ワクチン村Meiji Seikaファルマの皮算用
明治HDが抱える2つの製薬企業
明治HDがMeiji SeikaファルマとKMバイオロジクスの2つの製薬会社を傘下に抱える理由は、両社が異なる専門分野と強みを持っているためと表向きは言われています。Meiji Seikaファルマは主に医薬品やワクチンの製造・販売を行っており、特に感染症予防に強みを持っています。一方、KMバイオロジクスは動物用ワクチンや血液製剤の製造に特化しており、主に化血研(化学及血清療法研究所)の事業を引き継いでいます。
化血研では、血液製剤などを長年にわたり承認内容と異なる方法で製造していたことが2015年に判明し、厚労省の行政指導により化血研の血液製剤事業は血液製剤の生産が継続できなくなりました。結果として化血研は、KMバイオロジクスと一部Meiji Seikaファルマに分けられて2017年12月に事業の譲渡が行われました。KMバイオロジクスの出資比率は、明治グループが49%(明治HD29%、Meiji Seikaファルマ20%)、熊本県の企業グループが49%(えがおHD、学校法人君が淵学園、熊本放送、再春館製薬所、テレビ熊本、富田薬品、肥後銀行)、熊本県が2%。従業員の雇用と待遇の維持し、熊本県内取引業者と取引を維持することになりました。化血研の譲渡前(2016年度)の売上高は267億円、営業利益18億円、事業譲渡額は500億円でした。
当時化血研が製造していた製品には、日本では同社のみが製造、もしくは同社の国内シェアが最大で、代替品がない「シングルサプライ製品」(例えばヒト用A型肝炎ワクチンは日本唯一の製造メーカであり、その他ワクチンの多くのシェアを持っていた)が多数あり、出荷停止で供給がストップ、予防接種が行えない事態が発生し、社会問題となっていました。厚労省は事業譲渡による製品供給の継続を2016年~2017年にかけて模索した経緯があります。明治HD、Meiji Seikaファルマは火中の栗を拾い、厚労省に対して一つ貸しを作った形になります。
明治HDの業績および株価推移
この再建により、明治HDはワクチンや血液製剤の製造・販売を行う2つの企業を子会社に抱えて成長を期待してきました。ところが明治HDの事業は好業績を残せず、株価はこの十年低迷しています。
明治HDの2013年の株価は1,000円前後でした。その後「R-1」、「LG21」といった機能性ヨーグルトが大ヒットし、業績が一気に上向きました。これにより2013年以降に株価が大きく上昇し、2015~2016年は株価5,000円に達しました。2015年に時価総額1兆円を超え、この水準は食品業界では希少であったため当時は勝ち組と言われました。
ところが、続くヒット商品が生まれず不調に陥りました。明治HDの株価が2017年以降低迷している原因は、①化血研の事業引き継いだ医薬品・ワクチン事業の不調と②海外での食品関連事業の不振が主な要因になっています。
新型コロナワクチンの国産新規参入企業の一つである第一三共の株価がこの10年で数倍になっていることと比較してみると、明治HDの苦境は明らかです。
Meiji Seikaファルマ、KMバイオロジクスのワクチン事業
国内で販売されているワクチンとその取扱い会社の一覧を次に示します。
Meiji SeikaファルマおよびKMバイオロジクスは2024年7月現在、DPT-IPV-Hib五種混合ワクチン、DPT-IPV四種混合ワクチン、日本脳炎ワクチン、季節性インフルエンザワクチン、B型肝炎ワクチン、A型肝炎ワクチン、抗毒素の7種類を供給しています。
上記7種類の国内のワクチンを、Meiji SeikaファルマとKMバイオロジクスの2つの独立採算の企業が、申し合わせたように供給する構造になっているところに違和感があります。これは市場メカニズムではなくワクチン村での談合の証拠のように見えます。
Meiji Seikaファルマのコスタイベ筋注用承認
厚生労働省は2024年9月13日、Meiji Seika ファルマのオミクロン株JN.1系統対応の新型コロナワクチン・コスタイベ筋注用を一変承認しました(起源株対応ワクチンとして2023年11月に国内承認されていました)。Meiji Seikaは「1バイアル(16回接種分)のJN.1系統対応ワクチンとして、近日中に供給を開始する予定」としています。
このワクチンは自己増幅型mRNAワクチンで、レプリコンワクチンと呼ばれています。接種後に抗原タンパクをコードするmRNAが細胞内で複製され、持続的に抗原タンパクがつくられます。接種量が少なくても、ワクチンの効果が長く持続することが期待されています(効果と共に副反応も持続することが懸念されています)。
なお、海外では24年8月末時点で、日本以外に承認又は使用許可されている国又は地域はありません。
厚労省によるMeiji Seikaファルマからの借り返済
令和6年3月15日に厚労省が地方自治体の説明会で示した2024年度の新型コロナワクチン定期接種に関する助成金スキームは次のとおりであり、メーカに支払われるワクチン単価は11,560円と見積もられていました。
厚労省は助成事業予算を編成するため(もしくはメーカ側との間で事業計画を事前に調整するため、談合の形で)事前にワクチンメーカごとの供給量が(厚労省の資料の6ページに)設定されています。
厚労省はMeiji Seika ファルマのレプリコンワクチンの令和6年度の見込み供給量を約427万回としており、これによる売上見込み額(494億円:11,560円×427万回)が化血研の事業譲渡額(500億円)と見合っているのは単なる偶然の一致ではないだろうと思われます。
他方で厚生労働省は、ワクチンの国産化に対して開発補助を行ってきています。Meiji Seika ファルマのレプリコンワクチンの生産体制など緊急整備事業に対して2021年3月以降に73.3億円を補助しており、KMバイオロジクスの新型コロナとは異なる不活化ワクチンの生産体制等緊急整備事業に対して2021年3月以降に435.5億円を補助しています(この二つの補助は第一三共に対する補助とバランスしていると思われます)。
ワクチン村の親密な人事交流
国産ワクチン開発の必要性を表向きに厚生労働省が製薬会社に対する予算取りを行って補助していますが、その見返りが厚生労働省から製薬会社への天下り人事であることは公然の事実です。
平成22年9月3日時点でのメーカごとの在籍者数を示します。黄色下線を付けた部分が新型コロナワクチンの供給メーカですが、厚生労働省には現時点の調査をすぐに行って公表してもらいましょう。
2024年11月08日、福岡厚労相に高橋清隆氏(反ジャーナリスト)が、Meijiファルマから厚労省への受け入れ人事をスクープして質していました。内閣人事局の資料によれば、厚生労働省への民間企業からの出向者は2023年10月1日現在、124人に上るとのことでした。
おわりに
「取らぬ狸の皮算用」は示唆に富むことわざですが「ワクチン村Meiji Seikaファルマの皮算用」をエビデンスに基づいて記してみました。皮算用はしている時がいちばん楽しく、村人たちは今も変わらず村に籠って自分たちの懐具合や夢を語り合っているものと思われます。
ワクチン村の村人(Meiji Seikaファルマ)も厚労省と忠誠を誓い合って、皮算用の達成にまい進したかったようですが、お客様に商品が全く選択されないだけでなく、自らの社員(チームK)の良心との葛藤が暴露されました。さらにこの後、他の商品に対する不買運動が巻き起こり、本業にも大きな逆風になってしまうことでしょう。