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人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~
人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~
(経済産業省)
人的資本経営の現状・課題とトップランナーたちの取組(事例集)(2024年12月)(PDF形式:10,369KB)
人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。
今回は、2024年12月に発表された人的資本経営の取り組み事例集を読み解いていきたいと思います。
『人的資本経営の現状・課題とトップランナーたちの取組(事例集)』とは
このレポートは、人的資本経営コンソーシアムが発行した「人的資本経営の現状・課題とトップランナーたちの取組」の内容をまとめたものです。
◯レポートの目的
企業を取り巻く経営環境が大きく変化する中で、人的資本経営の重要性が高まっています。
このレポートは、日本企業における人的資本経営の現状と課題を明らかにし、先進企業の取り組み事例を紹介することで、人的資本経営を推進する際の参考資料となることを目的としています。
◯レポートの内容
レポートは大きく3部構成となっています。
【第1部:人的資本経営に関する調査について】
会員企業579社を対象に実施した人的資本経営に関する調査の概要と結果がまとめられています。
調査結果からは、多くの企業が人的資本経営の重要性を認識し、取り組みを進めているものの、取締役会の役割、KPI設定・現状とのギャップ把握、人事部門のケイパビリティといった課題を抱えていることが明らかになりました。
【第2部:調査から浮かび上がった課題と対応策】
第1部の調査結果で明らかになった課題について、先進企業の取り組み事例やコンソーシアム内での議論を交えながら、具体的な対応策が提示されています。
各課題に対するトップランナー企業の事例: アステラス製薬、出光興産、セイコーエプソン、日清食品ホールディングス、日本電信電話、日立製作所、三井住友トラストグループ、日本電気、ベネッセホールディングス
【第3部:人的資本経営の進展に向けたトップランナーの取組】
経営戦略と人材戦略の連動、リスキリング・学び直し、多様な知・経験の活用、人的資本情報の開示といった、人的資本経営を推進する上で重要なテーマについて、先進企業の事例が紹介されています。
各テーマに対するトップランナー企業の事例: 荏原製作所、日揮ホールディングス、メルカリ、中外製薬、富士通、アステラス製薬、出光興産、大成建設、SCSK、北國フィナンシャルホールディングス
人的資本経営における3つの主要な課題
取締役会の役割、KPI設定・現状とのギャップ把握、人事部門のケイパビリティは、人的資本経営を推進する上で、日本企業が共通して抱える主要な課題として挙げられています。
これらの課題解決には、先進企業の取り組みや専門家の意見を参考に、自社にとって最適なアプローチを見つけることが重要です。
課題①:取締役会の役割
人的資本経営において、取締役会は、経営層が策定した人材戦略の承認、適切な実行の監督・モニタリング、そして、人材戦略の実行プロセスで醸成される企業文化の監督モニタリングという重要な役割を担います。
しかし、多くの企業では、取締役会が人材戦略に関して十分な議論を行えていない、あるいは、議論は行われているものの具体的な行動に繋がっていないという現状があります。
これは、取締役会が、財務情報などの従来の経営指標に比べて、人的資本に関する指標を軽視している、あるいは、人的資本に関する指標の重要性を十分に理解していないことなどが原因として考えられます。
解決に向けた取り組み
◯取締役会における人的資本に関する議論の充実:
エンゲージメントスコアや経営人材の育成状況など、人的資本に関する具体的な指標を議題に上げ、定期的に議論を行う。
◯取締役会メンバーの人材:
人事の専門知識を持つ社外取締役を登用するなど、人材戦略を理解し、議論を深めることができるメンバーで構成する。
◯取締役会における人材戦略に関するKPIの設定:
