【オメガバース小説】犬のさんぽのお兄さん【第130話】
【地方都市×オメガバース】オメガでニートの園瀬梓は、T中央公園を散歩中に謎の長髪イケメンアルファ(ダサい臙脂のジャージ姿)に出会う。その瞬間、ヒートが起きて運命の番だと分かり——!?
一時間半後にはすっかり絵が完成した。あんなに早く筆を動かしていたのに、俺の腹に描かれた絵はとびきり細密だ——絵の具が完全に乾くまではその場を動くことが出来ないので、俺は京一郎に「鏡を持って来い! 京一郎きゅん!」と命令した。
「おお、おお……」
「素晴らしいですね! あずさが注文したピンクのう◯こ宝石まで芸術的だ……」
京一郎が持って来た大きな鏡で腹を写したら、真上から見るのよりもずっと美しかった。臍の直ぐ上には、京一郎こだわりの椋の木の葉っぱが大きく描かれており、その下からピンクのう◯こ宝石がちょこんと顔を覗かせている。その周りでは、全体的に緑掛かった宝石やアクセサリーが紋様のように絡み合っていて、俺達の要望を取り入れながらもちゃんとガブちゃんならではの作品だった。彼の才能に只只恐れ慄いていると、京一郎が目を輝かせて感想を言った。
「気に入って頂けて良かっタ。後五分位で動いてもダイジョウブだと思いマスカラ、思う存分撮影シテ下サイ、京一郎」
「はい! 素敵な作品を描いて下さり、本当にありがとうございました」
京一郎はガブちゃんに向かって深深と頭を下げてそう言い、俺も彼に倣って「ありがとな! ガブちゃん」と礼を言った。すると、広げていた道具を片付け始めたガブちゃんが、「ところデ京一郎、絵のモデルの話は引き受けてくれル?」と尋ねた。
「うっ、はい、勿論……」
「ありがとう! では、詳細は後ホドメールしマスネ」
「へえ、良かったじゃん、京一郎きゅん! 肖像画になったら世界中の人に見て貰えるし、ひょっとしたら美術館に収蔵されるかも知れないぞ! とびきり美形でも、スンゲー陰キャの京一郎きゅんにしては大出世だ!」
「ナチュラルに侮辱するのはやめろ」
素晴らしい作品を描いてくれたから、京一郎は小さく呻いたけれどガブちゃんの頼みを引き受けた。だからそう声を掛けてやると、仏頂面で文句を言った。一方、ガブちゃんは上機嫌になり、鼻歌を歌いながらさっさと片付けを済ませ、帰り支度を整えると「ソレデハ、失礼しマス」と言ってぺこりと頭を下げた。
「あっ、ちょっと待って下さい。現金でお支払いします」
「ありがとうございます。助かりマァス」
彼を呼び止めた京一郎は、慌ただしくスタジオを出て行くと直ぐに戻って来て、茶封筒を恭しく差し出した。それを受け取ったガブちゃんはさっと中身を確認し、ちらっと見えた諭吉が思ったより沢山居たので俺は目を見開いた。
「ハイ、確かニ。それでは、領収書をお渡ししますネ」
そうしてガブちゃんから領収書を受け取って、マタニティペイントの依頼が完了した……。
ガブちゃんを見送った後、やれやれとため息を吐いた俺は、絵が描いてあるのをすっかり忘れて腹をぽんぽこ叩きながらリビングへ戻ろうとしたので、京一郎に「こら! 無闇に絵を触るんじゃない!」と注意された。
「そんなことより、頑張ったから腹が減った! 早く晩飯を作れ、京一郎きゅん!」
「街を練り歩くのは止めにしたのか? 食べているうちに暗くなってしまうぞ」
「ハッ! そうだった!」
そう指摘されて、何か摘むものは無いか漁る為パントリーに向かっていた俺は立ち止まった。すると、進路を塞ぐようにして立った京一郎が言う。
「もう日が暮れ掛けているから、日傘は差さなくて良いだろう。で、どこに行って見せびらかすんだ」
「そりゃ、Tで一番人が多いとこって言ったらYタウンだろ。でも月曜だからそんなに混んでないか」
「ショッピングモールで腹を放り出して練り歩いていたら、流石に警備員に声を掛けられるんじゃないか? 平日なら、寧ろT駅前の方が見て貰えるだろう」
「成程! その案、採用したぞ京一郎!」
「ついでにどこかで食事しよう。しかし、臍出しルックの服なんか持っていないな……」
「最近流行ってるし、コレメントのギャル服屋で売ってんじゃね?」
「それもそうだな」
そんな打ち合わせをすると、俺達は急いで出掛ける支度をしてベ◯ツに乗り込んだ。勿論、ぽん吉も後部座席のクレートに乗り込んでいる。
「よっしゃー! マタニティペイント露出狂大作戦、決行じゃー!」
「露出大作戦ではなく、露出狂大作戦なのか……まあ、強ち間違っていない気もする」
助手席のシートベルトを締めてそう叫ぶと、京一郎は眉を寄せてぶつぶつ言ったが一先ずエンジンを掛けた……。
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