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石田屋二左衛門/水野 直人(黒龍酒造 8代目蔵元)

飲食店開業のキーマンとなる方にインタビューする「つなぐ人」。福井県での開業準備で心がけることや土地ならではの魅力について、さまざまな分野の方に教わります。今回ご紹介する水野直人さんは、200年以上の歴史を誇る福井の銘酒「黒龍」「九頭竜」を手がける8代目蔵元。酒の製造・販売にとどまらず、福井の生産者や料理人、職人をつなぐ取り組みも精力的に行っています。2022年6月には永平寺町に酒蔵観光施設「ESHIKOTO」が誕生。水野さんが描く福井の酒と食のこれからについて伺いました。

水野直人さん(福井県永平寺町)/黒龍酒造/石田屋二左衛門
福井県出身。東京農業大学醸造学科卒業後、協和発酵での勤務を経て1990年黒龍酒造に入社。2005年代表取締役に就任。2022年6月には永平寺町浄法寺地区にある約10万平方メートルの敷地に小売店・レストランとスパークリング日本酒や酒約6万本を貯蔵できるセラーを備えた「ESHIKOTO」をオープンした。
黒龍酒造HP

プロフィール

1.世界のワイナリーを巡り感じた「酒を通じた交流」の素晴らしさ

黒龍酒造は1804(文化元)年から続く酒蔵です。永平寺のお膝元でもあるこの地域で200年以上にわたり手造りの酒造りを継承しています。私は8代目で、大学卒業後サラリーマンを経て1990年に福井に戻ってきました。

良水に恵まれていたことから、かつての松岡藩が酒造りを奨励し、産業に発展

先代の父はいかに酒の付加価値を高めるかを考えていて、ワインの「熟成」からヒントを得て日本酒にも取り入れようとしていたようです。そんな父の姿を見ていて私もワインに興味を持ち、20代後半に海外のワイナリーを巡りました。フランスを訪れた時は1日に2〜3箇所、南フランスからパリまで北上しながら15、6軒くらい回りましたね。我々が住む永平寺よりもっと田舎町なのにも関わらず、世界中からワインラバーと呼ばれる人たちが訪れ、その土地の風土や食・人との出会いを楽しんでいるんです。ワイナリーごとに規模や考え方は異なるものの、生産者たちのプレゼンテーションの素晴らしさに感銘を受けました。

酒を通して国境の壁を超え、世界中の人が笑顔になり交流する様子に感動したと語る水野さん

我々日本酒の世界では、いい酒を作って感動させることには力を注ぐものの、自分たちの場所を感動させることについては、真剣に取り組んでこなかったように思います。ワインの世界にできて僕らにできないわけがない。そこで、帰国後は酒と関わりの深い「食」に携わる方たちとの親交を深めていきました。あのワイナリーで見た景色のように、永平寺町で福井の自然を感じていただきながら、福井の生産者や製造者、そして料理人や職人がつながり、交流が生まれ、刺激しあえる場ができないだろうか。そんな思いから、「ESHIKOTO」を立ち上げました。

ESHIKOTO内の建物の一つ「酒楽(しゅらく)棟」にはレストラン「acoya」、
特別限定酒を揃えたショップ「石田屋」が並ぶ
日本酒ならではの並行複発酵を経て作られる新しいスパークリング日本酒「ESHIKOTO AWA」
イギリスの建築家サイモン・コンドル氏が設計した「臥龍(がりゅう)棟」は教会のような佇まい。約8千本のスパークリング日本酒の貯蔵庫が設置されている。※通常は一般非公開

2.福井の食材を育んできた「水の力」

「ESHIKOTO」は約10年の構想を経て誕生しましたが、そのきっかけになったのは、九頭竜川が見渡せるこの場所との出会いでした。私たちの酒造りは、福井と岐阜の県境を源とした九頭竜川の水があってこそ成り立っています。白山山系の豊かな雪解け水が流れ込むこの川はかつて“暴れ川”の異名を持っていましたが、多くの恵みを一帯にもたらしてきました。まさに私たちの酒造りの風土が感じられるこの景色に惚れ込んだのです。

永平寺町と勝山市をつなぐ「鮎街道」はドライブにも最適。車で走ると雄大な九頭竜川の流れを感じることができる

酒造りだけでなく福井の食にとっても、「水」の力は大きいと思っています。九頭竜川は山から日本海に流れ込むため、米や野菜はもちろん、魚介にも大きな影響を与えているんですよ。例えば日本海側では石川は「加納がに」、鳥取では「松葉がに」と名前は違うものの同じズワイガニが獲れます。でも、福井の「越前がに」はその中でも皇室に献上されるほど美味しいと言われている。おそらく山から注ぎ込むミネラル分などが美味しさを育む要因の一つになっているのではないかと思っています。

3.求められるのはプレゼン力と人間力

福井の食材の素晴らしさはお墨付き。近所の畑で手に入る朝獲れの野菜やお店やスーパーで並ぶ魚など、普段から食べているものが当たり前のように美味しいのですから、とても恵まれている環境だと思います。それらの食材を使い、美味しい料理を作るのは料理人として生き残るために当然のこと。しかし、県外や海外の人に福井を楽しんでいただくためには、外からの目線で福井を知り、その魅力を表現することが重要です。

これから福井県で開業する方に求められるものは、料理人としての技術に加え、プレゼンする力と、わざわざ会いに行きたくなるような人間力ではないでしょうか。

福井ガストロノミー協会名誉顧問の門上武司氏(右)と福井の食のこれからについて語る

そのためには、会話や笑顔、ふるまいなど、お客様を楽しませるおもてなしの心が大切です。例えば魚一つとっても、ただ料理を出すだけではなく「福井ではこの時期のマグロが日本海を回遊するので美味しいんですよ」と、料理人のこだわりやプロならではの視点を一言添えられただけで、その時期が来たら福井に行って食べてみようと思いますよね。内にいるばかりでは何が魅力なのかがわからず、視野が狭くなりがち。だからこそ、いろんな人との交流を通して気づきを得ることが必要だと感じています。

「ESHIKOTO」も北陸新幹線延伸に向けて今後はオーベルジュの建設を予定しており、今まで以上に料理人や伝統工芸の職人、生産者など多くの方が関わりながら刺激を与え合える空間を作る予定です。私の代で終わるプロジェクトではなく、来るたびに新しい変化や発見がある。ESHIKOTOを反対から読むと、「とこしえ」になるように、まさに永遠に続くプロジェクトとして、福井はもとより北陸全体を盛り上げていきたいと思っています。

「あの人のサービスを受けたい」「あの人に会いたいから食べに行く」、そんな料理人がこの地で増えていくことを期待しています。(取材日:2022年10月/石原藍)

つなぐ人ーアーカイブ
株式会社やまよ/廣瀬義徳さん(漆器屋)
ラ メゾン ドゥ グラシアニ 神戸北野/土肥秀幸さん(フランス料理)
御料理 一燈/倉橋紀宏さん(日本料理)
Restaurant cadre/濱屋拓巳さん(フランス料理)
むつのはな/五十嵐美雪さん(日本料理)
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杉原商店/杉原吉直さん(越前和紙の問屋)
奥井海生堂/奥井 隆さん(老舗昆布店)
福井県農林水産部/橋本大樹さん
福井県地域戦略部/門 広幸さん
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石田屋二左衛門/水野 直人(黒龍酒造 8代目蔵元)
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福井県産業労働部/前 宗徳さん
料理人・友本尚兵/チャレンジキッチン

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https://note.com/fukuikensyoufuku/n/nadbfc8e662d2

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