エンゲージメントスコアなどを役員報酬の算定指標に設定することで、取締役会が人材戦略の達成にコミットする体制を構築する。
課題②:KPI設定・現状とのギャップ把握
経営戦略を実現するためには、経営戦略と連動した人材戦略を策定し、その進捗状況を適切に把握することが重要です。
そのためには、目指すべき姿を明確に定義し、それを定量的なKPIで設定する必要があります。
そして、現状を正確に把握し、現状と目指すべき姿とのギャップを定量的に分析することで、効果的な人材戦略を策定することができます。
しかし、多くの企業では、人的資本に関するKPIの設定が適切に行われていなかったり、現状とのギャップを把握するためのデータ収集や分析が十分でなかったりすることが課題となっています。
解決に向けた取り組み
◯人材情報基盤の整備:
KPIに関連する情報を収集・分析できる基盤を構築する。情報収集の対象範囲は、段階的に拡大していく。
◯動的な人材ポートフォリオ計画に基づいた目標設定:
将来必要となる人材像を明確化し、現状の人材とのギャップを分析した上で、KPIを設定する。
◯KPI設定の工夫:
他社の動向やトレンドにとらわれず、自社の経営戦略に合ったKPIを設定する。定性指標を可能な範囲で定量化し、KPI間の優先順位を明確にする。
課題③:人事部門のケイパビリティ
人的資本経営の実行役である人事部門には、従来の労務管理や人事制度の運用といった業務に加え、経営戦略と人材戦略を連動させるための高度な知識やスキルが求められます。
しかし、多くの企業では、人事部門がこれらの要件を満たしておらず、経営戦略に貢献できる人材戦略の策定や実行ができていないことが課題となっています。
これは、人事部門の専門性不足、経営層との連携不足、人事部門への投資不足などが原因として考えられます。
解決に向けた取り組み
◯CHRO(Chief Human Resource Officer/最高人事責任者)の設置・選任:
経営戦略に精通したCHROを設置し、経営層と人事部門の連携を強化する。
◯人事部門の役割・責任の明確化:
従来の人事部門の業務に加え、経営戦略への貢献という役割を明確化する。
◯人事部門の専門性向上:
事業部門経験を持つ人材を育成するなど、人事部門のケイパビリティ向上のための投資を行う。
これらの課題は、相互に関連しており、包括的に取り組むことが重要です。 例えば、取締役会が人材戦略の重要性を理解し、人事部門への投資を強化することで、人事部門のケイパビリティが向上し、より効果的なKPI設定や現状分析が可能となります。
トップランナーの取組①:経営戦略と人材戦略の連動
人的資本経営において、経営戦略と人材戦略の連動は最も重要な要素の一つです。
これは、企業の長期的な価値向上を実現するために、経営戦略に基づいた人材戦略を策定し、実行していくことを意味します。
◯企業価値向上:
人材を「資本」と捉え、適切な投資と育成を行うことで、従業員の能力とエンゲージメントを高め、企業の競争力強化と持続的な成長に貢献します。
◯環境変化への対応:
急激な技術革新やグローバル化など、変化の激しい時代において、企業は柔軟に対応できる人材を確保し、育成していく必要があります。
経営戦略と人材戦略を連動させることで、変化に対応できる組織を構築し、持続的な成長を可能にします。
トップランナー企業の実践例
事例10:株式会社荏原製作所
荏原製作所は、「対面市場」別の組織に移行し、顧客ニーズへの対応力を高める経営戦略を推進しています。
この戦略を人材面から支えるため、人事体制を「戦略人事」「制度設計・運用」「人材開発・組織開発」の3つの機能に再編しました。
事業部門にはHRBP(HRビジネスパートナー)を配置し、事業部門のニーズや人事に関する経営課題をコーポレート機能が吸い上げ、会社全体での人的資本経営を進めています。
※HRビジネスパートナー(HRBP)とは?人事のトランスフォーメーションを実現する方法を解説(HR大学)
ポイント: 経営戦略に合わせて組織構造を変革し、人事部門の役割を明確化することで、人材戦略と経営戦略の整合性を図っています。
事例11:日揮ホールディングス株式会社
日揮ホールディングスは、中期経営計画において、事業ポートフォリオの実現に必要な人員数を事業領域・職種・等級別に試算し、人材の採用・配置・教育、リスキリング・アップスキリングを行う分野を明確化しています。
