なぜ若者はイキらなくなったのか
講談社の漫画アプリで『なんと孫六』という漫画の50巻無料というサービスをやってる。
絵柄的に若いやつが読むとは思えないから、読むのは俺みたいな老人ばっかなんだろうな。
50巻ってすげー量だわ。これは全巻だと81巻まである超長編だ。
以前15巻無料で読んだことがあった。面白かったから続きも読みたかったけど、その先が異様に長く、数万円かかるから諦めた。今回50巻まで読むと、その先を読みたくなる問題が再度発生しそうだけど、とりあえず読むか。前回の続きの16巻目から読み始めた。
これは番長系?イキリ系? どういう分類になるんかね? 今はもうなくなったジャンルだと思う。
頭は悪くて、顔もかっこよくなくて、喧嘩はめちゃくちゃ強い主人公が、とにかくひたすら暴れまわるというお話。ただそれだけ。格闘技の超人やヤクザ予備軍と喧嘩しては勝ち、部下にしていく。
野球部ピッチャーとして甲子園で準優勝したりもしてるけど、そっちよりも喧嘩にウエイトがある。
昔はこういう漫画って少年誌にいっぱいあった。
正義に篤い主人公が番長連合と戦う系とか、相手が組織じゃなくてただ暴れまわる系とか。
その後、時代とともに番長ってのがリアルじゃなくなったのか、ヤンキー漫画になった。
今はもうヤンキー漫画もなくなったね。
こういうのって主人公がいかにイキるかが重要で、イキリの切れ味がいいほど面白い。
この系統からは少しズレるけど、『北斗の拳』の「お前はもう死んでる」とか、常人には思いつけないイキリじゃん。そういう感じ。
『なんと孫六』もその系統で、主人公のイキリがすごい。愛嬌もある。
この作者はその後、実力とイキリがすごすぎる力士漫画『ああ播磨灘』を28巻も描いてるから、イキリキャラを描くのに漫画人生を捧げた人なんだよな。
普通の漫画家はただイキるだけの漫画を28巻も描けない。あっちゅーまに打ち切りをくらう。これだけ続けられたのは、作者がイキリの魔術師だったってことだわ。
昔は麻雀漫画もイキリのオンパレードだった。考えてみたら、全ジャンル通じて『天牌』が最後のイキリ漫画かもしれないね。すべての登場人物がイキってるもんな。
『アカギ』もイキってる。
最近の若者はイキらなくなったから、そりゃ麻雀漫画も苦しくなるわけだわ。麻雀漫画からイキリを取ったら、クールな闘牌しか残らなくて、それだと漫画にならねえ。
最近の若者はイキらない。
「俺か、俺以外か」みたいな新しいイキリ名言も生まれてるけど、世の中の全体としてイキリ量は明らかに低下してる。
なぜなのか?
世の中全般にマナーが良くなったという考え方もできると思うけど、俺は違うと思うな。
日本が高齢化し、日本経済がずっと低成長だということが主因だと思う。ドカッとした成功例が少なすぎるから、イキる前に反動を気にしちゃうんじゃないかね。
ネットで証拠が残りやすいというのもイキりにくい要因のひとつだと思うけど、それでも億万長者になるやつがドコドコ出てきたら、また若者はイキり始めるんじゃないか。
マナーがいいのは進化じゃない。むしろ退化だ。元気がなくなっただけ。
若者はイキって、その一部は失敗して後から叩かれても気にしない。それが健全な世の中だと思うわ。
昔はイキるとかドヤるという言葉自体なかった。つまり、それほど恥ずかしい行為じゃなく、むしろかっこいい行為だった。揶揄されることもそんなになかった。
われわれの価値観が変化したんだよ。そういうのは恥ずかしいって。イキるとかドヤるって言葉の中に、すでに揶揄が入ってるもんな。
もし日本がふたたび高成長時代に入ったら、イキったりドヤったりすることを揶揄しようという気持ちもみんなの中からなくなり、ふたたびイキリ天国になり、イキリ漫画やイキリラノベが増えるんだと思う。
人間は進歩なんてしない。適応してるだけ。
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