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部屋とダイタクと私

M-1グランプリ2024。
ダイタクが決勝にいった。
ここまで長かった。

東京吉本の芸人。お笑いファン。
全員が喜んでるだろう。

決勝進出者発表の配信を家で見ていて、ダイタクの名前が呼ばれた瞬間「よっしゃぁぁ!」って声が出ちゃった。
自然とガッツポーズもしちゃった。
ほんと外じゃなくてよかったと思う。
みんな大丈夫でした?
うっかり電車とかで見た人いないですか?
声漏れてないですか?


数日後にはM-1グランプリ2024が始まるし、終わる。早く見たいけど終わってほしくないジレンマに毎回胸が詰まりそうになる。

とにかく楽しみ過ぎる。
伝説の回になる予感。
今年マジでいいメンバーだ。


でもやっぱりダイタクには特別な感情が湧く。

それは僕が昔、芸人をやっていたから。
そしてNSC東京14期だから。
ダイタクとは同期にあたる。

と言ってもこっちは辞めてから10年以上経つし、
そもそもタクと1〜2回しか話したことない。
ダイに至っては0かもしれない。
向こうは僕のことなんてきっと覚えてない。

でもこの感情を言葉にしたいから書き残すことにする。ダイタクを初めて見た時の話と、自分の芸人時代の話と、決勝に向けてのエール。

※だいぶ昔の話なので記憶違いがあったらすみません


🖋️


今から16年ほど前の春。

高校を卒業したての僕は吉本の養成所、NSCの門を叩いた。
目をギラつかせた野良犬みたいな若者が神保町に集まった。
同期は確か700人くらいいたと思う。

1組から6組までクラスがあってひとクラス100〜120人ほど。ダイタクも僕も1組だった。

余談だけど教育係の『本当の赤ちゃん』って芸名の先輩がむちゃくちゃ怖かったな。(ネコニスズ舘野さんとは全然関係ないよ)


NSCには色んな授業がある。ダンスや発声、演技なんかもあったけど結局1番大事なのはネタ見せ。

ネタ見せの授業では、やりたい人が早い者勝ちでホワイトボードにコンビ名を書いていく。1コマで10数組しか見てもらえないので争奪戦になる。

相方すらいない僕はライバルたちのネタをただ見るだけ。一丁前に目つきだけ鋭かった。

4月〜5月の養成所生なんてほぼ素人だ。
ネタ披露するもみんなまだ形になってない。

そんな中、
なんかデカくて同じ顔の2人が登場した。


「兄のダイと弟のタクでダイタクです。お願いしまーす!」
「双子って何でそんなに動きとか言葉がシンクロするんですかってよく聞かれますけどね」
「あーありますね」
「練習してるからですよ?」
「そんな訳ねぇだろ。何で合わせるための練習すんだよ」


形になってる。
見てられる。
普通におもしろい。
野良犬たちの笑い声がドッと教室に響く。


台本感がなく自分たちの言葉で喋れてる。
漫才において越えなきゃいけない最初のハードルを一瞬で飛び越えていた。

上手いやつって最初から上手いんかい。
歌で言うところの音程を外してない感じ。


芸歴は0年目でもこの時点でコンビ歴は20年以上みたいなもんだからな。

まだ相方すらいない僕を打ちのめすには十分過ぎる漫才だった。


講師の作家さんからも「いいね。おもしろい。」と評価され数組しか入れない選抜クラスにすぐ上がっていった。

いわゆるエリート。
スタートダッシュをかましてそこからずっと走り続けていった。



一方の僕はというと秋の終わりくらいに何とか相方を見つけ念願の漫才を始めることになる。

が、満足な評価は得られなかった。
「ネタに整合性がない」「漫才になってない」
「自分の言葉で喋ってない」
最初のハードルさえ越えられないのか。


そしてあっという間に3月になってしまった。
当時は出席が足りてればとりあえず卒業はできるシステムだったので皆勤賞の僕は問題なく卒業できた。 

(ちなみに真面目に全部出席するタイプのやつはあんま売れない。ちょっとサボるくらいのやつのが売れる傾向にある。)

ただ、この時点で同期は300人くらいにはなっていたと思う。1年で大体半分ずつ脱落していく。


ここから一応、プロということになるが
出番は月に1分だけという地獄からのスタート。


吉本のライブシステムはランク付けの階層がエグい。何層にも分かれていて各ライブで上位を取って地道に1個ずつ上がっていく究極のサバイバルである。

当時ランクは6段階くらいに分かれてた気がする。

最下層の僕らは月1のライブ。
シアターDという小さな会場が主戦場だった。
楽屋は満員電車くらいの人口密度になる。
荷物だらけの激狭空間で着替えたりした。
スベッたら1ヶ月が無になる。
命を無駄使いした気分。

