日本酒の事業構造について書いてみた #1
こんにちは。「HINEMOS」という日本酒を展開している酒井です。
時間をコンセプトにした日本酒で8銘柄を展開しています。
いつもnoteではHINEMOSのブランドやクリエイティブについて、書くことが多いのですが、今回は趣向をかえて、日本酒の事業構造について書いてみたいとおもいます。
スタートアップや新規事業、D2Cや製造小売業でも共通して参考になる部分があればいいなとおもっています。
事業構造といっても、いろんな切り取り方があるとおもうので、あえてタイトルに #1 をつけています。割とニーズがありそう...と思ったらがんばって書いていきたいとおもいます。
前提として、1年半前にIT領域から縁もゆかりもない日本酒業界に飛び込んで創業しています。その理由はこちら。
ですので、よくもわるくも、構造をフラットにみれるはず、とおもっています。
1回目は、日本酒の原価構造を取り上げてみたいとおもいます。ネットの業界にいたときに、そこまで意識することがなかった、この「原価」という悪魔のような言葉を、日本酒業界にきてから、というより社会人になって、いちばん考えているような気がします。
原価構造
ずばり日本酒を1本つくるのにいくらかかるのか?という観点から考えていきます。
(日本酒の一升瓶)
創業したときに、いよいよ酒蔵に入って、日本酒をつくりはじめる前に、リサーチしてたときに参考にした資料が、日本政策投資銀行の「清酒業界の現状と成長戦略」や農林水産省の日本酒をめぐる状況などです。
とくに、政策投資銀行の資料で、初期にキラースライドだなとおもったのが、下のP16の価格構造の例です。
DBJ(日本政策投資銀行)資料より抜粋
(スマホだと図が小さいかもしれません。拡大してくださいませ)
簡単に説明していきます。こちらは、日本酒の一升瓶(いっしょうびん)の価格構造です。一升瓶は、1.8リットルです。HINEMOSの1本は500mlなので、大きさは3.6倍ですね。
右からいきます。
米が244円, 米以外の資材が105円 = 349円
349円の内訳は、米と米以外となっていますが、米以外は、瓶、キャップ、ラベルシールなどを指します。
どこまで細かくブレイクダウンすべきか、迷いながら書きますが、お酒につかう酒米(さかまい)は、1俵(ぴょう)60kgが14,500円といわれています。
わたしも米農家の方々から、ご提案をいただきますが、概ね15,000〜25,000円くらいだとおもいます。もちろん、その年の収穫高や品種によるとおもいますので、あくまで概算です。
実際にHINEMOS(500ml)のREIJI(0時)という銘柄は1,000本をつくるのに、280kgのお米をつかっています。仮に1俵(60kg)15,000円だとすると、
15,000円÷60kg=250円/kg 1kgあたり250円
280kg÷1,000本=0.28kg/本 1本あたり0.28kg
250円×0.28kg=70円 1本あたりの酒米の価格
70円×3.6倍=252円 1.8リットル換算
となり、概ね、資料の244円とかなり近くなりました。
残りの資材は、HINEMOSの場合、キャップ、キャップシール、瓶です。
キャップ:3〜10円
キャップシール:10〜30円
瓶:50〜150円
くらいだとおもいます。このあたりは100万本つくるケースと1,000本つくるケースで、かなり差が出ますので、あくまでご参考までに。
余談ですが、製造業は生産量をふやせばふやすほど、材料1つあたりの単価が下がるので(スケールメリット)、初期のベンチャーは不利だなと感じますね。発注にそれなりの最低ロット(数)が必要です。たとえばHINEMOSは、キャップが最低発注ロット3万個で、コラボ銘柄もふくめて10銘柄あるので、30万個のキャップを在庫として、はじめにかかえています。
キャップの上面にデザインを施すとかでも変わります。単価はベンダにもよるとおもいます。瓶は奇抜な形状はいくらでもありますので既製品として考えます。
仮に中央値をとって、
キャップ:6.5円
キャップシール:20円
瓶:100円
合計:126.5円
