【オメガバース小説】犬のさんぽのお兄さん【第137話】
【地方都市×オメガバース】オメガでニートの園瀬梓は、T中央公園を散歩中に謎の長髪イケメンアルファ(ダサい臙脂のジャージ姿)に出会う。その瞬間、ヒートが起きて運命の番だと分かり——!?
ベ◯ツに乗り込んだ俺達は、いつものようにバイパス道をブーンと走りT駅前へ向かった。件のヘイワポイネットホテルとは、T駅の東隣にある大手のホテルである。その一階にはコンビニチェーンヘヴンが入居しているから、俺はコインパーキングを探して徐行している京一郎に「帰りにヘヴンでディアマンクッキーを買ってくれ!」と強請った。
「サンドイッチを食べたら腹が一杯になるだろう。態態駅前で買わなくても……」
「良いじゃん! 帰ったら直ぐにカフェオレと一緒にクッキーを頬張りたいんだ! そして勿論、カフェオレを淹れるのは京一郎きゅんだぞ!」
「……」
そんな俺の言い草に京一郎は呆れ顔になったが、何も言わないではあとため息を吐いた。そんな風に彼が甘やかすから、俺の我が儘は火・水・木、無限大である(※分かる人には分かるネタかも知れない)。
そして、幸運なことに目当てのサンドイッチ専門店「Poco」の斜向かいにあるコインパーキングに空きがあったので、京一郎はそこにベ◯ツを停めた。俺は「わーい!」と歓声を上げながら車を降りる。
「全く、あずさちゃんは何でそんなに傍若無人なんだ。羊水を通じてりょーちゃんにうつっていたらどうしよう」
「そこは普通に『遺伝してたらどうしよう』って言えよ! それに、京一郎きゅんだって大概癖のある性格してんじゃん!」
京一郎がスマートキーで施錠しながらぼやいて、俺はぷうと頬を膨らませて抗議した。しかし内心、こんな二人から生まれて来るりょーちゃんはとんでもない性格をしているかも知れない、とちょっと不安になった。
けれどもそんなことは三秒で忘れた俺は、京一郎と手を繋ぐとるんるんと道を横断して店へ向かった。Pocoは、古くからあるビルの通りに面した一角のテナントスペースに入居していて、ちゃんと看板は出ているのだが、ぼんやりしていたら見過ごしてしまいそうな外観である(けれどもターコイズグリーンに塗られた格子の窓枠が可愛い)。
「ごめんくださ〜い! サンドイッチ食べに来ました!」
「いちいち宣言しなくて良いぞ。ごめんください」
「いらっしゃいませ〜」
俺はドアを勢い良く開けると、大声で挨拶した。すると後から入った京一郎もツッコミを入れた後挨拶する。それに奥から出て来た店主のお姉さんが応えて、「当店のご利用は初めてですか? セット内容をカスタマイズしてご注文して頂けるようになってます」と続け、ラミネートされたプレートや木のスプーンを活用した注文用のディスプレイを指差した(プレートやスプーンを取ってサンドイッチと飲み物の種類を選び、レジに持って行って会計する)。
「ほほう。『ツインBOXセット』はお好きなハーフサイズサンド二種類、飲み物一杯で千百円なのか!」
「お代わりが欲しかったらちゃんと買ってやるから、まずはこれだけで我慢するんだぞ」
「ちぇっ」
先手をとられて、ハーフサイズのサンドイッチ二つでは足りないな、と思っていた俺は口を尖らせた。けれどもやっぱりそんなことは二秒で忘れて、目をきらきら輝かせて商品を選び始める。
「むむ、お肉のサンドの他にフルーツサンドも選べるのか。くう〜っ、悩みゅ!」
「妙に可愛く言うんじゃない。俺の分も合わせて四つ、好きなのを選べ。味見させてやる」
「ええっ、優し過ぎて涙が出そうじゃな……」
膨らんだ腹をぽんぽこ叩きながら悩んでいたら、京一郎が微笑んでそう言ったので俺は嬉しくなった(けれども言葉と裏腹に全然泣きそうではない)。
そして、悩み抜いた末に俺が選んだのは、ハンバーグサンドとフライドチキンサンド、それから苺と巨峰のフルーツサンドだった。
「むっほう! 楽しみですなあ! 流石ジンお勧めの店!」
因みに、京一郎はジンにこの店を紹介して貰ったそうだ——好きな席に座ると良いと言われたので、注文と会計を済ませた俺達は店の隅のテーブル席へ向かった。けれども窓際のカウンター席も含めどれも椅子はハイスツールだから、ハンプティダンプティ元い妖怪卵達磨の俺は困った。すると、京一郎がスツールを二つくっつけて、「これならあずさの尻も収まるだろう。いや、二つでは不安だから三つにしよう」と言った。
「俺のお尻はそんなに大きくないぞ! でも三つなら安定するな!」
そう言って三角に並べられたスツールによじ登ろうとしていたら、ひょいと抱き上げられたので目を見開く。そして直ぐにふわっと下ろされて、胸がキュンとした。
「全くぅ、京一郎きゅんたら力持ちなんだから! その有り余るエネルギーのお陰で絶倫えっち我慢出来ないマ……」
「それ以上言ったら、あずさちゃんの注文した豆乳ココアを飲み干してやるぞ」
「やめて〜!」
厨房で調理しているお姉さんにお下品発言を聞かれたら出禁になるかも知れないから、俺は慌ててお口にチャックした……。
それから少し話していたら、思ったよりもずっと早く注文の品品が運ばれて来た。ハーフサイズサンドは英字新聞のようなデザインの耐油紙に包まれていて、それをぺりぺり剥がしながら食べる仕組みだ。他にカリカリに揚げられたフライドポテトも付いていたから、俺は「ウッホホーイ!」と雄叫びを上げた。
「さあて! まずはハンバーグサンドから行きまっしゅ!」
「落ち着いて食べるんだぞ。俺はフライドチキンサンドか……」
「半分は残しといてくれよ! 俺のハンバーグサンドは三分の一は残してあげるから……」
「不平等だな。まあ良いが……」
口の中を涎で一杯にした俺は、そう言うとハンバーグのハーフサンドに手を伸ばし、包み紙を少し剥がしてがぶっと齧り付いた。途端に幸せ一杯の表情になる——ハンバーグは予想以上に柔らかく、スパイスが効いていて癖になる味だった。
「うまっ、うまっ。これは三分の一残せるか自信が無くなりますなあ!」
「全部食べても良いぞ。このフライドチキンサンドも美味しい」
「そんな、流石に全部食べたりしませんよう! 京一郎きゅんの分まで当然のように食べる母親を見て育ったら、りょーちゃんが我が儘な子になっちまうだろ!」
「割とまともな考えを持っているようで安心した」
そんな会話をしながら、パクパク食べる。京一郎が半分残してくれたフライドチキンサンドも、衣がサクサク、中のチキンはジューシーでとても美味しかった。そしていよいよ、デザートのフルーツサンドに手を付ける。
「まずは! ド定番の苺の方から! 京一郎きゅん、持っているところを撮ってくれ!」
「分かった」
「苺サンドを持ったキュートな愛妻の写真なんて、映えの極みだな!」
「自分で言うな」
大口を開けてフルーツサンドに齧り付こうとしながら写真撮影を要求すると、京一郎は愛機をさっと取り出して何度もシャッターを切った……。
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