
非実在英霊の実在性
オタクの御多分に洩れず、私も流行のFGO(Fate/Grand Order)をプレイしている。さっき確認したららマスターとしてカルデアにやってきてから530日が経過していた。
このゲームではプレイヤーはマスターとして、人類史に刻まれた数多の英霊たちをサーヴァント(通称:鯖)として従え、彼らの力を借りながらシナリオを進めていく。
最近になって、お気に入りの鯖であるエルキドゥの「幕間の物語」が公開された。これはいわゆるゲームの主軸となる物語ではない、鯖とマスターとの交流を描くサイドストーリーだ。
彼(セックスが存在しない、あるいは意味がないので彼女でも良い)の物語が素晴らしいインスピレーションに満ちていたので、忘れないうちに書き留めておく。
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ネタバレにならない程度にその要旨をまとめよう。
プレイヤーはエルキドゥの来歴を辿る時間遡行の旅をする。
しかし今回の旅には予期せぬ同行者がいた。プレイヤーたちの拠点である「人理保証継続機関フィニス・カルデア」からこっそり着いてきた英霊たちだ。
彼らの顔ぶれは、古典小説の登場人物、児童文学という概念そのものが英霊として成立した者、そして悪の化身(!)であったりと統一性がなく、属性も性質もバラバラである。
けれどもよく観察すると、彼らには「史実には存在しない、ヒトの創造力によって生み出された者」という共通項があった。
そして他ならぬエルキドゥもまた、神によって粘土から生み出された者であり、ギルガメッシュ叙事詩に起源をもつ被造物だ。
自らの英霊としての在り様をどう受け止めるべきか? という答えを、エルキドゥとマスター、そしてその同行者たる英霊たちは旅を通じて探し求めるのだった。
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できるのなら自分の手でこの物語を確認して欲しいので、詳細は語らない。
大事なのは、彼らの対話を通じて、常々考えていたことが形になっていくのを感じたこと。
歴史とはすなわち記録者による解釈を経て記録された物語である。事実を記録してするという行為は政治的な行為だ。
多くは国家の成立・国民統合という目的の為に解釈を加えられる。
記録者の置かれた立場、目的によって歴史は変容し、多くのヴァリアントが派生し、その色合いは変わっていく。ゆえに客観的かつ事実のみを記録した「史実」なるものは存在しない。
歴史の起源を辿ると、世界に文字が普及していなかったころ、すなわち地域に根ざした口頭伝承に繋がっていく。
この伝承は当地の事情に即した解釈によって微細な変化を見せる。しかしその構造を解体していくと、幾つかの要素に解体される。それがレヴィ=ストロースが提唱した神話素だ。
……神話論理についての解説をするには、今の私にはエネルギーも時間もないので割愛する。今回の投稿の本筋からもズレるからね!
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バビロニアの神々の手によってある目的の為に創造されながらも、自らの意志で神々を裏切ったという逸話をもつエルキドゥ。
彼は自らの異質性を自覚し、日頃から(マイルームなどで)道具として扱ってほしいとマスターに頼むような鯖だ。
そんなエルキドゥは、旅を通じて出会った英霊たちとの対話を通じて、自分がマスターの召喚に応じて受肉し闘う英霊の性質を備えていることに気づく。
史実との相違点や来歴、出典は問われない。当代を生きる人間によって様々な媒体を通じて脚色され、時代を超えて伝播する過程で発生した一つの英雄譚=物語の体現者。それこそが英霊なのだと。
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確固とした肉体をもたないとある英霊は語る。
「語り手と読み手の相互作用によって、物語は無限に色を変える。同じ物語を起源として成立した英霊であっても、その性質は変化する」
あなたが創造者の願いを裏切る存在だったとしても、それは大きな問題ではない。なぜなら物語とは固定化された情報ではなく、自在に変容していくものだからだ。
だからあなたという英霊がどうか幸せな物語として読まれます様にと、彼女はエルキドゥを祝福するのだ。
このくだりで私は涙を滲ませてしまった。
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これは神話であり、フィクション(創作物)のもつ力を描いた教訓であり、そして物語を作り出す人間たちによる願いの物語なのだ。
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