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【オメガバース小説】犬のさんぽのお兄さん【第125話】
【地方都市×オメガバース】オメガでニートの園瀬梓は、T中央公園を散歩中に謎の長髪イケメンアルファ(ダサい臙脂のジャージ姿)に出会う。その瞬間、ヒートが起きて運命の番だと分かり——!?
いつも楽しみにしている経腹エコーでは、りょーちゃんの顔がよく見えた(矢張り京一郎似で美形だ)。担当医はエコー写真を撮影するのが上手いから、今回も良いのが撮れる筈だ——京一郎は今までのものをいちいち額装していて、小さなフレームに入ったそれらは寝室の壁に飾られている。
「子宮頸管は三十八ミリもあったし、りょーちゃんの体重は二千六百グラム! 心拍も正常、心奇形も無いっぽい! 順調そのものですな、流石俺様、あずさ様」
「本当に、あずさ様が健康そのもので良かった。頭の調子は余り良くないが、生まれ付きなので仕方無い」
「酷くない!? この嘘つキ◯タマ!!」
「嘘はついていない。残酷な事実を述べただけだ」
「チキショー!!」
無事に健診を終えた俺達は、そんなやりとりをしながら来た道を戻り公園を横切った。もう午前十一時を回っているから、腹が空いて来た——だから俺は京一郎を見上げ、「そんなことより、早く餌くれ!」と強請った。
「ふむ。あずさ様が順調そのものなのを祝って、お好み焼きでも作るか。それもT名物の豆天お好み焼き。ガブリエーレさんが来るのは二時頃だからな。食べ過ぎたあずさの腹が破裂しそうになっていても、それまでに多少は消化して縮むだろう」
「この悪口ん◯ん!! 幾ら何でも酷いぞ!!」
「悪口ん◯んか……嘘つキ◯タマ程のインパクトは無いな」
「じゃあ巨根一郎!!」
「巨根一郎!?」
憎まれ口を叩き捲る京一郎に対抗して、罵り言葉の新作をリリースし捲ったら、とびきり酷いのが出来た。すると例によって彼は目を剥いたが、直ぐに立ち直ると「京一郎に比べて語呂が悪い」と批評した。だから俺はやけくそになって、「ふーんだ! このケチケチ破廉恥ん◯ん嘘つキ◯タマ絶倫えっち我慢出来ないマン!」と叫ぶ。欲張りセットだ。
「しっ。誰が聞いているか分からないのだから、声を落とせ。幾ら近所付き合いをしていないといっても、通報されたら困る。木の芽時ももう終わりだし他に仲間も居ないから、悪目立ちする」
「コノメドキとか良く分かんねぇけど、何か物凄く馬鹿にされてる気がする……」
公園を出て歩道に差し掛かったところだったから、京一郎は辺りを見回すとそう言った。一部意味が分からなくて俺はもやもやしたので、後で「好め時」についてググってみようと思った(これからお好み焼きを作ることと関係があるかも知れない)……。
そうしてあっという間に帰宅すると、直ぐに手を洗い京一郎はキッチンに立った。一方俺は、健診用のオーバーサイズの(元は京一郎のもの)Tシャツを脱ぎ素っ裸になると、恒例の妖怪卵達磨踊りを披露した——勿論命名者は京一郎で、内容は単に鏡の前で全身を確認しながら前後左右に体を揺らすだけである。
「うん、確かに俺のお乳はセンセイショナルだな! 先生ショナル!」
「センセイショナルではなく、センセーショナルだ。発音が違う」
「先生ショナルって何かエロくない? 先生アナ……」
「それ以上言ったらお好み焼きを作るのをやめて、ゴーヤチャンプルーを作るぞ」
「うへあ!! やめてやめて、俺が悪かったよう、京一ん◯ん!!」
クローゼットの鏡の前で妖怪卵達磨踊りを披露しても、勿論観客は居ないので、俺は部屋着に着替えるとキッチンへ行った。そして、朝に褒められた乳を自慢するついでに仕様も無いことを口走りそうになったら、脅された——俺はゴーヤが苦手なのである。
「どちらにせよ、ゴーヤは買ってあるからな。唐揚げにするか」
「やったぜ! ゴーヤの唐揚げ大好き!!」
ちなみにゴーヤの唐揚げは、本体を塩と砂糖でしっかり揉み込むので苦味が殆ど無くなる。それに酒と醤油、摺り下ろしのニンニクと生姜、それから胡麻油の下味を付けて再び揉み込み十五分置く。最後に黒炒り胡麻を加えた片栗粉を塗してカラッと揚げると、とびきり美味しい酒の摘まみの出来上がりだ——勿論俺は飲酒出来ないのだけれど。京一郎の言葉に俺は目を輝かせ、「妖怪卵達磨踊り 〜着衣バージョン〜」を披露した……。
ちなみに、T名物の豆天お好み焼きとは甘い金時豆が入ったお好み焼きのことである。祖母がよく作ってくれるが俺は余り好きではないから、大量のキャベツを千切りにしている京一郎の横へ行き、「金時豆抜きの豆天お好み焼きにしてくれ!」と要求した。
「金時豆抜きの豆天お好み焼きか……つまり、妖怪黄身達磨が出て来た後の妖怪卵達磨か」
「は? 何言ってんだ京一郎きゅん?」
「金時豆が入っていない豆天お好み焼きは、りょーちゃんが入っていないあずさと同じで、只のお好み焼きでありあずさだ」
「ヤバい! 京一郎がバグった! お客様サポートセンターに電話しないと!!」
京一郎は手元に目を落としたまま、至極真面目な表情でそんなことを言ったから俺は焦った。慌ててスマホを操作して佐智子(お客様サポートセンター?)に電話を掛けようとしていたら、彼は「どこに電話するつもりだ? お好み焼き」と言ったので「わあああ!」と叫んで本気でパニックになる。
「俺はお好み焼きじゃないぞ!! あずさだ!!」
「そんなことは分かっている。全く、冗談も通じないのか、お好み焼きは」
「だからお好み焼きって呼ぶのやめろよ!! 悪い夢みたいだ」
「ところで金時豆抜きが良いのなら最初から言え。さっきは何も言わなかった癖に」
「だって嬉しそうだったから言い辛くて」
「フン。いつもは配慮の欠片も無い癖に」
そんなやりとりをして、京一郎はキャベツを千切りにする作業を再開した(一体どれだけキャベツを入れるつもりなんだ)。彼は滅多に冗談なんか言わないし、独特のセンスだから心臓に悪い……。
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