となり、図の105円とおおよそ一緒になりました。HINEMOSは、キャップやキャップシールにデザインを施しているので、もう少し高いかなという印象です。
右から2つめです。
瓶詰め:349円
瓶詰めと表現されていますが、ここが労務費ですね。お酒づくりに関わる方の人件費を指します。
これまたどこまでブレイクダウンすべきかですが、製造工程で必要な酵母や種麹(たねこうじ = 麹をつくるための種)、乳酸といった類もここの瓶詰め(間接費と呼ばれます)に入ってくるとおもいます。1本あたりは数円になるとおもうので詳細は割愛します。
配送オペレーションまで含めた、この瓶詰め(労務費 and 販管費の間接費)が突き詰めていくともっとも原価を左右する重要指標だとわたしは捉えています。
瓶詰めなど労務費の原価計算の仕方も、蔵によってそれぞれ違う印象です。ここも大きなテーマですので、いったん割愛します。
右から3つです。
粗利です。ここは、酒蔵の経営者 = 蔵元が1本あたりにいくら利益を乗せるか、を決める部分です。ここは経営者の思想や戦略によるとおもいますので、一概にいえない部分です。
粗利300円(30%)
右から4つめです。
消費税50円(=100円/現在) + 酒税216円(20%)
消費税50円になっていますので、5%の時代ですね... いまですと10%で100円です。
酒税は業界外の方はあまりご存じないとおもいますが、1.8リットルの場合、216円、HINEMOSの500mlの場合60円が酒税になります。
右から5つめです。
卸売マージン189円(13%)
この部分は問屋さんだとおもいます。ベンダの方々と話すと10-15%が一般的だとおもいます。主な役割は、酒販店、スーパー、コンビニなど多岐にわたる小売店に分配する役割を担っています。
最後の右から6つめです。
小売マージン437円(23%)
上述の酒販店、スーパー、コンビニといったボトル販売を行う小売店です。ここは概ね25-35%かなとおもいます。
結果的に、一升瓶を1本販売するときの酒蔵の粗利は、1,890円に対して、300円、ということをこの図は表しています。これは高いのか、低いのか、経営者は考えていかなければいけません。
もちろん原価は1本あたりの製造原価だけではない
造りはじめのときに構造を図に落としたのがこちらです。
赤枠で囲った部分が、製造元の井上酒造に委託している部分です。上述してきたとおり、酒米と酒税はほぼ固定されるため、労務費が変動費となり、大きな割合を占めます。
この図から何をすべきかはざっくりいうと、戦略や思想に基づき、銘柄の価格を決め(プライシング)、販売数をふやしていくことで、材料費の原価を下げて、粗利幅を広げていく、ということになります。
この図をつくった後には、配送ケースも専用でつくり、ギフトラッピングも行い、銘柄も10銘柄まで増えたことで、SKU(stock keeping unit)= 販売単位が複雑化してきています。
1本あたりの製造原価のみならず、カスタマーのお手元に届くまでの原価構造を理解して、その都度コントロールする必要があります。
間接費のコントロールは管理会計の知識が不可欠ですし、労務費などを正確に割り出す場合には、ABC(activity based costing:活動原価基準管理)分析なども必要になってきます。
それらの余剰部分から、セールス・マーケティングにどれだけ費用を投下するのか、そして利益を出していくのか、日本酒、製造小売業は初めてですが、原価コントロールはとてもやりがいがある部分です。
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クリエイティブディレクターの古賀が、ゼロからキャンバスに描いています。父親が歩んできた今までの輝かしい過去、苦い過去、全ての人生の軌跡に感謝を伝えるために、苦楽を共にした「グラス」、人生の歩みを支えてきた「靴」、たくさん学び道を切り開いた「本」の3作品を描き下ろしました。
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