【試し読み】北川聡子・古家好恵・小野善郎+むぎのこ 編著『子育ての村「むぎのこ」のお母さんと子どもたち』(はじめに)
『子育ての村「むぎのこ」のお母さんと子どもたちーー支え合って暮らす むぎのこ式子育て支援・社会的養育の実践』が、2021年12月14日に発売しました!
前作を作っているときから第2弾は実践編にすることが決まっていました。しかし作り始めたところ、むぎのこの支援の多様性(むぎのこ式)に一筋縄ではいかないことがわかり、どうしたらありのままのむぎのこを伝えることができるのか、一年間むぎのこに密着して、その度に新たな発見をしながら形にすることができました。心理、福祉などの関係分野の人だけでなく、多くの人にも読んでもらいたい自信作です。前作と合わせて是非。
ここでは試し読みとして、「はじめに」と目次を公開します。
続きが気になる方は、ぜひ全国の書店・ウェブストアからお求めください!
(本書の詳細はこちら。各種ウェブストアにもアクセスできます)
*本記事は2021年12月14日発売『子育ての村「むぎのこ」のお母さんと子どもたち』から該当部分を転載したものです。
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●はじめに●
むぎのこの朝は、とても活気がある。
運転手さんと添乗をする卒園児のお母さんたちが、安全運転の「ルール」の読み合わせのために輪になっています。今日の子どもたちの送迎の確認をして車に乗り込み、「オーライ、オーライ」の元気な声に送り出されて出発です。
この送迎は実は非常に重要な役割を果たしています。今のような送迎制度のない措置時代、担当医から精神疾患のあるお母さんが、もしからしたら心中する可能性があると聞かされました。「子どもとお母さんの命を守らないと」と思い、そのために毎日自宅にお迎えに行くことにしました。
親子の安否確認と子どもが日中たくさん遊んで栄養バランスがとれた給食も食べ、子どもらしい生活ができるようにドアツードアの送迎がはじまったのです。
そのことをきっかけに他の親子からも、「うちも大変だから来てほしい」「いつもはいいけど、私が病気のときはお願いしたい」などの声が出てきたのです。そして今では、ほとんどの親子がドアツードアの送迎になりました。
今思えば、当時は障害がある子どもの乳幼児期の子育ての一番大変な中、地下鉄やバスで登園することで、パニックや人の目を気にしてくたくたになって園にたどり着く親子であっても、親だから苦労をして当たり前という時代だったと思います。
この困り感の高い親子が、親だから苦労して当たり前と思われていることに気づかせてくれたのです。
あれから二十年近く経った今、家から出てこられない子どもや不登校の子どもが増えてきている中、また、家族の困り感が高くなっている中、なかなかお母さんが外に子どもを連れてこられない家庭のための家までのお迎えは役割機能として広がっていて、子どもや家庭のためのセーフティネットと言っても過言ではありません。
むぎのこのミッションは「共に生きる」です。むぎのこは、「困り感のある方々と共に生きる」ということを大切にします。弱き者、小さき者の尊厳が守られ、希望につながる支援をおこないます。そして、一人ひとりが生まれてきてよかったと思える日々、この世は生きるのに値すると思える社会をつくります。その具現化のためにいろいろな国に行って勉強してきました。
むぎのこでは、家族支援をこれまで大切にしてきましたが、フィンランドに行ったとき、「子どもを救うためには、家族を救わなければならない」と、ネウボラの保健師さんがはっきりと言っていました。
そうなんです。やっぱり、これは世界のスタンダードなんです。子どもの幸せのためには、子どもを育てる家族支援が必要だということです。
そして、お母さんたちがまわりの方々と信頼関係をつくっていく中で、さまざまなサポートを受けみんなで子育てをおこなっていくためには、お母さんやお父さんたちへの心理支援が大切になってきます。子育ての大変さを語り理解し合う中で、お母さんたちが少しずつ人を信頼し、社会を信頼できるようになることがスタートです。
お母さんたちも、理解し合える人に出会えて、少しずつ安心できるようになり、笑い、怒り、時には涙を流し、自分らしい人生を歩み、元気になることが、子どもの育ちに大きく影響するからです。
「できる、できないではない。あなたらしくていい」。
「あなたは、すてきな子どもだよ」。
これはむぎのこの原点です。私たちは障害のある子どもや困り感のある子どもの支援をスタートとしておこなってきました。
でも、「あなたらしくていい」「あなたは、すてきな子どもだよ」ということは、実は特別な子育てではなく、障害のある子どもだからではなく、どの子にも共通して大切なことなのです。ですから障害のある子どもも、ない子どもも、共通性があってつながっているのです。
支援する側から見ると、何か問題があったり、リスクの高い子どもや親を取り出して支援するというのではなく、すべての子どもと親を分け隔てすることなく、必要に応じた支援を受けられるようにすることが大切だと思っています。
残念ながら、現在の母子保健や児童福祉の制度は、必ずしもすべての親子に手を差し伸べるものではなく、支援が分断されやすいところがあります。子育て支援は特別な親子だけのものではなく、支援ニーズは連続線上にあるものなのです。「すべての子どもと家族があたたかい支援に包まれていい」と、淑徳大学短期大学部の佐藤まゆみ先生がおっしゃっていました。これからは、このような視点が必要なのではないかと思うのです。
必要な子どもと家族に必要な支援が自然におこなわれるためには、支援する側も、子ども一般施策、障害児支援、社会的養護とばらばらではなく、地域の中で、せっかくあるリソースが子どものために自然なかたちでつながり合っていくのが理想形だと思います。
このことは、今日大きな社会問題になっている児童虐待防止にもつながっています。痛ましい虐待死事件がセンセーショナルに報道され、児童相談所に寄せられる児童虐待相談の件数が急増して、大きな社会問題になっています。
むぎのこでは障害のある子どもの子育て支援のために、職員が里親になったり、ファミリーホームを開設してきましたが、いつの間にか児童相談所から一時保護を委託されたり、里親やファミリーホームに措置される子どもたちが増えてきて、児童虐待にも深くかかわるようになっています。
子どもを虐待することはあってはならないことですが、その背景には養育する親の困り感や孤立など、たくさんの支援ニーズがあります。ここでもむぎのこが培ってきた障害のある子どもと親への支援と同じように、必要な支援を自然におこなうことで、虐待防止と家族支援を進めています。
子育てといっても人生そのものです。そんなに簡単にはいきません。
苦労を引き受けて、共に生きる――この本には、そんな人生の苦労がたくさん詰まっています。むぎのこは、すべての子どもの幸せを願い、そのための苦労をみんなで引き受けて、お父さんやお母さん、子どもたちと共に成長してきた歴史ともいえるでしょう。そんな子どもと家族、そしてむぎのこの職員たちの苦労から、これからの子ども・子育て支援への希望を見つけ出すことができればと思います。
苦労に感謝して!
すべての子どもの幸せを願って!
社会福祉法人麦の子会 理事長 北川聡子
●目次●
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