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【映像クリティカルリスニング】 #39 ~アサヒ生ビールCM「まろやかにおつかれ生です」篇 30秒~

しばらく間が空いてしまいましたが…。

今回はこちら

マフエフおいしいですよね〜!

あのキメの細かい感じとまろやかさは、なかなか缶ビールでは敵なしな感じで、丁寧感があって大好きです(何様やねん)

…と、ビールのレビューはここまでにして。笑

画も色も素敵で大好きな作品なのですが、音の面も構成がしっかり考えられてるなと感じます。

テレビ放送は現在、ラウドネス規定の元、管理されています。
これについては長くなるので、深くは触れませんが、そういうところの扱いもこのCMは上手いなーと思います。

ラウドネスについてのNoteも書いてますので、ご興味のある方は以下からどうぞ。

僕は普段からCMのMAをしている中で、

・トーナルバランスなどのチューニング的に参考になるもの

・ラウドネス(-24.0LKFS)という同一条件の中でも、より大きいと聴感感じるもの

・各トラックのミックスバランスが参考になるもの

など、なかなかの数のリファレンスを集めて、ラウドネス値を揃えた上で、いつでも自分のミックスと比較ができるよう、雛形のフォルダに入れてます。

本作もその一つです。

本作は3項目全て良いのですが、特に僕は2つ目の点において参考にすることが多いです。

ラウドネス規定による納品がなされるようになった今、またもや音圧戦争を繰り返してるように思えるかもしれません。

正直、それについて100%の否定は出来ませんが、CMの世界では「大きく聞こえたい」というより「他より小さく聞こえる」というのを避けたい、ということの方が多いので、音圧戦争ともまた少し違うと思っています。
(とはいえ、構成や音数の違いすぎるものを対等にそうするにも限界がある上にそうなるのは、形を変えた音圧戦争とも取れるかもしれません。)

というのも、「小さく作りたいもの」を小さく作ることはテレビ放送でも可能です。

テレビ放送などは納品時、本編の前には捨てカットと呼ばれる余白や、クレジットと呼ばれる、クライアントや代理店、制作会社の情報、素材名と呼ばれるタイトルにあたるもの、ラウドネス値など、納品に必要な情報が記入されたものが差し込まれるのですが、そのクレジットの「特記事項」という欄に、演出の都合上、ラウドネス値が規定未満である旨などを表記すれば、-24.0LKFS以下での納品も可能です。

話が少し逸れましたが…、
ラウドネスで管理してる以上、-24.0LKFSの素材全てのレベルは数値上は同じな訳です。
しかし、音数や構成、ミックスなどによって、実際の聴感的なレベルには多少の誤差は出てきてしまう場合もあります。

僕は以前から、このCMは-24.0LKFSの並びでも、凄く良い圧を持ってるなと感じてました。

その訳を探すために、自分のミックスを変えては、その度に何度もこのCMを聴きまくった時期があります。

その中で、再認識したのが、

・低音の重要性
・音楽レベルの重要性
・構成や編集の重要性

です。

あくまで個人的な感想ですし、「大きく聞かせる為には〜」といったことを言いたい訳ではなく、ミックスや構成の中でしっかり芯のある音を出すために大事だなと思ったことです。

ですので、決して音圧戦争をしたい訳でないというのだけは誤解なされないよう見ていただければ幸いです。

まず、「低音の重要性」。

正直今回は、ほぼこれについて書きたかっただけなんですが、かなり前置きが長くなりましたね…。

本作の音楽、サビ前のドラムが特徴的なセクションから使われてますが、世の中のCMと比べてもローが結構出てますし、そもそもバランスとしても全体的に音楽がしっかり出てます。

このミックスに対して、自分で色んなミックスのタイプを作り、並べて聴いたことがあるんですが、その時に感じたのは、

低音の芯や圧には、同じくそれでしか同等の圧は出せない

ってことです。(当たり前のことを凄そうにいってますよね…りんごでタンパク質は取れない…的な、何言ってんだ??)

例えば、このしっかりと低音のある音楽のCMの前後の並びで、低音の薄い(低音の芯がない)楽曲のCMを色んなアプローチのミックスをして並べたりしましたが…

どれだけ音楽の攻めたミックスやナレーションの攻めたミックスをしても、やっぱりマルエフの音太くて重心がしっかりしてるなーと感じました。(ラウドネス値は揃えてるので、攻めると言っても実際の意味ではミックス内での割合を変えてるに過ぎないのですが)

そのくらい低音が大事なんだと自分自身再確認しました。

ナレーションも同様です。

低音は音楽に任せて…みたいなミックスになると、低音のないナレーションを音楽に負けないようにと、
・音楽のレベルを下げる
・どんどんHigh成分の多い不自然な音質にナレーションのイコライザーを働かせる
・音楽の高音を削る

など、良くない結果になると僕個人は思っています。

ナレーションの持つ低音の芯があれば、硬い音にしなくとも、音楽もしっかり出しながらナレーションも抜けのいいミックスになると思っていまし、感じてます。

ほぼ、二つ目の「音楽レベルの重要性」にも触れたようなもんですが…

音楽のレベルがちゃんと出ているというのもCMとしての圧に直結すると考えます。

勿論、物によりますが、ナレーションやセリフがいない隙間の時間、ここで音楽を皆さん聴いているわけですが、この隙間でグッとレベルが落ちると「なんか小さく聞こえる」という印象にもなります。

やはりミックスの基礎にして1番の難関は「バランス」というところだと感じます。
(なんか偉そうな言い方になってすみません。)

3つ目もほぼ同じです。

ナレーションの美味しいところにドン被りでONで出す感じの効果を入れても、ナレーションを食い過ぎないレベルでしか出せなかったり…

そういう意味で、ミックスは編集から始まってると凄く思います。

ナレーションやセリフ量もその一つだと思います。

結局はこれも最初にいった音数という話に近いですが、ミックスの中で主を担うものの量などは割とラウドネス値に直結すると感じてます。

そのほかにも、これは少し音圧戦争っぽいことにもなりがちなので、あまり深くは言及しませんが、ラウドネスのhistoryは、かなり他のCMとの聴感の差というものと密接に関わってると思ってます。

まぁそんなこんなで色々書きましたが…

ここにきて全部ひっくり返すようなことを言うと、本当はラウドネス値はミックスの結果の数値でしかなく、そこに囚われながらミックスするのは全く持って良いと思いません

ただ、特にCMなどは、商品の訴求などクライアントさんの「伝える」という1番の目的を考えると、「小さく聞こえない」というのは切っても切れないものだと、CMのミキサーをやってて思っています。

そういった意味で、本作の「低音の芯、圧」というのは、とても参考になるなと感じました。

この企画にしては、少し突っ込みすぎた感じになりましたが、最後まで読んでいただいて有難うございます。

色々と誤解のないように、しっかり書いたつもりではありますが、何か至らない点などありましたらご指摘いただければ幸いです。

今回も有難うございました。

ではまた。

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