たまにウケたとしても1位にならないと現実は変わらない。
もがいてももがいても結果は出なかった。


やがてシアターDの時代が終わり、
ほとんどのライブが渋谷無限大ホールで行われることになった。

無限大ホールの内側から見た景色は今でも忘れられない。

芸歴3年目を迎えたころ転機があった。
   

ウケた。
 
今までより確実な手応え。
笑い声を全身に浴びて自分と相方がノッてる気がした。
 
その体感は間違っていなかった。
僕らはようやく最下層のライブで上位になって1個上のランクに上がることができた。

結果を知って相方に電話して「やったな」とか言ったっけな。掛け持ちバイトの移動中の公園で。

鳩がいつもより多めにバサバサして寄って来た。多分、祝福してくれてたんだろう。


出番は月3回×3分に増えて歓喜した。
でも月間ランキングで下位になったらまた最下層に戻る。

なんつーシステムだ。

ひとつランクが上がったことにより、周りの人らのおもしろさを目の当たりにして悔しさと絶望が同時にやって来た。

やっとの思いで市大会を勝ち上がって県大会行ったら初戦でボコボコにされた感じ。

何だこの実力差は。
ほんで何だこの層の厚さは。
この人たちで下から2番目のランクかよ。

あと何回勝ち上がらないといけないんだ。
絶望的な距離を知って心が折れてしまった。

そして怖いことに仮にこのランクを1番上まで勝ち上がっても、あくまでそれは吉本のライブシステムの中でのトップというだけで売れる保証は一切ない。 

この時に初めて売れるってことの厳しさを直視できた気がした。
 

今まではごっこをしてただけだ。


結果は大敗。
1ヶ月後また最下層に戻ってしまった。
必死の思いで抜け出した地獄にまた転げ落ちた。





無理だ。
辞めよう。


僕は自分のお笑い能力の限界を知った。
相方に泣きながら謝って解散した。


夢が崩れるのは容易い。
心が折れてしまったらどうしようもない。
気持ちがなければ体は進まない。

納得はしてるから
清々しい気持ちで辞めることができた。


☀️


辞めた後は気が楽だ。
またただのお笑いファンに戻るだけだから。


当然、好きだからお笑いを見る。
色んな人を応援するけどやっぱり同期の活躍には敏感になる。


相席スタート山添くんがM-1決勝に行き、
EXITりんたろー。が売れ、
ネルソンズがキングオブコント決勝に行き、
スパイクがTHE Wの決勝に行き、
ファビアンが本を出版し、
最終兵器カゲヤマがキングオブコント準優勝した。

賞レースが全てじゃないけどやっぱり1つの指標として大事だ。みんな徐々に結果が出ていったのは嬉しい。


そんな中、ダイタクは?
ダイタクがなぜ評価されない?

抜群に上手くて、しっかり作り込まれてて、おもしろい。ちゃんとウケてる。なのになぜ。

M-1準決勝5回進出。
腐ってもおかしくない回数よ。
周りも本人たちも「行ったな」って年があったらしい。それでもダメか。

M-1の舞台に立つ2人を見たいなぁと毎年願いながら気付けばもうラストイヤー。



そして2024年12月5日。
決勝進出者発表。 




ダイタクの名前が呼ばれた。





きた。




きた!!!




きた!!!!!!!
 
 


遂に決勝!
ラストチャンスでようやく。


M-1史上初の双子漫才師。
この記録は誰も破れない。


決勝への扉はDr.ハインリッヒでもなく、吉田たちでもなく、マナカナでもなくダイタクがこじ開けた。 


15年かかったよ。
最初からあんなに上手くておもしろかったのに15年かかる世界なんだよ。



あー。厳しいな。


でも良かったね。
M-1の決勝に行ける人生だったんだ。


かっこいいよ。


見てよ。
後ろに慕ってる後輩たちの行列ができてるよ。
 

見てよ。
待ってたお笑いファンがたくさんいるよ。


全員喜んでるよ。


東京吉本のお兄ちゃん。
かましてくれ。
轟かせてくれ。
ネタ2本見せてくれ。


今年はメンバーが良すぎるから
誰がどうなるかは正直わからん。


でもどう転んでも爪痕は残せるはず。


頑張れ、ダイタク。


どんな結果でも見守るよ。うっかり泣いてしまってもいいように部屋でこっそり見るよ。


芸人の喜びも苦しさもほんの少ししか味わってないけどよく覚えてる。 

3年で耐えきれなくなっちゃった僕だから15年の重さはよくわかる。


お笑いは辞めたけど、何かを表現することは辞めたくなくて文章を書いてるよ。これからも書く人間でいたいと思うよ。
   

辞めた同期をここまで熱くさせるのはダイタクが魅力的だからだよ。漫才師として色っぽいからだよ。
 
その証明としてこの文を残す。
どうか多くの人に届きますように。


あぁ。
楽しみだ。
みんな風邪ひかないでね。
全員爆発して伝説の回にしてくれ。



まぁ、令和ロマンが好きだから普通に2連覇見てみたいけどね。






おい、言うな。
思ってたとしても言うな。









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福本カズヤ|noteの社員になりたい日記
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