、やはりこの話は無かったことにしてほしいと、ともだちを通じて連絡がありました。
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うちの猫が迷い込んだ向かいの空き家は、つい先日取り壊され新しい家が家が建つことになりました。ハウスメーカーの人と施主の若いご夫婦が、工事でご迷惑をおかけします、と挨拶に来ました。