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地獄で鬼でいる事だから(短編小説)

『お〜い、マル虫マル虫〜や〜い』

太っていて愚鈍の私は小さな頃から苛められていた。

それは大人になってからも同じ、、

『おはようございます。』

『•  •  •  •  •  • 』

私に挨拶を返す人はいない。

でもどんなに苛められても、どんなに理不尽な思いをしても私は私の道【品行方正】を貫いた。

結局、多くの人が私を苛め嗤い、そして疎まれながら一生を終えた。

人生を終えたその瞬間から、、フワフワと、、まるで重力の枷から解き放たれた様な、、不思議な感覚が私に訪れた。

フワフワ  フワフワと空中を漂い、上昇していく。

いつしか雲の様な、、霧の、、いや霞に包まれた様な空間にまで上昇していた。

霞の向こうには大きな人影?が見えて、だんだんはっきりと認識できるレベルにまで近づいてきた。

『長い人生をご苦労様でした。私はヤマラージャと申します。黄泉の道案内をしています。』

とっても優しく物腰の柔らかい、そんな口調でヤマラージャは私に話しかけてきた。

『とっても素晴らしく正しい人生だったのですね、、勿論あなたの行き先は天国になりますよ!』

ヤマラージャは優しく、でも凛とした響き渡る声で天国行きを告げた。

『あの〜、、地獄に行っちゃぁいけないですか?あのぅ、あのぅ、、鬼になってですけど、、』

私は一生で一番勇気を出して、、一生は終わっているんだけど、、、ヤマラージャに向かって声を絞りだした。

ヤマラージャは一瞬戸惑った表情をしたものの、

『いいですよ!地獄の鬼になって下さい。』

とあっさり受け入れてくれた。


次に気がついた時は血の池地獄のほとりだった。

大きな身体の赤鬼になっていた。

毎日毎日亡者を血の池地獄で責め立てていた。

ある日見覚えのある亡者がやって来た。

『あら、、お久しぶり、、』

生前、私を苛めていたT先輩だった。

T先輩は一瞬ギョッとしたものの、私に弱みは見せたくないのかプイッと向こうを向いてしまった。

そんな先輩を赤く波立つ血の池に押し沈めた。

『ぷはぁ、、ゴボッ、ゲッフ、』

『た、、、助け、、て、、』

『ゴボッ ゴボッ』

また暫くして今度はHさんが送られてきた。

『あら、、お久しぶり、、』

『ゴフッ ゲボッ』

ある時はNKさん、またある時はDGさん、、

生前にお馴染みの人々が次々に送られてきた。

ある日私をずっと無視していたYSさんが送られてきた。

私は無視されると思いながら、、

『こんにちは、、YSさん。』

と声をかけた。

『あっ!M Nさん、、』

意外にもYSさんは私を無視しないで反応した。

『M Nさん、、生前は無視してごめんなさい。無視しないと私が苛められると脅されて、、』

『私、、抗えなかった。弱虫だった。ずっと後悔していたの、、今日ここで会えて本当によかった、、ごめんなさい。ごめんなさい。』

YSさんは頭を下げて私に謝り続けた。

、、、、、、あっぁぁぁぁ

心とは裏腹に鬼の私はYSさんを血の池地獄に沈めだした。

(なに?身体が勝手に、、やめて、やめて、やめて、やめて、、)

『ゴボッ ゲボッ うっ ぅっ ゲボッ』

YSさんは溺れ死ぬ事も出来ず、溺れ苦しみ続けている。

『ヤマラージャ ヤマラージャ お願い、、私を鬼の仕事から解放して頂けないでしょうか?』

血の池地獄の赤い空がぱっくりと割れてヤマラージャが姿を表した。

『それは出来ません。あなたは(もう)地獄に落ちたのですから、、』

以前と同じく、優しくも凛とした声が地獄に響き渡った。

『私は地獄に落ちたのですか?』

『そうですよ!あなたは地獄に落ちているのです。』

(そうだったのか、、、じゃぁ、、せめて、、)

『私も鬼から亡者にして貰えないでしょうか?』

『それは無理です。』

『あなたにとっての地獄、、それは【地獄で鬼でいる事】なのですから、、』



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