人材ポートフォリオの充足状況、スキルの充足状況、地域で活躍する社員数の推移など、独自の指標を選定し、進捗状況を管理しています。
ポイント: 将来を見据えた人材ポートフォリオを作成し、その実現に向けた具体的な施策とKPIを設定することで、人材戦略の実行力を高めています。
事例12:株式会社メルカリ
メルカリは、「世界中の多様なタレントの可能性を解き放つ組織の体現」を人的資本経営方針として掲げ、大胆な挑戦を生み出し続けること、人材のスキル向上やパフォーマンス向上に大胆な報酬で報いることなどを人材戦略として推進しています。
ポイント: 挑戦を重視する企業文化を醸成し、社員のバリュー発揮度合いに応じた報酬制度を設計することで、人材のモチベーションとエンゲージメントを高め、経営戦略の実現を促進しています。
経営戦略と人材戦略の連動を強化するためのポイント
◯経営戦略の明確化:
まず、企業が目指す方向性、中長期的な目標、そして具体的な戦略を明確に定義する必要があります。
◯人材要件の明確化:
経営戦略を実現するために必要な人材像(スキル、経験、知識、行動特性など)を具体的に定義する。
◯人材ポートフォリオの策定:
現状の人材構成を分析し、将来必要な人材構成(人材ポートフォリオ)を策定する。不足する人材を明確化し、採用・育成計画に反映する。
◯人事部門の機能強化:
人事部門が経営戦略を理解し、戦略的なパートナーとして機能できるように、必要なスキルや権限を付与する。
◯コミュニケーションの促進:
経営陣と人事部門、そして従業員の間で、経営戦略と人材戦略に関する情報共有や意見交換を積極的に行う。
◯評価と報酬制度:
従業員の貢献度や成果を適切に評価し、報酬に反映させることで、モチベーションとエンゲージメントを高める。
これらのポイントを踏まえ、各企業は自社の状況に合わせて、経営戦略と人材戦略の連動を強化していくことが重要です。
トップランナーの取組②:リスキリング・学び直し
リスキリング・学び直しは、従業員が新しいスキルや知識を習得し、変化するビジネス環境やテクノロジーに対応できるようにするための取り組みです。
特に、デジタル化やAI技術の進化が加速する現代においては、企業が競争力を維持し、成長を続けるために不可欠な要素となっています。
人的資本経営においても、リスキリング・学び直しは重要な要素の一つとして位置づけられています。
企業は、従業員を「資本」と捉え、リスキリングを通じて従業員の能力向上とエンゲージメントの向上を図り、企業価値の向上に貢献していく必要があります。
日本企業におけるリスキリング・学び直しの現状と課題
日本企業におけるリスキリング・学び直しの現状は以下の通りです。
◯多くの企業でリスキリング・学び直しの重要性が認識されている:
調査結果では、リスキリング・学び直しの重要性を認識し、何らかの取り組みを行っている企業は全体の6割以上を占めています。
◯具体的な施策の実施:
社内研修や外部研修、オンライン学習プラットフォームの導入など、様々なリスキリング・学び直しの施策が実施されています。
◯課題:
一方で、リスキリング・学び直しの成果が十分に発揮されていないという課題も浮き上がっています。
従業員に業務に使えるレベルの専門性が身に付いたと考える企業は全体の2割未満にとどまり、多くの企業で、本当に企業価値の向上に資する有効な施策になっているか、振り返る必要性があることが示唆されています。
より具体的に、以下のような課題を指摘しています。
◯従業員のモチベーション不足:
リスキリング・学び直しの必要性を理解していない、あるいは、時間や費用面での負担が大きくて参加意欲が低い。
◯効果的なプログラムの不足:
従業員のニーズや、企業の事業戦略に合致した効果的なリスキリング・学び直しのプログラムが不足している。
◯評価・処遇制度との連携不足:
リスキリング・学び直しによって習得したスキルや知識を評価し、処遇に反映する仕組みが整っていない。
リスキリング・学び直しを成功させるためのポイント
リスキリング・学び直しを成功させるためのポイントを以下のとおりです。
◯経営戦略との連動:
企業の経営戦略に基づき、どのようなスキルや知識が必要とされるのかを明確にする。
