葛藤する人
葛藤する人
走り続けていたガラスペンが再び止まった。
机から離れたくなって、テラスに出て夜空を眺めた。オリーブ色のブラウスが夜風にはためく。その暗闇の広大さは、言い訳がましい私の小心を私ごと吸い込んでしまいそうに感じられた。そうは言っても変わらず私は自信を持てなくて、目の前にある現実に小さくため息が出た。
冬だから星がよく見えた。その無数の煌めきに、やはりあの分厚い本を思い出さずにはいられなかった。その表紙は布張りになっていて、光が当たると反射する特別なゴールドの塗料が所々に練り込まれているのが、特にお気に入りだった。
その愛を忘れぬように、と幾度となく先生に言われたのが頭をよぎった。私が師と仰ぐその人は、いつも穏やかな顔で話しかけてくれた。本当に温かい人だった。
やはりやらなければと、私は首元のラピスラズリを握りしめながら机へ戻った。
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