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びっくり名作!広がりのあるラスト『おろかもの』ネタバレあり

おろかもの(2019年製作の映画)
Me & My Brother’s Mistress上映日:2020年11月20日製作国:日本上映時間:96分

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めっちゃ面白いし、めっちゃ感動しまして、


役それぞれの深みがすごいし、話の展開も終わり方もすごい。。

上映後のトークイベントを聞いたり、パンフ読んだり、インタビュー動画見たりしたら
ちゃんとした考えと手間があってこそ、この素晴らしい映画が作られたことがわかりましたよ。

ちゃんとした意思があって、ちゃんと考えられていて、愛情を注がれた映画。
そしてそれが観客にも伝わるという、なんという幸せな映画なのでしょうか。。


明確な悪役を作らない


明確な悪役を作らないってのは『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』と同じテーマですよ。

しかも『おろかもの』を撮影したのは2年半前ってことなのにで『ブックスマート 』より早いっ!

あと、
「矛盾してもいいんだよ」という芳賀監督のメッセージも当たり前なんだけど嬉しい。
がんじがらめにされやすい現代社会において、特に若者を生きやすくするメッセージだと思います。


自由に開かれた展開


序盤は説明過多だなぁと思っていたのですが
話が進むにつれて、どんどん研ぎ澄まされていくし、キャラが面白くなっていくし、キャラ同士の掛け合いによってそれぞれのキャラがさらに魅力的になっていくし、

まぁラストですよ。
ベタベタコンテストで1位取れるくらいのベタなシチュエーションだけど
一回も観たことない展開。。。

『おろかもの』というタイトルから、このあらすじから、想像もできなかったほどに自由に開かれた展開。。

ギューっと縮こまっていた体がパーっと開く感じ。

世界も俺もこんなにも自由なんだったか!と思わせてくれる映画。

まさかこんな感想になると思いませんでしたよ、タイトルからして。。やりやがったな!


不倫相手、深津美沙


どうすれば登場人物全員があんなにも自由に動けて、
しかも機能しているという状態になれるんだろう。。

一番難しいのは、深津美沙ですよね。アイジンさん。

単純に言えば、女の敵なハズ。
「女の敵」にも十二分になれるほどの美貌だしスタイルだし前髪の立ち上がりだし。
敵(悪者)としての魅力もなきゃいけないし
友達になりたい相手にもならなきゃいけない。
同情や可哀想だけじゃなくて、強さやしたたかさを見せなきゃいけないと思うし。

ちゃんと人物として、これだけの振り幅を持ってる人間を演じられるって、ほんとどういうことなの。。

クズ男を引き止めるときに言う「やだ、やだ」はほんと泣けましたね。。

  


妹、高城洋子


高城洋子は探偵役ですから、観客はこの人に乗らなきゃいけない。
この人の視点でこの物語を観させられる。

この人がいかに信頼に足る人物で、しかも余白のある人物なのかが重要。

ミステリーならば「信頼できない語り部」ってのもありえるけど
これだけ繊細で自由な人間ドラマの場合、「真面目」「真っ当」な人物でないと難しい。

だからこそあのラストでの、洋子ちゃんの動きが感動をさせるわけですね。
あの飛躍。飛翔。
真面目でちゃんとしてる洋子ちゃんが、真面目でちゃんとしつつも、立ち上がって……。(泣)



婚約者、果歩

果歩はキャスティングが最っっっっっっっっっ高でした。

思い返してみれば、この役は台本の中では「都合のいい役」だったかもしれない。
主要人物の中では出番もセリフも少ないし、「よくできた凡庸な人」のくせに、一番不可解な行動しますからね。

演出や演技によっては
話の展開に必要な言動をその都度取らされるだけの一貫性のない人物になっていたかもしれない。

猫目はちさんの魅力ですね。。
強力な人間力で、短い出演時間だけど多くの観客は「この人、私だ」って思ったことでしょう。

***


クズ男、健治


北川悠仁をお湯でふやかしたような見た目。

健治を単純な「悪役」にしない、という監督の意思が最初からあったとのこと。
演技では出せない「憎めない感」を包含してるイワゴウサトシさんがキャスティングされたと。

あのフワフワ感、ヌルヌル感、空っぽ感、それでいてそんなにはイライラさせない感。素晴らしかったですね。。

洋子ちゃんによる右胸へのグーパンチはなかなか強烈でよくやった!と思いましたけど、
あれは一発じゃ足りないですね。花を投げつけるだけじゃ足りないですね。
柄杓で脛を殴って欲しかった。


この映画の仕上がりは偶然ではない

パンフレットを読むと、この映画の仕上がりが偶然ではないことがわかります。

ちゃんと俳優を見て、脚本を書き換えたり、役の関係を変えたりしていたようです。

これはものすごく高度なことだと思いますし、この映画に対する愛情、熱量を感じますし、それはまた俳優に還元されるものでしょうし、結果、これら全ては観客に伝わって、胸に残る、というよりはこの映画の場合は、ほんとに「広がる」ってことですね。

