以前介護が必要になる原因やその予防について書きました。
2022年に厚生労働省が発表したデータでは2019年から大きく変化してはいませんが、やはり認知症、脳血管障害、転倒骨折というものが上位にあります。
理学療法士として気になるものは3位にある『骨折・転倒』です。
理由としては認知症、脳血管障害、高齢による衰弱、関節疾患、パーキンソン病など上位にあるものほとんどに関連するからです。
認知症による転倒、脳血管障害により麻痺などの後遺症があり転倒、高齢により体力が低下することによる転倒、パーキンソン病によりバランス能力が低下したことによる転倒。
高齢になればなるほど、転倒という危険性は高くなりますが、病気が重なるとその可能性は高くなります。
そのため今回は転倒を予防するための知識として、バランスについて勉強していきたいと思います。
バランスという言葉の定義は曖昧な部分が多いですが、転倒という話をする場合のバランスは、身体の重心が制御され、安定していて、転倒しない状態ということになります。
バランス能力が低下すると転倒しやすい状態になります。
そしてそのバランス能力が低下する要因として
①平衡機能
②運動能力
③感覚機能
④認知機能
⑤環境
とうものがあります。
これらのどれかが欠けるだけでも転倒の危険性は高まります。
一般的に運動機能や平衡機能は関連がわかりやすいと思いますが、転倒の原因として大きなウエイトを占めているものが感覚機能と認知機能です。
特に感覚機能には触っているかどうかを知る表在感覚や関節がどのくらい曲がっているかなどを感知する深部感覚というものがあります。
これらの機能が低下すると、自分の身体がどのような状態になっているのかを感じることができないため、バランスを崩したり、バランスを崩した時に元に戻す動きが遅れる原因になります。
これらの機能は加齢により徐々に機能が落ちてきますが、脳血管障害やパーキンソン病などで特に低下がみられます。
また認知機能では周囲の状況判断や身体の動かし方などの機能が低下するため転倒する場面や回避できない場面が増えてきます。
このように疾患や身体機能などあらゆる条件が重なって転倒の危険性は高まります。
転倒という現象は体を支えている範囲から、重心が外に飛び出すことで起こります。
2足で立っている場合の支持基底面は上の図の水色の範囲です。
その範囲の中に身体の重心が存在している場合は、バランスは保たれている状態です。
逆にこの赤の重心が水色の範囲から飛び出ると人はバランスを崩します。
そのため杖を使ってこの支持基底面の広さを広げるか、重心が外に出ないようにバランスのトレーニングをする必要があります。
これらのバランス能力を測定する検査として、当院の心臓リハビリテーションではSPPBというものを使用しています。
このように継ぎ足にした状態で立っていられるかを測定します。
また重心動揺検査を行い、重心がどの程度揺らいでいるかを検査しています。
心臓リハビリテーションを実施している患者さんの中にもバランス能力が低下しており、転倒の危険性が高い方がおられます。
そのような方に対しては、しっかり検査を行い、転倒しやすい原因をある程度絞って、治療に生かしています。
いかかでしょうか。
転ばぬ先は杖だけではなく、さまざまな要因を正確に把握し対処することだと思います。
当院は心臓リハビリテーションを主に実施していますが、当然心臓以外の疾患や能力の低下を来している方もおられます。
可能な限り心臓以外の症状がある方に対しても、積極的に運動療法を行っていただきたいと考えております。
そして転倒なく安定した生活を送れるよう、今後もサポートしていきたいと思っております。