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【noteドラマ】わかりあえないの(相馬 光×はとだ)

外出自粛期間限定のWeb-ZINE『吹けよ春風』、初のコラボレーション記事です。

文芸家で本誌発起人の相馬 光と、その友人で編集者のはとだ「noteドラマ」をお届けします。企画・編集をはとだが、シナリオを相馬 光が担当しました。

「noteドラマ」とは、note上で制作および発表されるドラマのこと(そのままですね)。「ラジオドラマ」のnote版のようなものです。そもそも本企画は、会話劇やラジオドラマを想定し、進行していたのですが「これはnote上で十分楽しめるドラマなのでは?」と考え、「noteドラマ」というジャンルを爆誕させました。
( ハッシュタグ #noteドラマ をつけて、みなさんもぜひ投稿してみてくださいね)

今回は『吹けよ春風』制作者の想いもお届けしたく、はとだによる企画書(といってもただのメモ書き)の一部を公開。そこからどのような物語が生まれたのかーー? ぜひ、最後までお楽しみください。

今年のゴールデンウィークは、ステイホーム週間。外出自粛でお出かけできないあなたの部屋に、そしてあなたの心に、春風が吹くことを願っています。

◆◆◆

『わかりあえないの』企画案(はとだ)

外出自粛中で会えないカップルは、いまどんな想いで過ごしているんだろう? 想像すると、とても切ない……。「外出自粛が終わったら、会おう」という、いまだから描ける物語を作りたい

〇構成案
男女ふたりの会話劇、またはラジオドラマを想定。よくある恋人の別れ話から始まる。もう戻れない。そんな雰囲気から言葉を重ねていき、お互いに知らなかった相手の一面が徐々に見えてくる。最後には予測不能な結末を迎える。

〇ストーリーの流れ
もう戻れないふたり。女性から不満をぶつけている。女性のほうが別れたい気持ちが強い。漂う緊張感、シリアスさ。

“普通じゃない”ふたりの楽しかった思い出話、エキセントリック感
「最後だし、楽しい話でもしよう」みたいなところから見えてくる?

すれ違っていたものが徐々に理解されていく。浮かび上がる真実、意外性。
「あのときの◎◎って◎◎だったの?」「じつはあなたって◎◎なの?」

「外出自粛が終わったら、会おう」というような言葉で終わる。
最後のほうは男性がリードし、予測不能な結末へ。キュン要素。

・女性の名は「みどり」。男性の名前を考えて、会話を自由に膨らませてください。
・上記の構成からガラリと変えてもらって大丈夫です。

~上記の企画案から、以下のシナリオが生まれました~

それでは、あなたのこころのなかで映像を想像しながら、ゆっくりとnoteドラマをお楽しみくださいませ。

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『わかりあえないの』シナリオ(相馬 光)


○あらすじ
恋人のみどりに突然電話で別れ話を切り出されたアキオ。みどりはやることなすこと裏目に出るアキオに不満を募らせていたのだ。みどりが過去の思い出を語るうちにアキオは「あること」に気付いてしまう……。

○シナリオ 
『わかりあえないの』

    通話中のアキオとみどり。
    アキオが泣きながら鼻をすする声がする。

アキオ「なぁ! 俺たち、まだ始まっちゃいねえじゃん!」

    間。
    電話越しに小鳥のさえずりが聞こえる。

みどり「そんなこと言う映画あったよね、最後に自転車二人乗りしてさ」
アキオ「そうなんだ……その映画は知らないけどっていうかそれよりさ、何だって急に」
みどり「(遮って)急じゃないから。ずっとね、言おうと思ってたの」
アキオ「でも何で今日なんだよ! 今日は俺たちの記念日なんだぜ……?」
みどり「埋まったの」
アキオ「えっ?」
みどり「心のスタンプカードがね、全部埋まったの」
アキオ「なんだよそれ……」
みどり「私さ、怒るの苦手なんだ。責めたり、怒鳴ったりとか、子供の頃からそういうのできなくて」
アキオ「……うん」

みどり「だからね、夏休みのラジオ体操みたいな感じで、スタンプを押すの。嫌なこととか、ちょっとイラッとくることがあったら、ひとつ、またひとつってスタンプを押すの」
アキオ「……それが今日、全部埋まったの?」
みどり「そう。だから、お別れしようって」
アキオ「そ、そんな! なぁ、みどりん。俺が何したんだよ! 教えてくれよ!」

