長期経営計画のすすめ Ⅳ.長期経営計画の策定 11.組織計画をつくる
1. ケーススタディ
明智「本日の会議のアジェンダは組織計画です。先日の『Ⅳ 企業戦略_一次長期計画 9.長期要員計画をつくる』において、従業員人数や管理職の人数は計画しました。今回は組織計画、つまり長期経営計画のゴールである2030年度の組織図を描くといういうことであっていますか?」
前山「はい。これまで長期経営計画において、わが社が長期的に実現したい未来、およびその時の事業ポートフォリオ、そこへ到達する成長戦略、そして業績計画を策定してきました。どんどん長期経営計画に対するイメージが高まってきていますが、さらに具体化するために組織図を描きます。」
社長「確かに売上数値や戦略よりも組織図の方がイメージつきやすいかもしれないな。」
専務「現在は人材紹介の一つの事業で大都市のエリアごとに拠点を構える組織構造になっています。長期経営計画では2つの新規事業を計画しており、ビジネスモデルも異なることが予想されるので、組織が複雑になりそうですね。」
前山「事業ポートフォリオを再構築するということは、それらの事業を最適に運営する組織も再構築しなければいけません。今回の長期経営計画であれば、2025年度から2030年度まで6年間かけて、段階的に事業ポートフォリオが変化していきますので、組織も段階的に変化していきます。よって具体的には6年分の組織図を先につくるということになります。」
明智「今のわが社の組織は機能別組織なので、2030年にかけて事業別組織に移行していくイメージで合っていますか?」
前山「そのイメージに近しいです。事業別組織のデメリットである重複コストを見極めながら移行していくことが大切です。」
社長「3年後に計画している社長交代への対応も必要だね。」
専務「社長交代までの3年間は社長に既存事業を管掌してもらって、私は新規事業に注力したいと思っており、社長にも賛同してもらっています。」
前山「それはいいですね。未来の組織図を描くということは、トップマネジメントのポジションを明らかにすることにつながります。例えば、社長交代後の既存事業は誰が管掌するのか、新規事業が育てば専務に代わって誰が管掌するのか、企業規模が大きくなると管理部門の強化が求められるので、その責任者をどうするかなど、必要なポジションが見えてきます。」
専務「それらのポジションは今の社員を育てるか、採用するかの2つなるので、育成計画や採用計画と連動させないといけませんね。」
社長「3年で専務中心の経営体制に刷新する必要がある。丁寧に進めるべきテーマなので、3年かけて一緒に進めていこう。」
専務「よろしくお願いします。」
(この後も活発な議論が行われ、専務中心に2030年までの組織計画を決定した)
2. 組織計画のポイント
組織計画の一つ目のポイントは、事業ポートフォリオの変革を支える組織のイメージをクリアにすることです。長期経営計画の最終年度にあたる組織図がゴールになるのですが、長期経営計画は期間が5年〜10年間あるケースが多いので、ゴールの組織図だけでなく、ゴールに向けて段階的にどのように組織を変化させていくのか、毎期ごとや2年ごとの組織図を具体的に設計していきます。
組織を変化させていく上で代表的な組織構造は機能別組織と事業部制組織です。機能別組織のメリットは、各機能(部門)の専門性の向上や業務の標準化、人員の効率化が図れることです。デメリットは、機能(部門)を跨ぐ意思決定に時間がかかることやそれに伴う市場対応の遅れ、また部門間の連携が不足があります。
事業部制組織のメリットは、各事業部が独立採算制であるため、迅速な意思決定が可能のため市場の変化に柔軟に対応できること、また事業部間の競争が生まれ会社全体の活性化につながることや経営人材の育成が図れることです。デメリットは、各事業部が同じような機能を持つ場合、重複による無駄が生じること、事業部間の連携が不足し全体最適が阻害されることです。
