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『麻雀漫画50年史』を読んで その1

まだ半分程度しか書いてないんですけど、いつ完成するかわからないし、最近は更新が止まっててまずいので前半部分のみを1本として公開します。形として有料にしますけど、最後まで無料で読めます。


最初にして決定版

すごい本だ。俺は何十冊も本を出してきたけど、これほどの力作は書いてない。1ライターとして、そんな尊敬の念を抱くわ。

プロとアマの違いも感じる。プロは採算が取れない途方もない時間は投下しねーよ。鉄オタの面目躍如だ。著者は鉄道系ライターでもあるんだわ。

だけど、多くの人におすすめできる本ではない。この本に強く反応してる人たちには書評家やブックガイドライターが多いことがそれを物語ってる。ほら↓、こんな長いレビューを書いてる人がSF系の書評家なんだよね。

この動画↓で本書をおすすめしてる杉江松恋さんはミステリ系の書評家。

「麻雀漫画自体にはそこまで関心はないんですけど、V林田さんの扱い方が面白かったんで」と語ってる。漫画の作品紹介として図版の使い方が破格に上手いから読みたくなってしまうと。見方がプロ的だよね。

この本に、麻雀好き&麻雀漫画好きはそこまで強くは反応してない。情報量の爆発が感じられて普通レベルの人だと「うっぷ」となってしまうことを予見しているんだろう。本マニアとかプロじゃないと情報量が多すぎてさ。

俺はいにしえの麻雀漫画に相当詳しいほうだけど、その俺でも名前を知らない人たちの名前や作品名が途方もなく並んでいる。著者は調べ始めたときから10年以上かかってて、そこまでの歳じゃなかろうに頭まで薄くなってきちまってるもんな。

歴史家と書評家

この本の構成はこうなってる。

1章 麻雀漫画黎明期 70年代
2章 麻雀漫画誌戦国時代 80年代
3章 竹書房麻雀漫画の黄金時代 90年代
4章 下り坂の専門誌と一般誌掲載作の台頭 00~10年代
5章 麻雀漫画のこれから 20年代

内容は大きく2つに分かれる。前半の1~2章と後半の3~5章だ。読んでるときの感覚が違う。1~2章は、ろくに資料が残ってない中を探し回り、事実はこうだったに違いないと調べて回った歴史家的な立場で書かれている。出てくる漫画家は、今となっては誰も覚えてないような歴史的存在にすぎない。3~5章はひたすら作品紹介だ。どんな作品があって、どんな内容だったか、その当時と今の目から見た評価はどうかなどを語ってゆく。こちらは書評家の立場。

著者が時間をかけた度合いでいったら、おそらく1~2章が9割で3~5章が1割。それくらい違うはず。前半は国会図書館と明治大学米澤嘉博記念図書館に通いつめ、よくそんな人を探し出して会いに行ったなという太古の昔の多数の漫画家にインタビューして調べ上げた結果が記述されてゆく。何かを調べさせたら鉄オタが最強であると改めて教えてくれる。本書の真価は1~2章にある。

にも関わらず、大半の読者にとっては1~2章は読めない。

2章はまぁいいよ。麻雀漫画という分野を成立させた綺羅星きらぼしのごとき天才たちがクズの海からどうやって出てきたかの話であり、その後も活躍を続けた人たちだから読める。かわぐちかいじ、片山まさゆき、能條純一、馬場裕一、土井泰昭、来賀友志、嶺岸信明、桜井章一といった人たちだ。

しかし1章はクズしかないから作品紹介としては意味がない。「歴史的意味なんてどうでもいいわ、漫画は面白くなきゃ意味ねーだろ」という正論の前に1章は立つ瀬がない。出してる出版社も桃園書房とかグリーンアローとかB級臭がすごい。

なので、自分が読んだことある麻雀漫画はどんなふうに紹介されているんだろう?という関心から、3~5章を拾い読みしていくのが大半の人にとっては正しい読み方となる。

いかに不毛な時代だったか

1章の時代(つまり70年代)がいかに不毛だったかを示す2つのエピソードが書かれている。1つは、その時代の最大の巨匠・北野英明が、時代遅れになり仕事がなくなって以降、雀荘のメンバーやら漫喫の店長やら風俗案内所勤務やらを経て、その後は行方不明になってしまったことだ。実の娘さんでも行方はわからないという。

著者はこの巨匠の行方を知るためなら命をかけてもいいくらい気になってるみたいで、行方不明だと何回書いてあったかわからない。彼の本を出すために文化庁裁定制度を利用する話すら複数回出てくる。どんだけ気になってんだよ。

もう1つの不毛の証明は、当時のナンバーワン原作者だ。吉田幸彦という人なんだけど、こんなふうに紹介されてる↓

麻雀漫画原作者時代のことは思い出したくない過去であるらしく、筆者は人を介してインタビューを申し込んだが「編集者から言われて書いていただけで、当時の作品は手元に残していないし、特に話すこともない」という旨を言われて断られた。

すごくねーか? 頂点だった巨匠は失踪してしまい、ナンバーワン原作者は当時の話なんてしたくないという。「当時の麻雀漫画って地下発禁本だったの?」と思ってしまう2つのエピソードだ。

ただね、数多くの三流漫画家の紹介の中に、その後何十年も大ヒット作を描き続けたほんの数人の名前がある。『ミナミの帝王』郷力也『総務部総務課山口六平太』高井研一郎だ。

そろそろ賞味期限切れライターになってきてる俺としては、時代遅れになって沈む人と大ヒットを飛ばして生き残る人では、何が違ってたんだろう?と思わずにはいられなかった。郷力也の紹介には、なぜかあだち充に寄せていた時期の絵が載ってる。わざわざ紹介してるのは、よっぽど面白いと思ったんだろう。俺には、こういう人だからその後大ヒットを飛ばせたんだなって思えた。

当時の絵柄といったら、みんなこんな感じ↓だからねえ。

なお、「絵柄さえちょっと変えたらいけるよ」みたいなことは漫画家には絶対に言っちゃ駄目ですよ、と漫画編集者に教わったことがある。なぜなら、それがすべてだからと。漫画家本人こそが一番気にしていながら、そう簡単には変えられないのが絵柄なんだよ。

その2に続きます。

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