【オメガバース小説】犬のさんぽのお兄さん【第139話】
【地方都市×オメガバース】オメガでニートの園瀬梓は、T中央公園を散歩中に謎の長髪イケメンアルファ(ダサい臙脂のジャージ姿)に出会う。その瞬間、ヒートが起きて運命の番だと分かり——!?
俺達の家の近くには、都合良く地元チェーンの文房具専門店がある。歩いて十分も掛からないから、雨だけれど散歩がてらボディペインティング用のペンを買いに行った。
京一郎は黒くて大きな傘を(因みにごっついブランドもの)、俺は小学生が差しているような黄色い傘(とはいえ大人用で白の水玉模様)を差して、雨の住宅街の道を行く。時折車が通り掛かるから、京一郎は俺を歩道側にして庇うように歩いた。
「さてさて! 一時はどうなることかと思いましたが、無事に『シャーリー文具館O店』に到着しましたな!」
「大袈裟に言うな。バイパスを横断する時に、あずさの靴が片方脱げただけだろう」
「それって大事だぞ! そのせいで京一郎きゅんが洗ってくれたピンクの地にう◯こ柄のスニーカーソックスが濡れちまったから、今俺は片方裸足なんだからな!」
「それは気の毒に」
「ムキーッ!」
十分ちょっとで目的地に到着し、そんな阿呆な会話をしながら店の玄関先で傘に付いた水滴を払った。そして、用意されていた使い捨ての傘袋に入れて店内に入る——このチェーンは俺達が生まれる前からあって、インターネット通販が無かった時代は専門的な商品をT下りで手に入れられる貴重な場所だった。今でも頼りにしている客は多く、古びた店舗だけれど引っ切り無しに駐車場に車が乗り入れて来る。
「ここって何年か前に二階を改装して、ファンシーグッズ専門のフロアになったんだよな。ということで京一郎きゅん! 後でう◯このグッズも買ってくれよな!」
「どうしてそうなる」
るんるんと一階のフロア奥へ進みながらそう強請ったら、後ろを歩く京一郎が眉を寄せて応えた。実は、俺の大好きな「う◯こさん」のグッズが二階のフロアにあるので、初めから買って貰おうと思っていたのである。
「お! 京一郎きゅん! 柴犬のレターセットがあるぞ! 梅雨に合わせて紫陽花と一緒のイラストだ!」
「ああ、可愛いな。しかしポメラニアンのは無いだろう」
「どっちもこんがり焼けたパンみたいな色で立ち耳だろ? それに同じ犬だから遺伝子レベルでは殆ど差が無い……」
「そういう問題じゃない」
様様なイラスト付きのレターセットが並べられた棚の側を通り掛かったから、そんな会話をした。何でもオンラインでのやりとりで済んでしまう今、敢えて紙でのやりとりを楽しむ人達も結構居るらしい(それに、可愛いレターセットはコレクションするのも楽しい)。
「おっ! ここかな? ボディペインティング用のペンがあるコーナーは……」
「色は普通に黒にするのか? それとも何色か……」
「まず、黒と茶色は買うとして……」
「何で茶色……ああ、分かった。それ以上言うんじゃないぞ」
案外直ぐにボディペインティング用のペンのある場所を見つけて、棚を眺めながら色の相談をする。そして買うつもりの色を答えたら、京一郎が何かを悟って先手を取ったので、俺はぷうと頬を膨らませた……。
結局、ボディペインティング用のペンは黒と茶色、赤、青、緑を店内籠に入れた(黄色は肌に書くと見え難いと思ってやめた)。その後はいよいよ、二階のファンシーグッズ売り場へ突撃する。
「よいしょっ、うんしょっ、う◯こっ……」
「掛け声に不穏なワードを混ぜるんじゃない。それより、絶対に落ちないよう気を付けてくれ……」
「安心しろ! でも、ちょっとおならが出そうだから、京一郎きゅんの顔面に吹き付けちゃっても恨まないでくれよな!」
「……」
京一郎に下から支えるようにして貰いながら、手摺りをしっかり握ってやや急な階段を上った(二階建ての店舗はエレベーターが無い)。さっきからお下品発言が止まらない俺を、京一郎は呆れ顔で見上げたがはあとため息を吐いただけだった。
そうして無事に二階へ辿り着くと、俺は「う◯こさん」のグッズがあるコーナーに直行した。このキャラクターは「お絵描き様」というシリーズに登場するので、他にも色色な種類がある。
「そうそう! お絵描き様にはスタイがあるんだよな! この店にあるかは分かんないけど……あーっ!」
「うるさい! 流石に調子に乗り過ぎだぞ、あずさ」
「ごめんちょ……」
お絵描き様のイラストがプリントされたスタイを見つけて歓声を上げたら、京一郎にとうとう注意されてしまった。だから態としょんぼり項垂れてみせた——すると京一郎は再びため息を吐き、「で、どれが欲しいんだ」と聞いた。それに途端に元気になった俺は、満面の笑みを浮かべると「どれにしよっかな〜」と言って商品を選び始める。
「おっ! う◯こさんがまだある! しかも、おしめさんまで!」
「ええっ、う◯こ柄の他に、おしめ柄まであるのか……」
俺が手に取ったのは二枚のスタイで、一つはお気に入りの「う◯こさん」柄、もう一つはおむつのキャラクターである「おしめさん」柄のものだった(因みに、皆にこにこ笑っていて可愛いから、家で着けるのなら京一郎も許可を出すだろう)。それを見た京一郎は大きく目を見開くと、寧ろ感心したように呟いた。それに俺はふふん、と言って胸を反らせる。
「最近のクリエイターは物凄くクリエイティブだろ! 他にも『便所さん』とか『下着さん』とかもあるんだぞ! 流石にスタイにはなってないけど……」
「ええ……俺の理解を遥かに超えているな」
「ところで、そうちゃんは女の子かも知れないから、可愛いのも一つ買っておくか……うーん、普通に『いんじゃんほいさん』で良いかな」
「一枚しかまともな柄を買ってもらえないなんて、りょーちゃんが可哀想だ。この『うさちゃんさん』も買え」
呆れ顔の京一郎を余所に、子どもらしいグーチョキパー柄のスタイを手に取っていたら、彼は慌ててピンクの兎柄のものも買うように勧めた……。
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