【出版】菅義偉氏の著書「一部削除」は是か非か
菅義偉総理が2012年に出した著書『政治家の覚悟』が新書化されるにあたり、公文書管理のあり方などについて書かれた部分が削除されたことが話題になっています。
書店の現場からは、版元の文芸春秋も含めて厳しい指弾の声も上がってます。こちら。
このnoteもそうですが、多くの人の論調は「非」が多いですね。それはそれでわからんでもない。公文書管理というのはホットな政治的イシューでもあるし、本来は民主主義の根幹でもある。わかります。
とはいえ、「是か非か」で言えば「是」である、という答えになります。なぜか。
それは究極的に本は「著者と出版社のもの」だからです。彼らにはそれを出版して売る権利があるのはもちろん、自分たちが望む形に作り替えて世に出すこともできる。出版される時代の要請に応じて表現を変えることもできるし、変えずにそのまま出すこともできる。
例えばマンガの例を挙げると、『ドラえもん』の吹出し内のセリフは初出時の現行のものでは大幅に変わっているものがある一方で、手塚治虫全集の巻末には「人種差別的表現もあるけど、当時の時代背景を考えてそのままにしました」という注意書きがある。ポリティカルコレクトネスやレイシズムの文脈に関わらないものでも、「単行本収録時に加筆訂正が多いから、雑誌連載版を保存している」というマンガ好き、いますよね。
だから、菅義偉と文芸春秋が「公文書管理についての部分は削除したい」と思うなら、それを差し止める権利は誰にもないわけです。そのこと自体は法に触れてもいないしね。誠実かどうかといえば、もちろんノーでしょうが。
では、どうすればいいか。これはシンプルで、検証本や反論本を出せばいいわけですよ。『日本人とユダヤ人』(イザヤ・ベンダサンこと山本七平)と『にせ日本人とユダヤ人』(浅見定雄)みたいなね。まあこういうのは後発の検証本のほうが売れないわけですが(ていうか『日本人とユダヤ人』ってまだ普通に売ってるのかよ)、『日本国紀』みたいなインチキベストセラーと違って菅総理本がそんなに売れるとも思えないので、急ぎ準備して、菅総理本があるうちに同時に店頭に並べる勢いで、というところでどうでしょうか。
あとね、出す側が意識してるかどうか知らないけど、紙で出した初版本は残りますよ。なんたって物理ですから。これを回収するって言いだしたらホントに言論の自由の危機だからね。
そういう意味では、「電子書籍オンリーで出版→その後勝手に改訂」というパターンが今後一番怖い。電子書籍は、現状は媒体としての本の所有権は読者側にはないので、「手元に持っている本を勝手に書き換えられてしまう」という事態が起きる。なんなら著者の意向とは違っても、出版社が「忖度」して、あとから勝手に修正するなんてことも起こり得る。これは注視していかなければいけないと思います。
このnoteだって、最初に公開してから何回か修正入れてます(論旨は変えてないけど)。wikipediaなら編集履歴は見えるけど、noteはたしか見えなかったはず。gitみたいな仕組みで修正履歴がすべてわかればいいのかもしれないけど、そうなると可読性に影響与えるわけで、難しいですよね。