しつこいけど、あんなにも広がりのあるラストが成立するなんて。。


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ネタバレは以下に。






ラスト。結婚式。
健治と果歩が神父の前に立っている。

洋子も参列している。美沙が乗り込んでるんじゃないかと気が気じゃない。

バーンと扉が開いて美沙登場。赤いドレス。

健治、動けない。

果歩、健治の前に無言で移動。美沙の前に立ちはだかる。

ここでの美沙と果歩の信頼関係が良い。
美沙と果歩は敵同士ではない。

果歩は美沙の間違いを正したいけど
言葉を使ってしまったらやりすぎてしまう。
自分で自分を制して欲しい。
だからただただ果歩は健治の前に立つ。
「これより先は行かせないよ」と首を横に振る。

美沙も果歩が憎いわけではない。
自分よりも強い意志で健治の前にたちはだかる果歩を見て、自分の弱さを知っただろうし、果歩の優しさも知った。

で、これ、、どうすんの???とみんな思っていた時に

洋子が立ち上がり、美沙の手を取って走る。「行こう」
ドアを開け、二人とも振り返り、笑顔。ドアから消えていく。

果歩も笑顔で健治を見る。健治、呆然。


健治の先輩である宗介が美沙と果歩に感動して、泣きながら拍手を送る。
しかし他の参列者はしら〜っとしている。「あ、違った」みたいな感じで小さくなって座る宗介。

美沙の行為は全然褒められて行為ではない、と言う冷静な視点も素晴らしい。


美沙も果歩、走る。あんなピンヒールでよく走れるもんだ。

息が切れて立ち止まる2人。

美沙「洋子ちゃん、お腹すいた」

洋子「何食べます?」

美沙「中華」

洋子「中華行きましょう」

手を繋いだまま、2人去っていく。


終わり。


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「恋愛ドラマ」や「男性」に奉仕しない女性像でしたね。
脚本の沼田真隆さんがこの辺りのことを相当意識をして書いたようです。

(深田晃司監督『本気のしるし』は逆に〝青年漫画に出てくる女性キャラ〟が実在したら?という映画でしたね)

まず、この話のスタートとラストだけ決まっていたそうです。
結婚式で、兄の不倫相手と妹が手を取り合って走り出す、という、あのラストは最初からあったと。

その間を埋めて映画が撮られたと。

で、さらに撮影中にキャスト同士(兄の結婚相手と不倫相手。村田唯さんと猫目はちさん)がリアルに仲が良くなっていったので、それで脚本を直していった、と。

それだけちゃんと俳優を見てるのもすごいし、
「この感じこの映画に合ってる!」って判断できるのもすごいし、
監督と脚本家で3人もいるのに、この機動力がすごい。。

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あと、明らかな悪者を作りたくなかった、ともおっしゃれまして。

単純に考えれば今回の悪役は「美沙」だったはずですけど
観客は彼女が出現して早い段階で彼女を「悪」だと見なくなったはす。

その流れが上手いし、まぁ村田唯さんの演技ですよね。。
エロさや危うさもあってファムファタル感も溢れてるのに、同時に友達になりたい感もあった。


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「悪役を作らない」ということで言うと
新時代の名作青春映画『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』と同じですね。

『おろかもの』は2年半前に撮ったらしいので、『おろかもの』の方が先んじている!

『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』の監督、オリヴィア・ワイルドがインタビューでこう答えています。

「悪役を登場させ続ければ、観客はどんな物語にも悪人がいるんだと思い込んでしまう。
そうすると、人生においても絶対どこかに悪人がいると考えてしまうと思います。

初めて観る人は本作でも、誰が悪人なんだろうと探しているんですよね。
それが興味深いです。

モリーが経験するのと同様に、トイレのシーンでも誰かが意地悪なんじゃないか、だから自分を守らなきゃいけないみたいに思ってしまうかもしれないけど、みんなそれぞれ自分の人生を生きるのに必死で、彼女に対抗する敵はいないのです。
なので、もう少しみんなリラックスして、自分を他から守らなきゃいけないという気持ちを緩めることができれば、いろんなチャンスが生まれてくると思います」

(https://i-d.vice.com/jp/article/935m3v/interviewbooksmart-olivia-wilde-interview)


現実社会で行われている「悪者探し」を助長させない映画。
これを意識して作られていたんですね。

『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』には素晴らしい点がいっぱいありますけど、この点にはほんとに感動してしまいました。

すげえなぁなんて思ってましたけど『おろかもの』でもやってるじゃないっっっっ!
ありがとう!
『おろかもの』!!!!


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僕はこの映画から百合っぽいものはあまり感じませんでした。

途中で小梅が「2人の百合感良かったのに」的なことをハッキリ言ってるんで、その風味もあるとは思いますが。

「百合」と決めてしまうより、その辺も曖昧にして、とにかく自由に開かれたラスト、関係、というのがこの映画の魅力かなと思いました。


これを男女逆転させて、ラスト男性2人が手を握って走り去っていったら、どうしようもなく薔薇感は出ますね。

女性2人が手を繋ぐってのはライトですけど、
男性2人が手を繋ぐってのはちょいとヘビーに映りますね。

ここにも性差がありますね。。

いずれ男女逆転バージョンの映画も見てみたいです。
そして「あんま薔薇感感じなかったなぁ」って思える時代が来て欲しいです。


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