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【オメガバース小説】犬のさんぽのお兄さん【第134話】

【地方都市×オメガバース】オメガでニートの園瀬そのせあずさは、T中央公園を散歩中に謎の長髪イケメンアルファ(ダサい臙脂えんじのジャージ姿)に出会う。その瞬間、ヒートが起きて運命の番だと分かり——!?


 あっという間に五月最後の週末がやって来た。月曜は憲法けんぽう記念きねんだから三連休である——といっても年中夏休みの俺達には余り関係無い。
「京一郎きゅん! 良い季節だし、俺達の出会いの地である中央公園へウォーキングに行こうぜ! そんで、愛妻と愛犬の写真を撮りまくるんだ!」
 キッチンの一角の壁を背にし、所謂いわゆる臨月りんげつスクワット」をしながらそう持ち掛けたら、朝食を作る為キッチンに立ったばかりの京一郎が「あ゛あ゛?」と言って振り返ったのでぎょっとした。
「何だ、どうした京一郎きゅん! いきなり半グレ期突入か?」
「半グレ期って何だ? いや、ちょっと喉にたんが絡まってな」
「そうなのか? 花粉か?」
「そうかも知れない……いや、もしかしたらぽん吉さんの背中を吸引し過ぎたせいかも」
「ああ、京一郎きゅん、いつもやってるもんな……」
 愛犬家なら皆やっている(?)所謂いわゆるいぬい」をやり過ぎたと聞いて、俺は納得した。細かい毛や頭垢ふけを大量に吸い込むのに毎回やるのは、京一郎いわく「あらががたい誘惑がある」かららしい。
「京一郎きゅん! 俺なら毛はそんなに生えてないから、ぽん吉の代わりに吸引するのはどうだ? ああでも、お乳とお股ならいつも吸ってるか……」
「藪からステックなR18発言はやめろ」
 良いことを思いついた、と思って勧めてみたら、京一郎は眉を寄せてそう言った——せっかくのアイデアなのに、と俺は口を尖らせる。
「それよりさっきの提案だけど、中央公園にウォーキングに行こうぜ! 新緑が綺麗できっと気持ち良いぞ!」
「分かった。では、お弁当を作って行こう。何が食べたい?」
勿論もちろん、唐揚げにポテトサラダに林檎りんごうさぎ、それからミートボールにだし巻き卵、振り掛けおにぎり!」
「いつもそれだな。では、さっさと作ってしまおう」
 京一郎は俺のリクエストに微笑ほほえんで頷くと、部屋着のそでうでまくりした……。

