【オメガバース小説】犬のさんぽのお兄さん【第132話】
【地方都市×オメガバース】オメガでニートの園瀬梓は、T中央公園を散歩中に謎の長髪イケメンアルファ(ダサい臙脂のジャージ姿)に出会う。その瞬間、ヒートが起きて運命の番だと分かり——!?
この頃、一週間が過ぎるのが本当に早い。いや、一日だってあっという間に終わってしまう——ソファに引っ繰り返り、かっぺえびせんを貪りながらそんなことをぼやいたら、キッチンで調理していた京一郎がひょいと顔を覗かせ、「お前が言うか?」と突っ込んだ。
「だって、朝起きてご飯食って健診行って、帰って来たらぽん吉とボール遊びして、ブリブリう◯こして、かっぺえびせん食べてたらもう二時が来るぞ!」
「合間のう◯こまで言わなくて良い」
京一郎は俺の言い草に眉を寄せると、またキッチンへ引っ込んだ。T駅前で露出狂大作戦を成功させたのは丁度一週間前で、俺は妊娠三十七週になり午前中に妊婦健診を済ませて来た。
「そんで、オムハヤシはまだなのか! 卵にシュレッドチーズがたっぷり入ったオムハヤシはまだかー!!」
「いちいち叫ぶな、近所迷惑だろう。というか、かっぺえびせんを食べている癖に少しは待てないのか」
「かっぺえびせん、食べたら無くなっちゃったんだよお〜」
「……」
再び顔を覗かせた京一郎に、空になったえびせんの袋を振りながら訴えたら、うんざりした表情になりはあ、とため息を吐いた。そして直ぐに顔を引っ込めたので、「おおうい!」と叫ぶ。因みに、少し遅い昼食は俺のリクエストでオムハヤシになった——市販のルウを使うからあっという間に出来る筈だ。
「うっほっほう。何だよ、もう完成しているじゃあ、あ〜りませんか! 京一郎きゅん!」
よっこらしょ、と言いながら起き上がり、ぽっこり膨らんだ腹をぽんぽこ叩きつつキッチンへ行くと、料理は出来上がっていて後は盛り付けるだけだった。それなのに何故呼んで貰えなかったのだろう、と首を傾げていると、京一郎がむっつり顔で「ご飯をハート型にしようと思っていたんだ」と言った。
「ブッ! 何だどうした京一郎きゅん! 薮からステックに可愛いことを思いついて!」
「うるさい。シリコン型をどこに仕舞ったか思い出せなくてな。しかしもう見つかったから……簡単だし、あずさ、やってみるか?」
「ええ?」
そう尋ねた京一郎が手にしているのは、シリコン製の型でハートの形をしている。それにほかほかのご飯を装い、底面の押し出しを押すと綺麗なハート型のご飯が作れる便利グッズだ。
「良いけど、俺がやったらお尻型になっちまうぞ! 上下逆にするからな」
「そんなの、皿を回したら解決する話だ」
「いやだいやだ、ハートじゃなくてお尻型が良いんだ!」
「……じゃあ、お尻型のご飯を作ってくれ、あずさ」
「それでよし! 流石だぞ、京一郎きゅん! 良く躾られている」
至って阿呆な駄駄を捏ねたら、京一郎はあっさり折れたので俺は機嫌良く作業を始めた。と言っても皿の中央にお尻型の白米を載せるだけで、周囲にとろりとしたルウを装い、白米の上にシュレッドチーズ入りの卵を載せるのは京一郎の役目である。
「よっしゃー! 京一郎プレゼンツプリケツオムハヤシ、完成じゃー!」
「プリケツオムハヤシとか言うんじゃない。食欲が失せる」
「何だよ、俺のプリケツが大好きで、ついこの前まで毎晩のように舐め舐めしてた癖に!!」
「それじゃ、熱いうちに食べよう。あずさ、手を洗って来い」
「めちゃくちゃ綺麗にスルーしてんじゃねぇよ!!」
京一郎は俺の下品極まりない発言を華麗にスルーすると、愛用の生成りのエプロンを外した。それに俺はぷりぷりしながら手を洗いに行ったが、戻って来る頃にはすっかり忘れて食卓に着き、満面の笑みを浮かべて「いっただっきまーす!」と叫んだ。
「おお、おお、妊夫の俺様の為にしっかり加熱してあるからふわとろという訳には行きませぬが、チーズがたっぷり入った卵が美味しいですなあ……そして肝心のハヤシライスも、市販のルウを使ったとは思えない程のまろやかさ!!」
「矢鱈長文の感想をどうもありがとう。最終的にはプリケツにされてしまったが、元元は俺の愛情たっぷりのハートオムハヤシだからな」
「ハートオムハヤシか……それにしても、何で急にモテ系人妻みたいなことをし始めたんだ? 京一郎きゅん」
「モテ系人妻というジャンルがあるのか? いや、そろそろ予定日が近付いて来たから、少しでも手の込んだものを作りたくなってな」
「ふむふむ」
俺はオムハヤシを掬ったスプーンを忙しなく口へ運びながら聞いていたが、何となく京一郎の気持ちが分かったので何度も相槌を打った。すると、京一郎が眉を寄せて「何だ?」と尋ねた。
「いや、赤ちゃんブリブリする本人よりも、京一郎きゅんの方が不安になってるんだな、と思って」
「赤ちゃんブリブリ……いや、あずさが一番不安なのは分かっているんだが……すまない」
「別にそんなに不安じゃないぞ! 来るべき時に備えて体調を万全にしておくだけだ! わはは!」
元気付けようと思って山賊のように笑ってみせると、京一郎はそっと俺の手を握ったから、力強く握り返してやった……。
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