【小さな物語】天使たちの創作
子供の天使は、この日、初めて自分で世界を創ってみることになっていた。
「お父さんの世界は、幸せじゃない人ばっかりで、苦しそうな人ばかり。絶対僕の方が上手に世界を創れるよ」
彼は意気込んで世界を創り始めた。
「みんなが幸せになれるように、苦しみの感情は入れないでおこう。怒りも、悲しみもいらないよ。楽しみと、喜びと幸せをたっぷり感じられるようにしておこう」
天使たちは、自然の中に、思い思いに人類を創り出せる。
「幸せの感じ方がみんな違うと幸せの要素を色々作らないといけないから、同じことで幸せを感じるようにしておこう。もう、みんなの考えを同じにしちゃえ」
彼はみるみるうちに小さな世界を創り上げた。
「お父さん、見て見て!僕の世界を創れたよ!すごくハッピーな世界だ。すぐにお父さんの世界よりも大きくなるに違いないよ」
しかし、彼の思う通りにはならなかった。
彼の作る世界では、人類はすぐに滅びてしまった。
何度やっても、同じ結果だった。
最初はめげずにやり直していた彼も、とうとう父に泣きついた。
「お父さん、なんで僕の世界はすぐに滅びてしまうの?」
父は彼の頭を撫でながら答えた。
「みんなが幸せしか感じないようにしているからだよ」
「でも、不幸な人ばかりの世界なんて、大きくなってもしょうがないじゃないか」
「お前には、全ての人がどの瞬間も不幸に見えるかい?」
父にそう尋ねられた彼は、注意深く父の創った世界を観察した。
不幸そうな人もいれば、幸せそうな人もいた。
さっきは不幸そうに見えたのに、いつの間にか幸せそうにしている人もいる。
苦しそうに生きながら、ところどころで喜びを噛み締めている人もいる。
「ころころ気持ちが変わって変なの。お父さん、なぜこんなに色々な感情を創ったの?」
「人類というのは、楽をしたがるものなのだ。だから、幸せや喜びしか感じられないようでは、自ら生活を作っていく気になれないんだよ。楽しく遊んで、いつの間にか滅びてしまうんだ。自分達で食料を手に入れたり、危険から身を守ったりするには、一見悪い感情も入れなければならない」
それでも彼は納得がいかない。
「でもさ、もうお父さんの世界はある程度食料もあるし、大きな危険もないじゃない。悪い感情はいらないと思うけどなあ。しかも、特に悪い感情を多く持っている人もいるじゃない?不公平だよね。これじゃあ、かわいそうだよ」
「一見悪いように見える感情も、いいところもあるものなんだよ。例えば、恐怖を多く抱きやすい人がいなければ、先回りして危険から身を守れない。特別傷つきやすい人がいなければ、傷ついた人を癒せる人がいなくなってしまう。一見悪い感情は、人類が自ら生きられるようにするために必要で、特に多くそういう感情を持つ人は、天使の送り込んだ使者みたいなものなんだ。彼らには、人類を長く繁栄させるために、特別な使命を与えている。もちろん、その負担は大きい。生きるのが苦しいだろう。だけど、彼らは人類にとって必要で、その分、彼らの感じられる幸せは、他の人たちよりも大きく、上質なものにしているんだよ」
彼は、もう一度父の創った世界を見た。
苦しそうに生きていた人が、ふとした瞬間にとびきりの笑顔を浮かべていた。
落ち込んでいた人が、多くの人を落ち込みから救い、優しい笑みを浮かべている。
傷つきやすい人が、多くの人の心を助け、心からの繋がりを得ている。
彼は、もう一度、自分の世界を創り始めた。
今度は、一人一人に違う性格と感情を与え、一見して悪いような感情も組み込んだ。
そして、彼は自分だけの世界にするために、特別苦しみを感じやすい性格を与えた人には、人生のどこかで一つのメッセージに出会うようにしかけた。
「あなたは天使の使者です」と。