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【オメガバース小説】犬のさんぽのお兄さん【第13話】

【地方都市×オメガバース】オメガでニートの園瀬そのせあずさは、T中央公園を散歩中に謎の長髪イケメンアルファ(ダサい臙脂えんじのジャージ姿)に出会う。その瞬間、ヒートが起きて運命の番だと分かり——!?


 母親——佐智子さちこが帰宅したのは夜の十時過ぎだった。いつも通り残業したようだ。
「ただいまー」
「母ちゃん、おかえり。あのさ、俺昨日は運命の番んとこに泊まってたんだけど」
 前置き無くそう話すと、佐智子は眼鏡の奥の大きな瞳で俺のことをジッと見て、はあ、とため息を吐いた。
「そんな冗談ウケないから。それで、新しい友達でも出来たの?」
「いや、本当に運命の番だって。資産家の男アルファで、田中京一郎っていうんだ」
「……」
 そう言ったら、佐智子はようやく驚いた顔になった。そして祖母に話したのと同じ経緯を説明すると、ちょっと深刻な顔をした。
「運命の番って、本当なのかしら……」
 腕組みして不審そうに呟いたから、俺は「なんか知んねーけど、あっちは確信してるし、俺もあいつの匂い嗅ぐと訳分かんなくなる」と言った。すると佐智子はぽっと頬を染めた。ちなみに、彼女ともう一人の母親——真知子まちこは大恋愛の末結婚したが、運命の番ではなかった。
「アルファの香りを嗅いだら、オメガは訳分かんなくなるものよ」
「そうだけど……」
 俺は頷いたが、小さく息を吸い込むと一番伝えなければならないことを口にした。
「そんで俺ら、なまでヤッたから、赤ちゃん出来たかもしんない」
「……」
 俺の爆弾発言を聞いて佐智子はあんぐりと口を開けたが、徐徐に顳顬こめかみに青筋が浮かんできたから、雷を落とされると思って俺は身を竦めた……。

 昨夜、佐智子には「自分の世話も出来ない癖に、妊娠したなんて!」と散散怒鳴られたから、俺は朝から疲れていた。
 京一郎からのラ◯ンメッセージが先程届き、『今から出る』と書いてあったが、俺は『母ちゃんに軟禁されてるから無理』と返信した。
 そう、怒り狂った佐智子は出勤前に「外に出たら殺すからね」と言い置いていったのだ、笑顔で。
 こういうときの彼女の言い付けを破ると、後で酷い目に遭う。
 そんな俺の返信に京一郎は何も返して来なかったから、諦めたのかな、と思った。それなら二度寝しようと思って布団を被ったら、いきなり音声着信があったので飛び起きた。見ると、発信者は京一郎だった。
「もしもし……」
『今、家の前に着いたから出て来い』
「ええ? だから、母ちゃんに出るなって言われてるって……」
『お母さんには俺が土下座するから、家に来い。お前が居ないと不安で頭がおかしくなりそうなんだ』
「アンタも大概ヤベェな!」
 京一郎の言い様に俺は盛大に突っ込んだが、佐智子と同じでアルファが本気を出すと大抵ヤバいことになるから、事が大きくなる前に外へ出ることにした……。

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深川シオ
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