【オメガバース小説】犬のさんぽのお兄さん【第133話】
【地方都市×オメガバース】オメガでニートの園瀬梓は、T中央公園を散歩中に謎の長髪イケメンアルファ(ダサい臙脂のジャージ姿)に出会う。その瞬間、ヒートが起きて運命の番だと分かり——!?
※このお話は18歳以上向けです。
ところで、露出狂大作戦を成功させた後、家のスタジオでもガブちゃんのマタニティペイントの記念撮影をした。そうして出来た作品は既にカメラのミナミムラでポスターサイズに印刷して貰って、態態通販で取り寄せた木製の深緑のフレームに入れてリビングの壁に飾ってあった。
フレームの中の俺はいつもと大違いだ。駅前で撮影したのと同じ白のチューブトップを着て、美麗なマタニティペイントが施された腹にそっと手を添えて微笑んでいる。霧の中を思わせるバックスクリーンの前で撮影した上に、画像編集ソフトフォトショッピで幻想的な加工をしてあるから、まるで森の中に居る妖精のようだ——と自画自賛していたら、京一郎に「それは言い過ぎだが、とても綺麗に写ったな」と褒めて貰えた。
「しかしあずさ、どうして出来上がった写真をSNSにアップしてくれないんだ。そんなに気に入っているのに」
オムハヤシで腹を満たした後、壁際に行ってポスターを眺めていたら、片付けを済ませた京一郎がやって来てそう尋ねた。それに振り返ると、不満そうに口を尖らせていたのでぷっと噴き出す。
「何でって、俺っちのキャラが崩壊するだろ? こんな美しく写ったのを載せたら……」
「お母さんもお祖父様もお祖母様も、物凄く喜んでいたのに! まぁ良い、俺のポートフォリオサイトにはもうアップしたから……」
「京一郎きゅんったら、ネットにアップするだけじゃ飽き足らず、これと全く同じものを実家の玄関に飾っただろ! それで満足してくりと……」
「不穏な語尾を付け足すんじゃない」
いつものようにお下品発言をしようとしたら、京一郎がぴしゃりと遮った。それにぶうぶう言いながら、だって、と心の中で言い訳する。
俺がせっかくの一枚をツ◯ッターにもイ◯スタにも投稿しない理由は、恥ずかしいからというだけではない。写真の中の俺は京一郎の目を通して見た俺そのもので、何よりも愛しいと思う気持ちが伝わって来るからだ。そんな風に撮って貰えたのは物凄く嬉しかったし、一生の宝物になったので寧ろ大切に仕舞っておきたいのである——しかし、そう思っているのは暫くは秘密にすることにした。
「さて、ベビー用品は京一郎きゅんがウッキッキ! キャッキャッキャ! と揃えちまったし、出産までにしておくことは何があるかな?」
「俺は猿みたいな声を上げながらベビー用品を揃えていたのか? 自覚が無かったぞ……」
「ウキウキ、キャッキャよりも更に嬉しそうな感じだったからな」
「成程……」
そんな阿呆な会話をしながら、俺はリビングの一角を見遣った——すっかり準備が整ったりょーちゃん専用スペースである。本当に後は本人が入居するだけになっていて、京一郎がどれだけ楽しみにしているのか良く分かった。そういう訳で、彼はりょーちゃんが生まれてからも率先して世話をしてくれる筈だが、産むのと乳をやるのだけは自力でやらなければならないので、俺は風呂上がりの股関節のストレッチと母乳マッサージを頑張っていた。しかし近頃はやけに眠くて、途中でうとうとしてしまうこともしょっちゅうだ。
今も俺はふああ、と欠伸をすると、「京一郎きゅん! 昼寝するから添い寝しろ!」と命令して寝室へ向かった……。
添い寝といっても、俺は寝付きが良いので京一郎と一緒に布団に入り、大きな体にしがみついて五分も経ったら夢の中だ。
まだ外には眩しい日差しが降り注ぎ、小鳥の囀りの他に遠くから子ども達の遊ぶ声が聞こえて来るが、俺は京一郎と二人でもぞもぞと布団に潜り込んだ。部屋の明かりを消してカーテンを閉めたから仄明るくて、空調の温度はやや低めに設定してあるのでふわふわの羽毛布団を被ると丁度良かった。
「なあ、京一郎きゅん……」
「何だ? あずさ」
「りょーちゃんが生まれて来たら、京一郎きゅんと二人っきりの暮らしは暫くお預けなんだな……」
「ずっと二人っきりが良かったのか?」
「そうじゃないけど、京一郎きゅんに上げ膳据え膳、添い寝までして貰う生活を手放すのが惜しくて……」
「……」
間近に見つめ合いながらそんなことを言うと、途中から少し嬉しそうに聞いていた京一郎は最後には眉を顰めた。だから俺は、ふふっと笑って「嘘だよ。京一郎きゅんとずーっと二人が良かった」と言って彼の胸に顔を埋めた。すると、長い腕が俺の体をすっぽり包み込み、きつく抱き締めた。
「ずっと一緒に居よう……あずさ。りょーちゃんや、二人目、三人目の子ども達が巣立つまでは二人きりになれないが……その後はずっと一緒だ」
「うん……っていうか、もし断っても許してくれないんだろ?」
「ああ。絶対に許さない」
京一郎が囁くように言ったのに、少し体を離した俺が微笑んで尋ねたら、彼は真面目な顔でこっくり頷いた。けれども、そんな風に束縛されるのも幸せだから、俺は再び彼の胸に顔を埋めると「良いよ、それで」と言った。
「出会った時は何が何だか分かんなかったけど、京一郎きゅんと家族になれて本当に良かった。何度も言うけど、りょーちゃんがお腹に居るのも本当に嬉しい」
「あずさ……」
「だから、京一郎きゅんと番になるの、楽しみなんだ。きっと今よりずっと、一つになれる……」
「あずさ」
逞しい胸に顔を埋めたまま、ぼそぼそと本当の気持ちを口にしていたら、京一郎が優しい声で名前を呼んだ。それから顎を掴まれ、顔を上向かされて……。
「ん……ふぅ」
「好きだ……」
激しく口付けられて、体の奥深い部分がズキン、と疼いた。けれども抱き合うことは出来ないから、互いの体を弄り合う。そのうちに京一郎の大きな手は腹の膨らみを優しく撫で始め、それが気持ち良くて俺は直ぐに夢の世界へ旅立った……。
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