経営戦略と人材戦略を連動させ、リスキリング・学び直しが企業の成長にどのように貢献するのかを明確にすることが重要です。
◯従業員のニーズ把握:
従業員のキャリアビジョンやスキルアップの希望、リスキリング・学び直しに対する意欲や関心を把握し、個々に最適化されたプログラムを提供することが重要です。
◯効果的なプログラムの設計:
実務に活かせる実践的な内容、最新の技術や知識を習得できる内容、受講しやすい形式(オンライン、オフライン、オンデマンドなど)でプログラムを提供する。
◯評価・処遇制度との連携:
リスキリング・学び直しによって習得したスキルや知識を評価し、昇給や昇格、報酬などに反映させることで、従業員のモチベーションを高める。
◯継続的な学習環境の整備:
一時的な取り組みではなく、継続的にリスキリング・学び直しを促進する環境を整備する。
◯経営層のコミットメント:
経営層がリスキリング・学び直しの重要性を理解し、率先して取り組みを推進することが重要です。
トップランナー企業の実践例
事例13:中外製薬株式会社
中外製薬では、社員の自律的なキャリア形成を支援するため、「Future Skilling」という考え方を提唱しています。
これは、コアスキルを土台として、専門性を極めるUp-skilling、異なる領域に挑戦するRe-skilling、マネジメントと専門性を活かした組織経営をするCross-Skillingという3つのスキルの習得を促す考え方です。
社員が自身のキャリアパスを描き、必要なスキルを自律的に習得できるよう、研修制度や社内公募制度などを整備しています。
ポイント: 社員が主体的にキャリアを考え、必要なスキルを習得できるよう、会社が様々な支援を提供しています。
事例14:富士通株式会社
富士通では、DX事業を推進するため、DX人材の不足という課題を抱えていました。
この課題を解決するため、社内人材のリスキリングに注力し、ビジネスプロデューサーやデータサイエンティストなどのDX人材を育成するプログラムを導入しました。
これらのプログラムでは、実務経験を積むことができるOJT (On the Job Training) や、外部機関との連携による研修などを提供しています。
ポイント: 事業戦略に必要な人材を育成するために、実践的なリスキリングプログラムを導入しています。
日本企業においては、リスキリング・学び直しは、企業の競争力強化、従業員のエンゲージメント向上、持続的な成長を実現するためにますます重要になっていきます。
企業は、上記のポイントを踏まえ、戦略的かつ効果的なリスキリング・学び直しの取り組みを推進していく必要があると言えるでしょう。
トップランナーの取組③:多様な知・経験の活用
多様な知・経験の活用は、性別、年齢、国籍、文化、専門性など、様々な属性やバックグラウンドを持つ人材が、それぞれの能力や個性を活かし、組織に貢献できる環境を構築することです。
これは、イノベーションの創出、組織の活性化、企業価値の向上に大きく貢献する要素であり、人的資本経営においても重要な要素の一つとなっています。
日本企業における多様な知・経験の活用の現状と課題
多くの日本企業は多様な知・経験の活用に向けて、様々な施策に取り組んでいます。
例えば、女性活躍推進、外国人材の採用、中途採用者の積極的な登用などです。
しかし、これらの取り組みが必ずしも成果に結びついているとは言えない状況も示されています。
調査結果によると、多様な価値観の取り込みに取り組む企業は全体の約6割存在するものの、成果創出に明確に寄与した企業は全体の1割程度にとどまります。
これは、以下のような課題が考えられます。
◯企業文化や風土:
長期雇用や年功序列を重視する伝統的な日本企業の文化や風土は、多様な人材の活躍を阻害する要因となる可能性があります。
◯マネジメント:
多様な人材をまとめ、それぞれの能力を最大限に引き出すためには、適切なマネジメント体制やスキルが必要です。
しかし、従来型のマネジメント手法では対応できないケースも増えています。
◯評価・報酬制度:
多様な人材の貢献度を適切に評価し、公平な報酬制度を設計する必要があります。
◯コミュニケーション:
多様なバックグラウンドを持つ人材が、お互いを理解し、円滑にコミュニケーションをとれる環境が必要です。
多様な知・経験の活用を促進するためのポイント
