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【第1回】だいたい250日後ぐらいに腎臓結石で緊急外来に運びこまれる留学生(Poripori2)

  Twitterをやっててしばしば起こる不思議なことといえば、あの謎の共有現象だろう。リアルでは自分以外の誰からも聞いたことがないような「特殊で」「オリジナルな」経験が、いともたやすく「平凡で」「クソつまらない」出来事だったと思い知らされるあの現象である。例えば、「妻が作ってくれた朝ごはんの卵焼きをおいしいけど固いなぁと思いながら完食したんですけど、後で実はそっくりの食品サンプルだったって気が付きましたぁ。やばば。」とでも書いてみるといい。こういう珍妙つぶやきには即座に「あっ私もそういう経験あります~」だの「あるある~」だの「自分と全く同じ経験しててワロス」だの言ってくる連中が必ずいるのである。いや、もしかしたらいないかもしれないがここは私の意をくんでそういう連中が世の中にはいるということにして欲しい。切実に。

 話は変わるが、だいたい8年程前、私が海外留学を始めて最初の年度が終わろうとしていた頃、言語のわからなさ具合からくるストレスでコーラと果糖ジュースしか飲む気がしないというメンタルのもつれのせいでついに腎臓結石が出来てしまうという事件が起きた。その出来事はたいそう自分の中では衝撃的であったし、実際痛くて大変だったので、私が飲みの場などでよく人に語るのを好む、まさに「オリジナルな」経験である。ところが、Twitterで「結石」「留学」の四文字を入れてツイートの検索をかけてみるといい。驚くことに少なくとも15人ほどの人物がそれに該当する経験をそれぞれしているのである。中には留学先で結石が出来ることを総称して、「結石留学」なる言葉をでっちあげて「あるある」であることを必要以上に強調しようと試みる者までいることがわかった。恐ろしいことである。このことに初めて気が付いた時、私は衝撃のあまりハァと深いため息をつき、21世紀の技術発展が文明に何をもたらしたかを心底憂い、「科学は思考しない」と科学的知識の増大のみを是とする現代文明に警鐘を鳴らしたハイデガーのマインドに静かに思いを馳せた。(ちなみに哲学プロパーではない諸兄にはいまいちピンと来ないかもしれないが、ハイデガーの現代社会に対する提言はどれも真に迫るものである。)

 まぁつまり何が言いたいかというと、他人に伝えて面白がられるような本当に希少な出来事など人は実際ほとんど経験していないということである。再び私自身のことを強調するようで気が引けるが、わざわざ頑張って受験して入った中学を辞めて公立中学校に出戻りしたり、高校を中退したり、専門学校を中退したりして、何故か海外の大学に入ったそんな私の人生を評して「映画のようだ」と言った従弟のケンちゃんには悪いが、所詮私の人生など奇を衒ったようには見えるのは文字通り表面上のことでありその実全くの平凡なものでしかないのだ。

 当連載記事はこの全く平凡、そして本来なら人様に聞かせるようなものではない私の人生、その特に2011年ごろから2019年までをあの大名作『100日後に死ぬワニ』を体よくパロって軽快に語るものである。もっとも実際に私は『100日後に死ぬワニ』を読んだことはない。いや偶然誰かからリツイートされてきた数ページと最終回だけは読んだのでまんざら知らないわけでもない。ともかく我ながら何ともひねくれた趣旨である。まぁ諸兄がそのワニの死因がコロナウイルスを原因とした肺炎でなくてよかったと、ホッと胸をなでおろしたような性格の持ち主ならば少しぐらいは楽しんでもらえるかもしれない。もっとも楽しんでもらえなかったならばそれは仕方がない。
 「花の色は移りにけりないたづらに……」
                                続く



Poripori2
中学受験で入ったスパルタ校での生活で精神を病み、10代のほとんどを引きこもりとして過ごす。その後、何を思ったか24歳の時に渡仏し、念願の大学生となるが、選んだ学科が運悪く哲学だったために、一銭も儲からない生活を送っている。31歳の今は博士課程に在籍。最近一児の父になった。名前に意味はない。

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