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またきっといつかどこかで 3

大学に入学し、
軽音楽部の新歓コンパは続く。

今日は夜の公園で花見しながらの催し。

「えー、じゃあ自己紹介していこうかー。
そっちの子から!そうそう、キミ!」


新入生あるある、自己紹介地獄である。

何度も言うが、僕は男子校で3年気楽に生きてきてしまった。

大勢かつ女子のいる飲み会での自己紹介など持ち合わせていない。


「えー!藤岡蘭っていいますー。
みんなからはランランって呼ばれてます!
ボーカルやりたいです!後ドラムやってみたいです!」




....おお

....ランラン


....自分をランランって呼んでと言える勇気。


....すげえ、これが共学か(多分違う)


.......

えー、山本恭輔です。
ベースをやります。

.....

好きなお花はキンモクセイです!


..........



僕はその時、満開の桜がサラサラと揺れる夜風の音をはっきりと聞いた。




「2次会、カラオケ行くひとー」

「はーい」


軽音楽部の新歓カラオケ

これは、カラオケでコミュニケーションを取りつつ、新入生達がどんなバンドや曲が好きなのかを自然にリサーチできる画期的なシステムである。

新入生の好みを知り、今後、バンドに誘う上でスムーズに話をもっていく為のカラオケなのだ。

今ならわかる。今の僕なら。



「みんな歌うまいなぁ、ランランも流石ボーカル志望なだけあるなぁ...」


僕は歌がうまくない。
歌うのは好きだが、下手くそである。
大人数のカラオケは苦手だ。
歌いたい曲、ではなく、数少ない自分でも歌える曲を消費しながらやり過ごすしかなかった。

カラオケはしばらく続き、
それぞれ歌い尽くしたところで
アニソンやネタ曲の流れになっていった。

お酒も深くなり、なんとなく
「面白い事やれ」
の空気が増幅してゆく....




....一か八か、あれをやるしかない...




♪ターンターンタララターンターン


「だれ?この曲和田アキ子やん!山本くん?」


♪あなたに 会えて よーかーったー

(カラオケで笑いをとる上で1番難しいのは、どうしても間延びしてしまうこと、初めのインパクトはそう長くは続かない....1番から思いっきり行ってしまったら必ず後半失速する、ならば1番はじっくり普通に歌って曲を覚えてもらうところから...)

♪つまづいて 傷ついて 泣き叫んでもー

さわやかな希望の 匂いがする

街はーいーまー!ねむりのーなかー!

あのかーねーをー、鳴らすのはあなーたー!

(サビである程度しっかり声出して、ここから2番に繋ぐ....)

♪はなはに、はへーてー、よーはーったー

「ええっ!」

(和田アキ子のモノマネのベタ中のベタ、ハ行で攻める!しかしまだ全部は行かない!焦らずグラデーションで魅せる!)

♪ははひさや!いたわひや!ふれはうことふぉー!

信じたいふぉふぉろーふぁー、もどぉってくーふー!

(勝負の2番サビ!)

♪ふぁふぃふぁーふぃーはァー!ヘフヒホッーハハー!



(ラスト大サビはそのまま思いっきり突っ切る!止まったら負け!)


♪アノファーフェーフオオオオォ!

鳴らすのは! ダン! ダン!

(最後のキメ!)

・・・

(いや最後歌わへんのかい!ここまでやり散らかしといて最後の「あなた」歌わへんのかい!というツッコミ所を最後に投下する...!)


(紅白のトリのようなゆっくりとしたお辞儀でフィニッシュ!)



(ありがとうございました.......)







僕は大切なことを忘れていた







初対面でこんなことしても伝わらねえ。






「......山本くん、この後歌いづらい」







ごめんて。



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