デジタル金融革命前夜 -オルタナティブ投資の現場から-

どうも、すべての経済活動を、デジタル化したい福島です。

今月から週刊金融財政事情という金融専門の週刊誌に寄稿させていただいており、その内容をご紹介したいと思います。デジタル金融最前線というテーマで計6回の寄稿を予定しています。

=======================================================

DXがもたらすオルタナ投資の3変化

デジタル化の波はさまざまな業界で不可避であり、金融業界も例外ではない。金融機能のアンバンドリングが起こり始めており、電子契約、KYC(本人確認)、AML(アンチマネー・ローンダリング)、価格推定といった一つひとつの業務がパーツ化され、利便性の高い外部サービスが提供されつつある。本連載では、デジタル金融の最前線でいま何が起きているのかを紹介し、近未来の金融の在り方を展望したい。

2020年4月、当社LayerX(レイヤーX)は三井物産、SMBC日興証券、三井住友信託銀行と共同で「三井物産デジタル・アセットマネジメント(MDM)」を設立した。同社を設立した理由の一つは、「金融デジタル化×オルタナティブ投資(オルタナ投資)に大きなポテンシャルを感じたこと」である。

不動産やインフラなどを投資対象とするオルタナ投資では、 私募取引が中心であり、金融業界で進みつつあるデジタル化の恩恵を十分に受けられていない。今年5月に施行された改正金融商品取引法によって、電子的にトークン(証票)を発行して資金調達する「セキュリティー・トークン・オファリング(STO)」への期待が高まっているが、STOも端的に言えば、「プロセスの効率化」である。では、オルタナ投資のデジタル化は、投資家にどんな影響をもたらすのか。われわれは「三つの変化」が起こると考えている。

一つ目は「投資プロセスの完全デジタル化」である。具体的には、上場有価証券投資で実現済みであるデジタル完結の投資プロセスが、オルタナ私募ファンド投資においても実現することだ。個人投資家であれば、不動産クラウドファンディング等でも「KYC=>投資=>配当=>償還」の流れで、投資プロセスはデジタル完結しつつある。新型コロナ感染拡大の影響もあり、手続きのデジタル化が機関投資家にも波及すると考える。

二つ目は「中間コスト削減によるリターンの向上」である。証券会社や資産運用会社は、紙・はんこ・ファクス等を伴う業務を一新し、アンバンドリングされた各種金融サービスの恩恵を受け、より本質的な業務に集中できるようになる。その結果、社員1人当たりの取扱額が増えるため、各種手数料を下げることが可能になる。

三つ目は「今までにない原資産へのアクセス」である。大きなリターンが期待できない安定 資産や、リターンは高いが証券化コストに見合わない小規模資産等が、デジタル化に伴う低コスト化により、投資可能になる。例えば、安定稼働中の社会インフラ、シェアリングサービス、SaaS(Software as a Service)等のオンデマンドサービスの収入を裏付け資産とした資金調達等が考えられる。

デジタル証券の法的論点

オルタナ投資のデジタル化を実現するための法整備も進んでいる。前述の改正金商法によって、「電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値」として表示させた証券(デジタル証券)について、三つの新たな証券類型が定義された。

スクリーンショット 2020-08-18 14.34.52

各類型の分類を図表に示した。今回の改正で生まれたデジタル証券を活用することで、「従前は流動性のなかった商品に、適切な流動性の付与が可能になる」と期待されている。具体的には、オルタナ投資で利用される匿名組合出資の持ち分等のように本来流動性がなかった商品をデジタル証券化させることで、購入・売却をより容易に実現したい、といった例である。

ただ、デジタル証券を利用した適切な流動性付与の実現には、乗り越えるべき壁も存在する。 それは、一部のデジタル証券において、第三者対抗要件具備のためには確定日付が必要になる点である。この類型においては、二重譲渡等を予防するには公証役場を利用した確定日付の存在が不可欠で、この「非デジタルの壁」を乗り越える必要がある。しかし、既存の枠組みでも流動性付与が不可能なわけではなく、事業者の工夫次第で適切な流動性付与は可能であるとわれわれは考えている。

また、オルタナ投資のデジタル化に向けて、電子契約の論点も避けて通れない。通常の契約締結は送付・押印等に複数の営業日を要するほか、印紙税が必要になるなど時間的・金銭的にコストがかかるものであった。この部分をデジタル化させることで、さらにシームレスなファンド組成が実現可能になる。

「慣習」の名の下に電子契約が普及していないオルタナ投資の分野においても、ウィズコロナ時代では当然のBCP(事業継続計画)対策として、電子契約導入は「待ったなし」である。

アセマネDXで新たな投資体験を

前述のMDMでは、デジタル技術を活用した「アセットマネジメント領域のDX(デジタルトランスフォーメーション)」に取り組んでいる。

まず手掛けているのは、プロアマ問わず使える「オルタナ投資プラットフォーム」の開発だ。デジタル完結する取引、投資単位(金額)の柔軟性、透明性・ 即時性が高く分かりやすい情報開示はもちろんのこと、従前の私募型のオルタナ投資では困難だった「適切な流動性の付与」 を実現させる予定である。当初 は、1対1の投資家同士での取引から始め、将来的には24時間365日売買可能な仕組みを目指す。

また、これまで労働集約的な側面もあった「ファンド運営のデジタル化」を行う。すでに、実証用のファンドを組成し、期中における株主・口座・配当の管理、契約・請求・会計等のデジタル化に着手している。これらの効率化を通じて、投資利回りの向上を狙う。

そして、今まで取り扱うことが難しかった「希少なオルタナ資産」への投資機会を創出する。不動産以外にも、三井物産が国内外で展開するさまざまなインフラ資産等の証券化を考えている。一部のプロしかアクセスできなかったユニークな資産を個人にも開放することで、金融包摂の実現を目指す。商品のポイントは「安定性」だ。マーケット要因の価格変動が少なく、安定したキャッシュフローが期待 できる長期投資向きの商品を検討している。オルタナ投資に関 する「負」の側面をなくし、より多くの投資家に魅力的な投資体験を提供できるよう、本領域のDXを進めていきたい。


出典:「週刊金融財政事情」2020年8月3・10・17日 合併号掲載、「きんざいOnline」 https://kinzai-online.jp/node/6643

いいなと思ったら応援しよう!