漫画版「チャージマン研!」の復刊 想いを受け止め、未来へチャージングGO!
2000年代以降、ネットを中心に人気となったヒーローアニメ、「チャージマン研!」をご存知でしょうか。
1974年に数ヶ月間、1話10分程の枠で放送された比較的マイナーなアニメですが、現在では放送当時を圧倒的に凌ぐ人気を獲得しているという、一風変わった経歴を持つ作品です。
同作の人気の理由は、低予算で作られたが故の“いい加減さ”。
ご都合主義的なストーリー展開や、尺の事情による不自然な演出、現代のコンプライアンスでは許容されないであろう台詞など、ツッコミどころ満載でありながら、それが反って独特の世界観を持つ“ネタアニメ”として若者の支持を得ることになりました。
もちろん、制作当時は至って真面目に作られていたに違いありませんが、昭和感が色濃く、かつ話題に事欠かない同作は、ネットやSNS全盛の現代だからこそ、より一層の輝きを放っているのです。
さて、この「チャージマン研!」には漫画版も存在するのですが、連載当時には単行本化されず、ファンにとっては読みたくても読めない幻の作品となっていました。
そんな状況を憂いたファンたちが頼ったのが、復刊ドットコムでした。
連載されていた雑誌を手に入れることでしか読めない作品を、今あらためて単行本の形にまとめることも、作品をリバイバルさせるという観点では一つの復刊の形です。
日に日に増えていくリクエストに応え、2016年に初の単行本『チャージマン研! コミックス&トレジャーズ』が出版されました。
本記事では、初めて単行本化された漫画版「チャージマン研!」の出版とその後を振り返ります。
単行本化、だけでは終わらせない
漫画版「チャージマン研!」の単行本化にあたって編集者を悩ませたのは、本としての完成度をどう高めるか、ということです。
漫画版は『冒険王』(秋田書店)、『テレビランド』(徳間書店)の2誌で連載されていましたが、前者は1974年5月号から8月号、後者は1974年4月号から9月号と、いずれもごく短期間かつ、『テレビランド』に至っては数ページに満たないものでした。
単行本化の第一義的な目的は、当然、連載各話を1冊の本にまとめるということです。ですが、ファンからの高い期待を考えれば、それらを収録するだけではページ数が少なく、物足りない印象になりかねません。
そこで同時に収録されることになったのが、「チャージマン研!」のアニメ制作会社ナック(現・ICHI)に眠っていた秘蔵資料でした。
同作の生みの親である西野聖市氏を父に持ち、現在ICHIの代表を務める吉野百子氏は、当時のことを次のように振り返ります。
「「チャージマン研!」が制作された当時は、これほど人気が出るとは考えていなかったと思うので、資料もほとんど残っていなかったんです。なので、何か資料を提供するとなった時は、あらためて色々探しましたよね。そしたら、たまたま絵コンテが残っていたんです。当社の他の作品では、絵コンテが残っていない作品も結構あるんですけどね。」
ところで、同じ「チャージマン研!」という作品が、別々の雑誌で、違う作者によって漫画化されていたことも、同作の単行本化を振り返る上で注目すべき要素です。
同時期に2誌で連載されていた正確な理由は定かではありませんが、関係者の話によれば、放送中のアニメの漫画版が子ども向けの雑誌で連載されることは、かつては宣伝としてよく採用される手法だったそうです。実際に、『テレビランド』での連載は、目次にも載らないほどの小さなものだったといいますから、広告的な位置付けであったとすれば納得がいきます。
問題は、そのような扱いであったためか、原稿は現存せず、単行本化に際してはそれぞれの掲載誌を探していく必要があったということです。さらに、40年近く前の関係者の調査、連絡にも手間と時間がかかります。
ですが、編集作業が大変であればその分、ファンにとっては価値の高いコンテンツとなり得ます。当時では実現し難い、別々の雑誌に掲載されていた作品が「チャージマン研!」の名の下に集結すること自体の価値も見逃せません。