みどり「去年さ、セミのこと、教えてくれたじゃん」
アキオ「セミ?」
みどり「夏の終わりに、地面に落ちてるセミ。『両手が閉じてたら、まだ生きてる。両手が開いてたら、もう死んでる』って」
アキオ「あぁ、そうだよ。みどりん、セミ苦手だからさ、もし道端でセミに出くわした時に目印になるかなって……」
みどり「あれ、逆だったよ」
アキオ「えっ」
みどり「そうアキオくんから教わったからさ、公園歩いてる時に、『あっ、このセミ両手開いているから大丈夫だ』って思って、近くを歩いたら……」
アキオ「歩いたら……?」

みどり「この先を言わせるの?」
アキオ「いや、これ以上は聞かないよ……」

みどり「これがスタンプ7個分ね」
アキオ「そんなに押すの?」

   再び間。
   ビニール袋の中でカチャカチャと工具が当たる音がする。 


◆作ったね、公園太郎

アキオ「あれ、聞こえてる?」
みどり「そういえばさ、よくピクニック行ったよね」

アキオ「あぁ、行ったね。一時期ほぼ毎日行ってたよな。公園管理してる人に『この公園そんなに楽しいですか?』って聞かれたもんな」
みどり「楽しくなきゃ行かないのにね」
アキオ「みどりんのお弁当美味しかったなぁ。サラダ、卵焼き、焼鮭……」
みどり「アキオくんのお弁当、茶色ばっかだったなぁ。唐揚げ、コロッケ、ハンバーグ……」
アキオ「でもあれはあれで美味しかっただろ?」
みどり「次の日すごい胸焼けしたけどね」

アキオ「あとさ、落ちてた木の枝集めて、『公園太郎』作ったね」
みどり「そうそう。公園の守り神にしようって、小さい人形作ろうと思ったら」
アキオ「想像以上に大きくなって」
みどり「気付いたら私くらいの大きさになってたよね」
アキオ「変死体と間違われちゃってね」
みどり「少しネットでバズったよね」
アキオ「公園太郎、本当にマスコットみたいになったんだよな」
みどり「今は管理事務所にいるんだって。私たちのものなのに」
アキオ「全然信じてもらえなかったよな。何回も言って、クレーマーみたいに扱われて」
みどり「『何回も』って、アキオくんは2回だけじゃん。私は本当に毎日通ったのに」
アキオ「ご、ごめん。ほら、あの時期仕事が忙しくてさ……」
みどり「あの2回もヘコヘコしてるだけで情けなかったよ。ちゃんと『仕事』のこと言えば信じてもらえたかもしれないのに……」
アキオ「それはできないよ!」

みどり「それがスタンプ12個分ね」
アキオ「なんかさ……みどりん、割と小さいことでスタンプ押すよね」
みどり「……え?」

アキオ「いや、だからさ。例えば俺がすごく酷いこと言ったり、それこそ浮気とかしたらさ、スタンプ押すのはわかるんだけどさ。今んとこ、セミと公園太郎でしょ?」

みどり「大きい小さいはアキオくんの基準じゃん。私にとってはすごく大きいの。とっても悲しかったんだよ。そういうところをわかってくれないから私は……」
アキオ「私は?」

みどり「いや、やっぱいいや。アキオくんと私はもう他人なんだから」
アキオ「他人って! みどりん、そんな冷たい言い方しなくても!」
みどり「あとその『みどりん』っていうの止めてもらえないかな」
アキオ「どうして! みどりんはみどりんだろ!?」
みどり「1回も『その呼び方で呼んで』って言ってないから」
アキオ「でも『やめて』とも言われなかったからてっきりOKかと……」

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    近くで5時のチャイムの音が鳴る。

◆公園にいるんだろ?