一般的に企業規模と事業数が比例しますので、企業規模が小さく1つの事業の時には必然的に機能別組織になりますが、企業規模が大きくなり事業が複数になれば事業部制組織に変化していきます。
組織計画の二つ目のポイントは、トップマネジメントのポジションを明らかにすることです。組織図を描くことで各部門や事業部の責任者の数が決まってきます。事業部の責任者となれば経営者としての能力が求められます。すぐに責任者になれる人材が豊富にいる企業は少ないでしょう。そうなると既存社員を育成するか、即戦力の人材を採用するかになります。複数の候補者を部門の責任者や経営ができる人材に育成するには時間がかかりますし、即戦力採用の環境はどんどん厳しくなるでしょう。よって5~10年間かけてトップマネジメントを確保するための長期経営計画が重要になってきます。
組織計画の三つ目のポイントは事業承継、つまり社長交代の計画づくりです。5〜10年間にわたる長期経営計画ですので、その間に社長交代を検討するケースも出てくるでしょう。日本の中小企業の経営者の年齢は年々高まっており、後継者が決まっていない企業が多くあります。ケーススタディでも社長交代について議論がされていました。私自身も事業承継を経験しました。私自身が社長の時に5年後には社長交代するという計画を立て、後継者の育成とトップマネジメントの再構築を進めていきました。思うように既存社員の育成が進まず、新社長就任と同時に経営幹部の刷新という形にはなりませんでしたが、計画を立て社員育成や採用を進め、既存の幹部とコミュニケーションを重ねることで、新たなトップマネジメント体制を作り、社長交代後も企業は成長を続けることができました。
私はオーナー企業における親子での事業承継間に中継ぎ的に入ったサラリーマン社長でした。よって後継者は決まっていましたので、計画は立てやすかったです。しかし、オーナー企業で後継者が決まっていない会社であれば、後継者候補を探すことや株式移転の対策、連帯保証の問題や時には事業売却の検討など、とても重要な取り組みが多々ありますので、事業承継という課題のある企業は長期経営計画の中で取り組んでいくことをお勧めします。
今回は以上となります。次回は「Ⅳ 長期計画の策定 12.IT計画をつくる 」について書くつもりです。
【目次(案)】
Ⅰ 方針
1. 目的を決める
2. 期間・更新を決める
3. アウトラインを決める
4. スケジュールを決める
5. 体制を決める
Column 事例を調査する
Ⅱ 企業戦略の現状分析
1. MVVを振り返る
2. 事業構成を分析する
3. コア能力を再認識する
4. メガトレンドを調査する
5. 成長市場を調査する
6. 企業会計を分析する
7. 人的資本を分析する
8. 現状分析のまとめ
Column 長期経営計画は企業戦略でつくる
Ⅲ 事業戦略の現状分析
1. 事業業績を分析する
2. 内部環境を分析する
3. 外部環境を分析する
4. 現状分析のまとめ
Column 経営計画の先行研究
Ⅳ 長期経営計画の策定
1. 長期ビジョンを決める
2. 企業ドメインを決める
3. 事業ポートフォリオを決める
4. 成長戦略を構想する
5. 新規事業戦略を決める
6. M&A戦略を決める
7. 業績計画をつくる
8. 投資計画をつくる
9. 要員計画をつくる
10.人材確保・育成計画をつくる
11.組織計画をつくる ←今回
12.IT計画をつくる ←次回
13.リスク管理計画をつくる
14. ロードマップにまとめる
15.企業戦略を事業戦略に展開する
・事業ドメインを決める
・目指す製品ポートフォリオを決める
・成長戦略を決める
・損益、要員、投資計画を精緻化する
・ロードマップ・KPIを決める
16. 財務三表計画を確定する
17. モニタリング計画をつくる
18. コミュニケーション計画をつくる
19. 長期経営計画のまとめ
Column 社員がワクワクする長期経営計画
最後に私の著書を紹介させてください。(Kindle Unlimited の対象です。)