◯経営層のコミットメント:
多様な知・経験の活用を推進するためには、まず経営層がその重要性を理解し、率先して取り組む姿勢を示すことが重要です。
◯企業文化・風土改革:
多様な人材が活躍できるような、オープンで風通しの良い企業文化・風土を醸成する必要があります。
◯ダイバーシティ&インクルージョン(DE&I)研修:
従業員に対して、ダイバーシティ&インクルージョンの重要性や、多様な人材と働くことのメリットなどを理解させるための研修を実施する。
◯メンタリング制度:
多様な人材が、キャリア形成やスキルアップについて相談できるメンター制度を導入する。
◯柔軟な働き方:
多様な人材が働きやすいように、フレックスタイム制やテレワークなどの柔軟な働き方を導入する。
◯多様な人材の採用:
女性、外国人、中途採用者など、多様な人材の採用を積極的に行う。
◯評価・報酬制度の見直し:
多様な人材の貢献度を適切に評価し、公平な報酬制度を設計する。
トップランナー企業の実践例
事例15:アステラス製薬株式会社
アステラス製薬は、「EDEI」という考え方を導入し、多様な人材の活躍を推進しています。
EDEIとは、「エンゲージメント、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン」を意味し、従業員一人ひとりが多様性を尊重し、公平性を意識し、包摂的な行動をとることを目指しています。
同社は、グローバル規模での社内公募制度や、地域ごとにカスタマイズしたダイバーシティの取り組みなど、様々な施策を実施しています。
ポイント: 従業員一人ひとりが多様性を尊重し、公平性を意識し、包摂的な行動をとることを目指す企業文化を醸成しています。
事例16:出光興産株式会社
出光興産は、社長の諮問機関として「DE&I(ダイバーシティ&インクルージョン)推進委員会」を設置し、多様な人材が活躍できる環境整備に取り組んでいます。
同委員会は、女性採用比率、女性役職者比率、男性育児休業取得率などを主要KPIとして設定し、その達成に向けて、クロスメンタリングなどの施策を実施しています。
ポイント: トップダウンでDE&Iを推進し、具体的なKPIを設定することで、取り組みを加速させています。
事例17:大成建設株式会社
大成建設は、仕事と介護の両立支援に力を入れています。
社員への資料配付、介護セミナーの実施、相談体制の整備など、様々な施策を通じて、介護を行う社員が働き続けられる環境を整備しています。
ポイント: 従業員のライフイベントにも配慮し、働きやすい環境を整備することで、多様な人材の活躍を支援しています。
多様な知・経験の活用がもたらす効果
多様な知・経験の活用は、企業にとって多くのメリットをもたらします。
◯イノベーションの創出:
多様な視点や発想が融合することで、新しい製品やサービス、ビジネスモデルなどが生まれやすくなります。
◯顧客ニーズへの対応力向上:
多様な人材を擁することで、様々な顧客ニーズに対応できるようになり、顧客満足度向上につながります。
◯組織の活性化:
多様な人材がそれぞれの能力を活かし、切磋琢磨することで、組織全体の活力が高まります。
◯企業ブランド向上:
多様性を重視する企業として、社会からの評価が高まり、優秀な人材を獲得しやすくなります。
◯意思決定の質向上:
多様な視点から議論することで、より質の高い意思決定が可能になります。
日本企業においては、少子高齢化による労働力不足、グローバル化の進展など、経営環境が大きく変化しています。
このような状況下において、多様な知・経験の活用は、企業の持続的な成長を実現するために不可欠な要素と言えるでしょう。
企業は、多様な人材が活躍できる環境を整備し、その能力を最大限に引き出すことで、競争力を強化し、新たな価値を創造していくことが求められます。
トップランナーの取組④:人的資本情報の開示
人的資本情報の開示とは、企業がその人材に関する情報を、投資家や従業員などのステークホルダーに対して開示することです。
これは、企業が人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる「人的資本経営」を実践していることを示す重要な手段となっています。
人的資本情報開示の目的と重要性
◯投資家との対話:
人的資本情報は、企業の将来の業績を予測するための重要な要素です。
投資家は、人的資本情報の開示を通じて、企業の人材戦略やその実行状況を理解し、投資判断の材料とします。
◯従業員のエンゲージメント向上:
人材戦略やその成果を開示することで、従業員の会社への信頼や愛着を高め、エンゲージメント向上に繋がります。
◯企業の採用活動:
魅力的な職場環境や人材育成の取り組みを開示することで、優秀な人材の獲得に役立ちます。
◯企業の社会的責任:
企業は、人材に対する責任を果たしていることを社会に示す必要があります。
人的資本情報の開示は、その責任を果たしていることをアピールする有効な手段となります。
開示すべき情報
人的資本情報として開示すべき情報には、以下のようなものがあります。
◯人材戦略:
企業の経営戦略と連動した人材戦略、その具体的な内容、目標、KPIなどを開示します。
◯人材の状況:
従業員数、年齢構成、男女比、離職率、人材の多様性、スキルマップ、人材育成の取り組み、エンゲージメントスコアなどを開示します。
◯人事制度:
採用、評価、報酬、昇進、研修、福利厚生などの制度の内容、運用状況、成果などを開示します。
◯労働環境:
労働時間、ワークライフバランス、健康経営、ハラスメント対策、ダイバーシティ&インクルージョンなどの取り組み、成果などを開示します。
◯ガバナンス:
人的資本経営に関する取締役会の役割、CHROの設置状況、経営トップと人事部門との連携状況などを開示します。
開示媒体
人的資本情報は、様々な媒体を通じて開示することができます。
◯有価証券報告書:
法定開示書類である有価証券報告書には、人的資本に関する一定の情報を開示することが義務付けられています。
◯統合報告書:
統合報告書は、企業の財務情報と非財務情報を統合的に開示する報告書であり、人的資本に関する情報をより詳細に開示することができます。
◯サステナビリティレポート:
サステナビリティレポートは、企業の持続可能性に関する取り組みを開示する報告書であり、人的資本に関する情報も重要な要素となります。
◯企業ウェブサイト:
企業ウェブサイトは、投資家や求職者など、幅広いステークホルダーに対して、人的資本に関する情報を発信することができます。
◯投資家説明会:
投資家説明会において、人材戦略やその成果などを説明することで、投資家との対話を促進することができます。
企業事例
人的資本情報の開示に積極的に取り組んでいる企業の事例が多数紹介されています。
◯事例18:SCSK株式会社
SCSKは、「人材こそが価値創造の源泉」という考え方の下、事業戦略に即した人事制度・人材育成とWell-being経営を両輪とした人材戦略を展開しています。
同社は、有価証券報告書と統合報告書の両方で、人材戦略の詳細、KPI、実績値、具体的な取り組み内容などを詳細に開示しています。
また、投資家との対話を通じて、開示内容の改善にも取り組んでいます。
◯事例19:株式会社北國フィナンシャルホールディングス
北國フィナンシャルホールディングスは、地域金融機関として、地域社会への貢献を重視した人材戦略を展開しています。
同社は、統合報告書において、経営戦略と連動した人材戦略、人材ポートフォリオの充足状況、人材の採用・育成・活躍・輩出に関する独自の指標などを開示しています。
なお、有価証券報告書では、統合報告書との棲み分けを図り、限定的な情報を開示しています。
◯事例03:セイコーエプソン株式会社
セイコーエプソンは、統合報告書や有価証券報告書において、「強化領域への重点配置」「人材育成強化」「組織活性化」という3つの人材戦略に沿った形で情報を開示しています。
また、KPIと実績値だけでなく、過去の実績値を開示することで、自社の取り組みが進展している様子を示しています。
人的資本経営の重要性が高まり、投資家からの関心も高まっていることから、今後、人的資本情報の開示はますます重要になってくると考えられます。
企業は、ステークホルダーのニーズを踏まえ、戦略的な視点を持って、人的資本情報の開示に取り組むことが求められます。
情報開示の枠組みやガイドラインについては、今後変化する可能性があります。
法律や規制、開示のベストプラクティスに関する最新の情報は、関係機関や専門家に相談することをお勧めします。