みどり「ごめん。もう、切るね。」

アキオ「待ってくれ! 今公園にいるんだろ?」

みどり「えっ……どうして……?」

アキオ「電話の最初の方で、一瞬間ができた時に鳥の声が聞こえた。あとみどりんが話すエピソードはセミとピクニック、全て屋外のものだ。しかもどちらもよく行っていた、あの公園での話だ」

みどり「……すごいね、さすが刑事さんだ」

アキオ「どうして外にいるんだい?」
みどり「家の水道がおかしくなっちゃって……ホームセンターで工具買ってたの」

    ビニール袋に入った工具をカチャカチャと鳴らす。

◆でも、今はわかる

アキオ「そっか。1人でできるかい?」
みどり「大丈夫。直し方のYouTube5回見たから」
アキオ「ごめんな。本当だったら俺が行って直せばいいのに。仕事が忙しくなっちゃって……」
みどり「いいの。そうじゃなくても今は会えないから」

アキオ「でもさ。毎日みどりんのこと考えてるんだぜ? 俺の頭の中はいつだってみどりん、みどりん、みどりん、犯人、みどりん、犯人、みどりん、犯人……」
みどり「犯人のこともちょいちょい考えてるんだね」
アキオ「犯人のことを毎日考えつつ、みどりんも捕まえるんだ!」
みどり「みどりんと犯人、入れ替わっちゃってるね」

アキオ「ついこの間も犯人を逮捕したんだ!正直、自分の才能が怖いと思ったよ。俺は犯人の心理がわかってわかってしょうがないんだ!」
みどり「うん、すごい自信だ」

アキオ「でもみどりんのことは全然わかってあげられなかった……」
みどり「もういいの。気にしないで」

アキオ「でも今はわかる」

みどり「えっ」

アキオ「公園太郎を盗むのは止めるんだ」

みどり「……」

アキオ「止めないと、君を逮捕しなきゃいけなくなる」

みどり「ちょっと……何言ってるの?」

アキオ「5時のチャイムが近くで聞こえるってことはあの管理事務所の前にいるってことだ。今は外出自粛で管理事務所には誰もいない。そして……工具を持っている」

みどり「待ってよ、私はそんな所になんか……」

アキオ「心のスタンプカードが貯まってたのは、俺だけじゃなかった」
みどり「アキオくん、全然違うから」

アキオ「あの管理人にも貯まってたんだろ?」
みどり「ねえ、聞いて。あたしもうすぐ家に着くの」
アキオ「それでもみどりんはあの管理人を怒鳴ったりしなかった。それは怒鳴らなかったんじゃない。スタンプを、貯めていたんだ」
みどり「アキオくんは私にことなんにもわかってない!私はそんなことしない!」

アキオ「……じゃあなんで、管理事務所の前にいるんだい?」

みどり「えっ……」

    近づいて来るアキオの足音。
    みどり、ため息をつく。
    そして電話を切る。

◆やっと、私のこと

アキオ「元気そうだね、みどりん」

みどり「……ダメなんだよ、不要不急の外出は」

アキオ「これは急を要する外出だよ」

みどり「やっと……私のこと、わかってくれたんだ」

アキオ「言ったろ、『犯人のことを考えつつ、みどりんも捕まえる』って」
みどり「そっか……あれ、間違ってなかったんだ……」

アキオ「今思いとどまってくれればみどりんを捕まえずに幸せにできるんだけど……どうする?」

みどり「今日は、帰るよ」

アキオ「よかった……」

みどり「わざわざ来てくれてありがとう。あと、ごめんね」

アキオ「なぁみどりん! もう一度、ちゃんと話がしたい!」

みどり「……それは任意? 強制?」

アキオ「もちろん任意だ。外出自粛が終わったらまたこの公園に、ご同行……願えますか?」


みどり「……お弁当、作ってくれるなら」

アキオ「まかしとけ、茶色のお弁当作って行くから」


みどり「(フッと笑って)じゃ、また今度」


アキオ「あぁ、また今度」

    2人の足音、互いに遠ざかっていく……。

                      (完)

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シナリオ:相馬 光(そうま ひかる)
文芸をやっている。脚本を書くことが多い。
脚本『新米姉妹のふたりごはん』
脚本協力『グッド・ドクター』、『ストロベリーナイト・サーガ』など
第29回フジテレビヤングシナリオ大賞佳作『サヨナラニッポン!』
第28回フジテレビヤングシナリオ大賞最終選考『余命60秒』
インターネットウミウシ名義で『書き出し小説大賞』と『文芸ヌー』にも書いている。
企画・編集:はとだ
いつも何かを楽しく編集しながら生きている人。音楽雑誌・フリーマガジン・写真集などの編集や、Webメディアの編集長などを経て、現在はフリー編集者。
よかったら、お友達になってくださいね。
Twitter:https://twitter.com/poppoppo_
note:https://note.com/hatoda

▼『吹けよ春風』に込めた想いは、こちらにて


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