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バーチャル空間で建築見学!─メタボリズム・クオンタイズド ~旧都城市民会館3D Digital Archive~ワークショップレポート

菊竹建築設計事務所が設計し、1966年に竣工した旧都城市民会館。
老朽化などを理由に、惜しむらくは昨年解体されてしまった本建物ですが、有志によって実測が行われデジタルアーカイブとして残されています(経緯は下記のnoteに詳しく書きました)。

本プロジェクトは第23回文化庁メディア芸術祭(以下、メ芸)のエンターテインメント部門審査で委員会推薦作品に選ばれるなど一定の評価も得た、これからのデジタルアーカイブ活用において先見的なプロジェクトと言えるでしょう。

この度、デジタルアーカイブがVRChat上に公開、計測メンバーが集まり、バーチャル建築見学ワークショップが開催されると聞き、参加してきました。
その模様を写真で簡単にレポートします!

バーチャル都城市民会館ワールドに全国から集合!

本ワークショップはメ芸の会場からの現地(?)参加と遠隔参加でのイベントとなりました。私は遠隔で自宅から参加しました。バーチャル都城市民会館に入る前にまずは説明用の部屋に集合。

プロジェクトの中心メンバーである豊田啓介さん(建築家/gluon/noiz/東京大学生産技術研究所客員教授)はリアルアバターで参加!
基底現実でも同じ腕時計をつけていたらしく、リアルアバターは奇妙な同期感があるとか。リアルアバターはまだ勇気がいる。

集合場所には旧都城市民会館で使われていた椅子がフォトグラメトリされ、置かれています。この椅子には座れたりもしちゃいます(豊田さんめり込んでる)。
右はプロジェクトの中心メンバーである金田充弘さん(構造エンジニア/gluon/東京芸術大学美術学部建築科准教授)。奥にいるのは、このバーチャル都城市民会館ワールド制作者の藤原龍さん(Photogrammetrist /ホロラボ)です。

今回のワークショップでは、AFKアバター(途中でアバターチェンジ)を着た、旧都城市民会館デジタルアーカイブプロジェクトの立役者でもある瀬賀未久さん(ディレクター/gluon)の案内で進行しました。
ちなみに右のアバターはプロジェクトメンバーの長坂匡幸さん(CGデザイナー)。今回のために新しくアバターをつくったそうです...!
哀愁ある後姿の猫は大隣昭作さん(福岡大学工学部社会デザイン工学科)。

まずはバーチャル都城市民会館のミニチュアを前に、今回の計測方法などが解説されました。みんなでわちゃわちゃの三密です。

ミニチュア越しに。精度がすごいです。

部屋を進んでいくと、今度は実寸大のバーチャル都城市民会館の建物側面が現れます。

バーチャル都城市民会館の外殻構造は非常に登りやすいので、バーチャル空間だと軽率に登りがちです。

豊田さんもしっかり登ってました。

次の部屋へ進むと、今度は上空からバーチャル都城市民会館を望むことができます。建物の周囲の様子も分かりやすいです。

みんなでのぞき込む。

バーチャル都城市民会館の中へ!

説明を聞きながら進んでいき、いよいよバーチャル都城市民会館の内部へと進んでいきます。

内部へ入ると、まずはエントランスロビーへ。

壁画もしっかりと記録されています。受付係風の金田さん、大隣さん。

リアルアバターだと奇妙な一体感 笑

ここで龍さんから、バーチャル都城市民会館に実装されたギミックについての解説。
バーチャル都城市民会館の各所に設置されたクリスタルに触ると、基底現実での旧都城市民会館の思い出が綴られた「記憶の器」が現れます。こちらはFacebookで公開されていたプロジェクトの投稿がバーチャル都城市民会館内で場所を同期させて配置されています。

実測データという「客観的な」情報だけでなく、人びとの思い出という「主観的な」情報が合わせて見ることができるのも興味深いですね。

次はホールへと向かいます。

ホールもそのダイナミックな空間の雰囲気が再現されています。
実測した当時で、すでに使われていなかったため、豊田さんがここに入って思わず「黴臭さを思い出した!」とコメント。

