国内外で取り組みが進むCBDC ──技術的課題は必ず解決できる

どうも、すべての経済活動を、デジタル化したい福島です。

先日CBDCに関する記事を出しました。

今回は、少し視点を変えた寄稿記事の転載になります。(同様の内容を、
金融専門誌「週刊金融財政事情」へも寄稿しております。)

前回の記事は、「プログラム性」というところに着目しましたが、今回の記事は「オフライン決済」についてです。日銀デジタルマネーの大きな特徴として、DXをすすめていくというほかに「いつでも、だれでも、どこでも」使える通貨としてのインフラの側面もあります。今回はその後者に焦点を当てた投稿になります。では以下寄稿内容です。

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日銀も専担組織を新設

中央銀行デジタル通貨(Central Bank Digital Currency=CBDC)に関する取り組みが国内外で加速している。最たる例は、中国の「デジタル人民元」であろう。中国の中央銀行である中国人民銀行は2014年ごろからデジタル人民元の研究を開始し、17年には「デジタル通貨研究所」を設立。すでに複数の都市で実証実験を開始している。また、カンボジアは19年からCBDCのテスト運用を行い、スウェーデンは今年2月にパイロットプロジェクトの開始を発表している。直近では、米連邦準備制度理事会(FRB)がCBDCに関して数年にわたり研究したことを明かし、CBDCの潜在的なメリットに関するリポート等を発表している。


日本でも関心が高まっている。政府は20年度の「骨太の方針」で、「日本銀行において技術的な検証を狙いとした実証実験を行うなど、各国と連携しつつ検討を行う」と明記し、日銀は7月に「デジタル通貨グループ」を新設した。日銀の雨宮正佳副総裁は今年2月、「決済の未来フォーラム」でのスピーチで、日本では現金が中銀マネーとして機能しており、既存の決済システムが安定的に稼働しているため、CBDC発行の必要性が高まっているわけではないとの考えを示した。その一方で、CBDCに期待し得る役割として、現状では相互運用性に乏しい民間マネー間の橋渡しを挙げている。同時に、民業圧迫や個人情報を中央銀行が管理することなどの論点を挙げ、メリット・リスクとその対応策の検討を深めるべき、との趣旨を述べている。

金融のプロセス全体をデジタル化

CBDCは、「デジタルの世界で扱いやすいお金」として期待できる。
デジタル化とお金の関係を説明する具体例として、企業間決済を見てみよう。企業間決済において、お金は単に受け渡しされるものではない。決済に先立って契約の締結・請求書のやりとり・社内稟議などの業務が発生することに加え、送金の実行後は、請求側が入金を確認し、いわゆる「消し込み」の作業を行うなど、送金に前後する業務がある。このようなプロセスの全体をデジタル化するには、前後の処理に連動した適切な条件を設定した上で送金の仕組みを考える必要があり、ただ「インターネットで送金できればよい」という単純な話ではない。

当社は、三菱UFJフィナンシャル・グループと協業する次世代金融取引サービス「progmat」や、三井物産・SMBC日興証券・三井住友信託銀行と共同で設立した「三井物産デジタル・アセットマネジメント」で金融領域のデジタル化に取り組んでいるが、こういったユースケースではお金に関わるビジネスプロセスははるかに複雑なものとなる。銀行のオープンAPIの導入は進んで入るものの、プロセス全体をデジタル化するためには、APIだけではユースケースごとに異なる多様なニーズに応えることが難しい。

しかし、CBDCというかたちでお金がデジタル化されれば、お金にさまざまな機能やロジックを付加することができるため、こうした課題を解決できる可能性がある。このような形態のお金は、支払い処理などを自動化できるデジタル通貨「プログラマブル・マネー」と呼ばれる。応用例は幅広く、外為取引における多通貨同時決済(PVP決済)を、PVP決済に特化した特別目的銀行であるCLS銀行のような仲介者なしに実現することなどが提案されている。CBDCにより、デジタルの世界でお金を扱いやすくなれば、社会のデジタル化のインパクトは飛躍的に向上するだろう。こうした世界を実現させるべく、当社では今年8月、デジタル通貨やブロックチェーンなどの研究開発を行う組織「LayerX Labs(レイヤーXラボ)」を設立し、CBDCを注力テーマの一つとして取り組んでいる。

CBDC実現に寄与するブロックチェーンやTEE

CBDCの基盤技術としては、ブロックチェーンが注目されている。ブロックチェーンで契約を自動化する「スマートコントラクト」の仕組みにより、ブロックチェーン上の通貨に柔軟なロジックをひも付け、前述のプログラマブル・マネーを実現できる。また、取引履歴がコンピューターに検証可能なかたちで残るため、クロスボーダー決済などのユースケースにおいて、他のシステムとの連携が技術的に行いやすいというメリットもある。

CBDCにおけるこれらのブロックチェーンの特徴は、CBDCを中央銀行が中央集権的に運営した場合でも効果を発揮することに注意が必要だ。ブロックチェーンは、ビットコインなどの暗号資産のような、オープンかつ広く分散したネットワークだけで用いるものではない。ブロックチェーンの課題として、ビットコインに見られるような処理の遅さを指摘する声があるが、CBDCのように「閉じて集中した」ネットワークでは、処理性能は大きな問題にはならないと考えている。
CBDCにおける注目技術はブロックチェーンだけではない。例えば、当社ではプロセッサーのセキュリティー機能である「Trusted Execution Environment(TEE)」の研究に取り組んでいる。TEEが解決し得るCBDCの課題の例として、災害時などでインターネットにアクセスできない状態での決済が挙げられる(図表)。

〔図表〕 CBDCで想定されるオフライン時の送金

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一般的に通信環境がオフラインの状態では、送金時に送金者が必要な残高を保有しているのかを検証できないが、スマートフォンなどの端末に備えられたTEEを用いることで、残高以上の支払いを防止できる。このような仕組みは中国のデジタル人民元で導入が見込まれている。
CBDCは社会のインフラとなる大きなシステムであり、その分、技術的なチャレンジは多い。しかし、決済システムで応用できるブロックチェーン・暗号技術は日進月歩である。当社ではレイヤーXラボでの研究開発を通じて、CBDCの実現に貢献していきたい。

出典:「週刊金融財政事情」2020年8月31日号掲載、「きんざいOnline」https://kinzai-online.jp/node/6718

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