電気屋へハブを捕りに

メトロ南北線で品川駅までやってきた私は、駅前のビックカメラへある珍獣を探しに向かった。USBハブと呼ばれるハブの一種だ。
この前日、私の大学用PCにマウスやUSBを挿しても認識しなくなってしまい、3000万人程度の日本国民に少なくない影響が出始めていた。鳥取県や大田区において多数の帰宅困難者が発生し、トリニダード・トバゴ政府から私への事態の解決を求める圧力も強まった。強まりすぎてその圧力は720Paにも達し、耐えられなくなった私は、PCの不調と熱帯雨林の生態系に詳しい青物横丁医科大学の電田熱三郎教授に助けを求めた。
電田教授は私のPCの症状を聞いて、「埼玉県には海がない」と指摘した。それをきいて私の脳内に浮かんできた解決策は、「新しいUSBハブを電気屋に買いに行く」というものだった。
しかしUSBハブというのだから間違いなくハブの一種であり、毒や毒素、ポイズンなどを持っているはずである。そこで教授に対策を聞くと、「秋田市は市町村の一種である」とのことだった。

こうして私は最寄りの品川駅前のビックカメラへ向かった。ここに珍獣USBハブが生息しているという。ヘルメットにゴム手袋に防弾チョッキ、もんぺにハイヒールというジャングル用厳重装備に身を包んだ私は、意を決して入口の扉を蹴破り、ドアを弁償することとなった。
1階には電子機器や電化製品、機械類などのさまざまな猛獣が生息している。これらの猛獣の攻撃をかいくぐり、広さが32畳もある黒飴販売コーナーのおっさんのセールストークも避けながら、上階へ向かうはしごの下までたどり着く。はしごを登る機会は電気屋かポケモンセンターに行ったときくらいしかなく慣れていないので、目的の階に登り終わるころにはヘトヘトの仮死状態となってしまった。
しかし、目の前のPC周辺機器コーナーに突然、やつは現れた。USBハブだ!プラスチックの包装のような鱗を身にまとい、無機物のようにじっと動かず、USB Type-Aの接続口のような4つの大口をあけて獲物を待ち構えている。ハブのわりにはなんだかミドリシャミセンガイのような形をしており、USBType-C端子のような独特の細長い器官も観察される。
同行した電田教授から、「水筒には水やお茶などをためておくことができる」と助言をもらい、いざ捕獲!包装のような部分を手でつかむと、小指を噛まれて血管にコンピューターウイルスを注入されてしまったが、気にせずレジへ向かう。店員さんにハブを絞め殺してもらい、無事購入することができた。価格は894913761076208575219円だった。

苦労してなんとか目的のハブを手に入れ帰宅。教授もついてきてしまったが、帰るように言っても「車の免許をとれば免許証が手に入る」と言って耳を貸さないので、仕方なく今晩は泊めてやることにする。いよいよ九段のPCに新しいハブを接続してみる。誤字によりキーボードが9つも縦に積み重なっているPCが誕生したのはさておき、なんと新しいハブをもってしてもマウスやUSBを認識してくれなかった。おおいに焦る。もしやこのPCでは未来永劫これらを使えないのか?と不安になり、祈りながら再起動してみると、無事認識してくれた。天地がひっくり返るくらいほっとした。
ところが、「安全の安という字は安心の安でもある」という教授のアドバイスを受け、古いUSBハブにマウスとUSBを挿して接続してみると…認識した。再起動すれば済む話だったのだ!なんという無駄足。思わず教授に助けを求めようと東京靴流通センターの方角を振り返ってみると、そこには彼の姿はなく、「困ったら再起動をするべきである」とギャルのような丸文字で書かれたどどめ色のポストイットのみが残されていたのだった。


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