優しいきみちゃん【短編小説】
《ドスッ》
『あら?おはよう、やっぱりあなたじゃなかったのね』
『とてもいい子だったから変だとは思っていたのよ』
呑気に母親が笑っている。
僕は夜中のうちに分裂した【僕】に突き立てた出刃包丁を抜き取り、大きな肉塊をゴミ袋に入れた。
いつからだろう、朝起きるとたまに【僕】がもう一人いる。
そのまま放っておいたら、、きっと入れ替わられてしまうのだろう、、
出刃包丁を持ってウロつくのは僕の日課になった。
『きみちゃん、簡単に紐で縛るのってどうやるの?』
珍しく機嫌が良かった僕は母親に輪っかを作りそこに(こう紐を通す)と簡単だ、、と教えてやった。
ある日とても爽やかな朝で寝過ごしてしまった。
目覚めはいいが、手足がベッドのフレームに縛られて自由がきかない。
『クソババア、何だこれは!早く外せ!』
《トンッ トンッ トンッ トンッ》
僕の大声に気づいた母親が階段を登り僕の部屋にやってきた。
『あら!きみちゃん起きたの?』
相変わらず母親は呑気に笑っている。
『今日の子、手伝いもしてくれるし肩も揉んでくれるのよ。』
『さっき一緒にお外も散歩したの!』
凄く嬉しそうに喋っている。
『笑顔も可愛い・・・』
『五月蝿せぃー早く外せ!ババア』
言葉を遮られて一瞬表情が曇ったが、すぐに母親は『分かったわ』と部屋を出て階段を下りて行った。
《 トンッ トンッ トンッ トンッ 》
どれだけ時間がたったのか、、ゆっくりと階段を登ってくる足音が聞こえる。
(早くしろよ、クソババア)心の中で悪態をつき、早く母親の現れるのを待つ。
《ギィ〜》白いドアが動きだす。
そしてゆっくりゆっくりドアが開いた。
『あっ・・・・・・・・』
開いたドアから現れたのは笑顔で出刃包丁とゴミ袋を持った、、、、、、