'We are what we eat'
映画 'We are what we eat'(食べることは生きること) は、誰と観るかによって話したいことが色々湧き出るドキュメンタリー。そのことをよくご存知の方々による上映会が、2024年11月10日札幌で行われた。プログラムは映画に加えてスローフードのシェフのお話、スローな生産者の食材でつくられたブッフェ&ネットワーキング。生産者、料理人、生活者や発信者と、色々な立場の人がひとつのものを見て過ごし、食卓を囲む仕掛けだ。実行委員会の母体である秋山財団は、生命科学の振興と、地域の環境や人材づくりに貢献している。
映画の主人公はアリス・ウォータースさん。2012か2014のトリノのテッラマードレ(TM)に日本のメンバーとして参加した時に少しだけお話ししたことがある。思ったより小柄なアリスさんは、輝く笑顔と人の気持ちに語りかけるような語り口が印象的で、すぐに魅了された(聞きたいことはいくつもあったのに、ダメだなぁ)。当時はアリスさんが西海岸で実現した「食べられる校庭」=エディブルスクールヤードが動いていて、これが教育や子どもの暮らしに多くの良い影響を与え続けることがわかり、西海岸から教育者やスローフーダーたちを介して各地各国へ伝わっていたころだ。また、別の回のTMではアリスさん、ヴァンダナ・シヴァさん、ほかにも持続的な食のリーダーたちによる「種子を守る」などいくつかのセッションもあり、すごいな〜、攻めてるわ〜、これは北海道でもやってるぞ、などと思いながら聴いた。その時一緒に行った人たちはその後、それぞれの専門分野で食の持続性に関わっている方が多い。
この上映会に誘ってくれたのは、秋山記念財団評議員の湯浅優子さん。北海道の私たちがスローフードという哲学を学ぶおおもとになった人で、北海道のスローフード運動の精神的リーダーだ。彼女のもとにリユニオンできたことが嬉しい夜だった。小柄な優子さんは笑顔と穏やかな声の持ち主で、多くの困難にも負けずにリーダーでいてくれた。アリスさんの雰囲気とちょっぴり似ているなと勝手に思っている。ネットワーキングの達人でもあって、私は偏狭であまり顔が広いとは言えないけれど、そんな私ですらももさん、そして財団の委員をしておられる坂本純科さん(北海道エコビレッジ推進プロジェクト)はじめ、いくつものご縁を頂いている。優子さん、ももさんの2人はこの映画の発端から完成まで携わった方々とも繋がりが深く、いち早く北海道でこの映画を上映してくださった。今回もそうした中の一回で、今後も観る機会はありそうだ。
映画「食べることは生きること〜アリス・ウォータースのおいしい革命」の情報はこちら。
作品は美しく誇張のない映像で、食の状況を自ら変える方法を表現している。Farm to table. 畑と食卓がつながりを結び直すと、食べものの真価がわかり課題が減る。 ” Farmers' first. 農家さんは生産するだけでなく大地を守る人なのだから一番大切”。作る人と使う人、食べる人を直接結びつけてみせたアリスさんの言葉は力強い。勇気づけられる日本の生産者や地域コミュニティの人々の姿も印象的。とても情熱的だけど、劇的になりすぎないようメタ的な視点も何ヶ所か感じられた。そして何より、アリスさんが訪れた海士町、亀岡市、神山町、石見銀山のある大田市(行ってみたい!)、バークレーの映像はどれも思わず深呼吸してしまうほど魅力的で、人の温かみにあふれていた。
アリスや賛同者たちの実践は、こんなふうに受け取れる。
たったひとりの私だって、地元の食材を選べばご近所がちょっぴり変わる。校庭に畑をつくり耕せば、子どもは食を知る。それで地産給食をつくれば、健康や味の価値観が未来へ伝わる。
「すべての子どもたちに学校菜園を」エディブル・スクールヤード・ジャパン
ここからちょっと、飲食業界記者的な感想。
心ある地方のレストランの多くは、ひとりひとりに取材してみると、実は映画で語られたシェパニースのコンセプトに近い考えを持っている。特に産地である北海道のシェフはそうだ。あなたのお気に入りのお店も、少し知り合ってみればそんな一人かもしれない。職業的料理には、食材を無駄なく使う技術や保存方法といったあらゆる経験と知恵が、数百年単位で蓄積されているからだ。全体を俯瞰して論じた方が良いことと、ご近所レベルで考えてみた方がわかること、両方があると思う。だからスローフードも含め、安心安全が好きな人こそ料理人や食品製造や流通のプロの仕事をもっと知って欲しいと、いつも思う。
農業記者的な感想もちょっと。
アリスさんに出会った日本の生産者さんたちが思わず涙した場面があった。それはストーリーの中で自然にインシデンタルに生まれた場面に見えた。そして自分も似たような場面を見たことを思い出した。記憶を辿ったらそれはことごとく、ものをつくる人の思いが成就した時の涙だった。
農業は担い手が足りない。減り続けている。食べる人の中にはつくる人のことに興味がない人も多い。食育なら選択権のある大人にするといい。伝えるなら食の知識以前に、この食べものをつくっている人の存在についてだと思う。食の矛盾や課題の多くは、作る人、流通や加工調理をする人、食べる人、互いのつなぎめのところにあるからだ。取材で出会う農家さんたちはみな、現実とたたかう経営者だ。農業への愛着と冷静な経営判断を抱えながら生産という仕事をして、私たちはそれを食べて生きている。もう、お互いをもう少しずつ理解することからしか、つなぎめの矛盾は越えられない気がする。
映画の後、今年noyaを開業したスローフードのシェフ、塚田宏幸さんのお話があった。その内容が長年の実践と思考が表れていてこの映画にもぴったりだった。見てもらいたいので、彼の許可をもらったら要約しましょう。
スローフード運動に縁のある食材でつくったブッフェ風のお料理、作り手の顔の浮かぶチーズ、塚田さんの奥さんが開いたパンの店asaoがメノビレッジの小麦で焼いたパンが出て、みなさん一緒に楽しくいただく。(余談だけど、メノの小麦は普段使う製粉会社の道産小麦とは扱いが違って、かなりハラハラしたらしい。小麦がとれたてで酵素活性が高いと、発酵が阻害されてパン生地がまとまらないことがある。ひょっとしてそれかな?)。
食材の生産者の方々、まずはお肉の生産者さんからメンションします。
(手が回らないので誰か補足してくれないかな)
ひとつひとつに作った人の顔が浮かんで、お腹も気持ちもポカポカに温めてくれる。すばらしい夕食をありがとうございました。
菅野牧園
えりも短角王国 【守人】まぶりっと
メノビレッジ長沼
HEPP "北海道エコビレッジ推進プロジェクト"
ニセコチーズ工房<Niseko Cheese Factory>
ほかのみなさん、ごちそうさまでした。
作った人たちと一緒に食べるのは、いつだって最高です。
ではまた。