 T中央公園には桜の木の他に原生林もあるから、新緑の季節は公園全体が濃厚な緑の香りに包まれる——ベ◯ツを駐車場に停めて園内に入ると、原生林の手前にある池のほとりの遊歩道を歩く。樹上には青鷺あおさぎのコロニーがあるので、ガアッ、ガアッとしわがれた鳴き声が響き糞尿のツンとした臭いがして、まるで動物園のようだ。しかし、俺達は慣れっこになっており気にしないでずんずん進んだ。
「りょーちゃんが生まれてしばらくはそんな暇無いだろうけど、ちょっと余裕が出来たらこんな風にまたピクニックに来ようぜ! 京一郎きゅん!」
勿論もちろんだ。ベビーカーにりょーちゃんを乗せて散歩するのは楽しいだろう。今から楽しみだ」
「ふふっ」
 ぎっしりおかずの詰まった弁当箱が入った大振りのトートバッグを肩に掛けた京一郎を振り返って言うと、彼は微笑ほほえんで応えた。それに嬉しくなって笑っていたら、京一郎は眉を寄せて「ちゃんと前を見て歩け」と注意した。
「よし、ポメラニアン柄のピクニックシートを広げろ、京一郎きゅん! ここなら直射日光が当たらない」
「これはポメラニアン柄ではなく柴犬柄なのではないか? まあ、ぽん吉さんに似ているから買ったんだが」
「キャン!」
 緑の地に茶色い犬のイラストが総柄プリントされたピクニックシートを広げるように命令したら、京一郎は首を傾げてそう言ったが言う通りにした。ここは大きなくすのきの下だから、直射日光は当たらないけれど木漏こもが降り注いで気持ち良い。そうして京一郎が敷いたシートの上にスニーカーを脱いで上がり込むと、俺は胡座あぐらをかいて「さあさあ、早くお弁当を開けろ! 京一郎きゅん!」とかした。
「うむむ、唐揚げはカリッカリに揚げられた鶏皮とりかわの部分からあぶらがジュワ〜ッと染み出ておいちいですの〜。ポテトサラダもマヨネーズが多めでふわふわ! そしてだし巻き卵は甘くなくて塩味! 俺様の為にしっかり焼いてあるけどりょーちゃんが生まれたら半熟にして貰うのも楽しみですな!」
「この前から長文で感想を言うのにまっているのか? 鶏皮とりかわは、わざと多めに付いているのを選んだんだ。あぶらギッシュなのは良くないが、もうぐお産だからな。体力を付けないといけない」
「それなんだけど、りょーちゃん、いつ出て来るつもりなんだ? 予定日ジャストの方がママは心の準備が出来て丁度良いんだけど」
「真面目に腹に尋ねるな」
 おかずを刺したフォークを両手に持ち、もぐもぐ口を動かしながら感想を言う。そして膨らんだ腹を見下ろして中のりょーちゃんに質問したら、京一郎が呆れ顔でツッコミを入れた。
「野菜も食べるんだぞ。りょーちゃんには栄養満点で生まれて来て貰わないといけないからな」
「ポテトサラダ食ってるじゃん!」
葉物はもの野菜も食べろ」
「レタス食ってると、青虫になったみたいな気持ちにならない? だから胡麻ごまドレッシングでビチョビチョにしないとな!」
「前後が繋がっていない」
 そんな阿呆な会話をしていたら、俺達の方へやって来る人が居て顔を上げた。
「おお?」
「おんか、めんか?」
ONオンMENメン? 俺達はMENメンです。俺はオメガだけど!」
「ぽん吉さんはめんではない。おんです」
「え? 何言ってんだ京一郎きゅん?」
 やって来たのは七十代後半くらいのおじいちゃんで、いきなり謎の質問をした。それに自信満満に答えたら、京一郎が眉を寄せて訂正した。俺は丸切り意味が分からないで首を傾げたが、二人はそれを無視して会話を続ける。
「偉いきがええの。高かったんかい?」
「百◯十万しました」
「へええ、やっぱりなあ!」
「京一郎きゅん、ぽん吉さんがONオンってどういう意味だ!? もしかして、この状態はどこかで隠し撮りされていて、しかもONオン AIRエアーされている!?」
「オスか、メスかという意味だよ」
「何だ、じーちゃん普通に喋れるんだな!」
「こら、思い切り失礼だぞ」
 京一郎に質問したら、彼ではなくておじいちゃんが答えた。それに驚いていると、京一郎が眉を寄せて注意した。だからへへへと笑って誤魔化ごまかす。
「じーちゃんも犬飼ってるん?」
「昔は飼ってたけどなぁ、ただの雑種だよ。でもこの公園にはたけぇ犬が一杯来るから、聞いて回ってんだ」
成程なるほど〜」
「それで、もうぐ生まれるんかい? 男の子か?」
「かなりの確率で男! もし女なら京一郎きゅん……夫と同じでアルファ! それかワンチャンベータの男!」
「そりゃ良かったなあ! 男でアルファなら、どこ行っても恥ずかしくねぇ」
 おじいちゃんは俺の腹を見ながらまた尋ね、再び自信満満に答えたら、そう応えてハハハと笑いながら去って行った。俺はそれを見送ってまた食べ始めたが、京一郎が手を止めているのに気付き顔を上げた。
「どうした? 京一郎きゅん」
「いや、あずさは何事も気にしないなと思って……」
「え? どういう意味?」
「男でアルファなら、どこに行っても恥ずかしくないと言われただろう……あずさはオメガなのに。そう言われても気にしないでいる」
「そんなの、気にしても仕方無いぞ! ああいうおじいちゃんはそういう世代だし」
「そうだが……。りょーちゃんは良いが、もし下の子達がオメガだったらと思うと……」
「京一郎きゅん……」
 本人よりも京一郎が気にしているのを見て、振り掛けおにぎりを頬張っていた俺はもぐもぐ咀嚼そしゃくしながら眉を寄せた。しかし、ごっくり飲み込むとまたしても自信満満に言う。
「いつもは矢鱈やたら態度がデカくて自信満満のくせに、りょーちゃん達が辛い思いをするかも知れないと不安になるなんて、京一郎きゅんも随分ずいぶん父親の自覚が出来て来たんだな! でも心配することないぞ! 京一郎きゅんに似ても俺に似ても、どっちにしろ意味不明な自信を持った性格になるからな! きっと、意地悪されてもけて生きて行けるはずだ! いや、俺っちが責任を持ってそんな子に育ててやる!」
「あずさ……」
 例によって物凄く長文でなぐさめてやったら、京一郎はわずかに目を潤ませて俺を見た。それににかっと笑ってみせると、彼はフッと笑って「ありがとう」と言った……。

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深川シオ
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