最終的に、『チャージマン研! コミックス&トレジャーズ』には、連載各話の他、アニメの絵コンテ、イラストやセル画、当時唯一のグッズであったレコードジャケットといった資料、読み物ページが加えられ、単行本の枠に収まらない、ファンブックの要素も兼ね備えた一冊として完成したのです。
「チャージマン研!」に新たな足跡を刻んだ本
2000年代以降、「チャージマン研!」のグッズはさまざま販売されていましたが、『チャージマン研! コミックス&トレジャーズ』は、グッズとは少し異なる、独自の存在感を持つものでした。
同書が発売されて以降、“「チャージマン研!」とは”という文脈では必ず言及されるようになり、アニメが特集されれば同時に紹介されるなど、作品の歴史の一部を担うような位置付けとして受け止められていったのです。
ICHIの吉野氏は、同書について次のように語りました。
「「チャージマン研!」の話題になると、復刊ドットコムから漫画が出版されているよね、という形で必ず出てくるようになりました。色々な“ネタ”を持っていたい、という心を刺激できたのかなと思います。
メジャーな作品には、色々な資料がたくさんありますよね。作品に関するエピソードだったり、画像や映像だったり。でも、「チャージマン研!」みたいなマイナーな作品では、そういったものはあまりなくて、謎も多いですよね。ですから、(この本を手に取った)ファンの方は、「わー!やったー!」って、心が弾む気持ちになってもらえたんじゃないかなと思います。」
同書の出版はいわば、「チャージマン研!」という作品の節目となるものでした。作品を語る上では、今や欠かすことのできない存在です。
親子の絆と「チャージマン研!」の未来
作品にとって新たな節目となった『チャージマン研! コミックス&トレジャーズ』の出版ですが、それは同時に、ICHIの吉野氏自身にも転機をもたらすものでした。
2016年の出版当時、「チャージマン研!」をはじめとする同社の作品の版権管理や活用の方向性を掴みかねていたという吉野氏。同書の制作を通じて行った、資料の整理や、販促を兼ねたグッズの企画・販売など、一つ一つが、その後の会社との関わり方に繋がっていったと話します。
さらに、同書の制作を通して「チャージマン研!」ファンの存在やその熱量に触れたことも、吉野氏の心に変化を与えました。「チャージマン研!」の生みの親で、父である西野聖市氏の仕事への理解を深めていったのです。
「子どもの頃、私は父の作品を全然リスペクトしていなかったんです。どうしてジブリみたいな作品が作れないんだろうって。でも、これをきっかけに、やっと父の仕事をリスペクトできるようになったし、父がとっても苦労してここまでやってきたんだなっていうのを感じることができましたね。」
そんな吉野氏は2017年にICHIの代表に就任。今後の目標は、作品を次の世代に繋いでいくことだといいます。
「“ナッククオリティ(※)”とか色々言われるけれども、昭和のアニメがみんながみんな、ジブリじゃないですから(笑)アニメは日本の文化だと言うなら、こういう作品も、アニメの文化の一部として残していって、そのために私も何か力になれたらいいなと思っています。」
※吉野氏いわく、「社長の意向で色々なテイストを盛り込み、収集がつかなくなっている」旧ナック作品に対する揶揄。旧ナック作品を懐古し、愛のある発言であることもしばしば。
ファンの声に応えて出版された『チャージマン研! コミックス&トレジャーズ』。
決して分厚い本ではなく、一見愉快な本ですが、「チャージマン研!」という作品の一翼を担う意義、そして同書が作品や吉野氏にもたらした大きな変化を知れば、その見た目とは裏腹に、厚みのある価値を感じられるような気がしませんか。
■取材・文
Akari Miyama
元復刊ドットコム社員で、現在はフリーランスとして、ものごとの〈奥行き〉を〈奥ゆかしく〉伝えることをミッションとし、執筆・企画の両面から活動しています。いつか自分の言葉を本に乗せ、誰かの一生に寄り添う本を次の世代に送り出すことが夢。
https://okuyuki.info/