ここで龍さんから当日の撮影方法についての解説。
客席などを隈なく撮影するため、どのような撮り方をしたのかなど説明されました。

金田さん(左)からはこの建築の特徴である、緞帳のしまわれ方などの解説もありました。

天井裏もしっかりと計測されています。ただし暗闇であったため、色情報は取得するのが困難で、白黒の空間となっています。とはいえ、その設えの様子は十分に分かります。

計測当時は腐っていて踏み抜きそうだったキャットウォークもバーチャルであれば走り抜けることができますね。

天井裏の小部屋からはステージの様子を見ることができ、そこから照明を照らしていたことも教えてもらいました。

また、ホール奥の楽屋などが入るバックヤードも案内してもらいました。ここは後年に増築された場所であるらしく、そのほかの部分よりはきれいに残っていたそうです。

楽屋。ポリゴン数は落とされていますが、十分に雰囲気は分かります。

用具室。ここもきれいに用具が残されていたらしく、市が最後までなにかに活用できないか模索していたことが伝わってきたとのこと。

屋根上に登りがちのバーチャル建築見学

ここからはバーチャル建築見学独自の、基底現実ではありえないルートを通っていきます。

裏口の屋根を利用した裏ルートを通っていきます。

屋根上へ!

登るのに苦戦する場面も。

そのままホール部分の屋根を登っていきます...!

そのままホール屋根の上で見学が始まります。
むき出しの構造体を目の前に、金田さん・豊田さんから、本来はこの建っている場所が天井で、もう一枚外皮が必要なはずで、コストがなかったからと言って、むき出しの構造体をそのまま実現してしまうところにすごみがあるとの説明。また、大量生産時代の前に竣工したこの建築にはオリジナルのディテールがたくさんあって、それを実現できる職人が多くいたから、この建築ができたのだろうと解説します。

そのまま、次の場所へ向かいますが...

屋根から飛び降りでの移動となります。
豊田さんからはバーチャル空間上での飛び降りに慣れると、基底現実でもしちゃいそうになるから気を付けてくださいなんて注意も。

無事に飛び降りれるか見守る一同の図。
屋根を飛び降りた後は、建物の周辺を巡っていきます。

敷地内の庭園もしっかりと再現されています。

特徴的な外階段の様子も。

建物正面の柱は樋と一体となっています。

計測日は大雨で滝のように水が流れていたとか...
苔むした雰囲気も分かりますね。

計測メンバーの車の跡。

建物の全景が一番分かりやすく見えるスポットへ。参加者からの感想などが話されました。

青空と一緒に見ると、感覚がバグりますね...

アーカイブだけでなくアクティベートへ

最期はホールに移動して、プロジェクトメンバーから今回のプロジェクトについて一言。
今回の試みは実験的なもので、なにができるのか模索しながらだったものだったこと、そして、アーカイブするだけではなく、本イベントのように積極的に活用して、アクティベートしていくことを考えたいと話されていました。

今回はなくなってしまう建物のデジタルアーカイブでしたが、一般的な建物のデジタルアーカイブを残すことによって、このようなバーチャル建築見学を実現できます。簡易に訪れることができる、このバーチャル空間で体験した後に現地に行くとよりディテールが分かってくるなんてこともあるかもしれません。
デジタルアーカイブは残すだけではなく積極的に活用していくことでその価値をどんどん発見できるものなのではないか、ということを考えさせられるイベントとなりました。

このバーチャル都城市民会館はVRChatでいつでも行くことができるので、環境が整っている人はぜひ行ってみてください。(ID:hukukozy でフレンド飛ばしていただいて、お声がけ、タイミング合えばご一緒します!)

おまけ

会場組はイベント終了後、魂が抜けたままアバターが残されていました(遠隔組はリアル会場から聞こえる楽しそうな声をうらやましげに聞いてましたとさ)。

サポートして頂いたものは書籍購入などにあて,学びをアウトプットしていきたいと思います!