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【オメガバース小説】犬のさんぽのお兄さん【第124話】

【地方都市×オメガバース】オメガでニートの園瀬そのせあずさは、T中央公園を散歩中に謎の長髪イケメンアルファ(ダサい臙脂えんじのジャージ姿)に出会う。その瞬間、ヒートが起きて運命の番だと分かり——!?


「ところで、絵のデザインは決まってんのか? 俺にも希望の図柄があるんだけど……」
「ほう。どんな図柄だ?」
「茶色でなくて良いから、う◯こをどこかに取り入れて欲しいんだよ……ほら、ピンクのう◯ことかどうよ!?」
「あずさは本当にう◯こが好きだな……りょーちゃんに遺伝していたらどうしよう」
「何言ってんだ、京一郎きゅん! 幼児はみんなう◯こが好きなもんだぞ」
「俺は別に好きじゃなかった」
「嘘をつけ! 嘘つキ◯タマ」
「流石に酷過ぎないか!?」
 マタニティペイントの図柄について希望を述べたら、京一郎が不安げになったから、思わずののし言葉ことばの新作をリリースしてしまった。すると彼は目を剥いてそう叫んだので、俺はへへへと笑って「ごめんって。京一きょういちん◯ん」と謝った。
「こんなお下品発言を連発する母親に育てられるりょーちゃんが、本気で心配になって来た……」
「大丈夫だよ、少なくとも京一郎きゅんはしっかりしてんだし。敬語で話し掛けるくらいだからな……っていうか、何でぽん吉とかりょーちゃんには敬語なん? 今更だけど」
「二人とも、俺やあずさよりも身分が高いからだ」
「ぽん吉のみならず、りょーちゃんまで俺らの上なん!? それって教育的にどーなのよ……」
 素朴な疑問を口にしたら、京一郎は大真面目にそう答えたので呆れた。けれども、そんな風ではりょーちゃんに舐められてしまうのではないだろうか。
「というのは半分くらい冗談で、昔から、小さい生き物には丁寧な言葉遣いで話し掛けてしまう癖がある。母に弱い者にはとびきり優しくしろと言い聞かせられていたせいだ」
「半分は本気なのかよ。っていうか、お母さん、めちゃくちゃ厳しい性格だって前に聞いたけど、そんなことも言ってたんだな。何か意外」
「別に、性格がキツいからって間違ったことを言う人ではなかった。口調はとにかく厳しいが……」
 京一郎はそう言うと、少し遠い目をした。亡き母のことを考えているのだろう——だから俺は慰めようと思って口を開く。
「京一郎きゅんは、ザ・金持ちって感じで偉そうだし嫌味だし、絶倫えっち我慢出来ないマンだし、元元はぼっち極めてた根暗だけど……本当は物凄く優しいもんな。俺、いつも感謝してんだぞ」
「嬉しい言葉だが、前半が酷過ぎないか? さっきから罵られ続けているような気がするんだが」
「本当のことだから仕方無いじゃん。でも大好きだぞ! 俺、京一郎きゅんのお嫁さんになれて本当に良かった」
「そんなにリップサービスされたら、何か裏があるんじゃないかと思ってしまうな。でも、俺もあずさが大好きだ。縛って監禁して二十四時間監視したいくらいに……」
「京一郎きゅんも大概だな!!」
 そんな風に独創的過ぎる愛の言葉を伝え合って幸せだったから、俺達は熱い視線を交わした……。

 そうこうするうちに健診の予約の時間が近付いて来て、俺達は身支度すると外に出た。五月の中旬の日差しはキラキラと、いや既にギラギラと眩しい。途中横切る公園の木木の枝には目が覚めるような緑の葉が茂り、微風そよかぜに吹かれてサワサワと音を立てていた。京一郎としっかり手を繋いだ俺は、こちらも鮮やかな緑の芝生をサクサク踏んで歩く。
「で、最終的にはラブラブで有耶無耶うやむやになったけど、マタニティペイントの図柄は決まってんのか?」
「俺の希望は大まかに伝えてある。矢張やはりガブリエーレさんならではの、宝石の図柄を取り入れて欲しいと」
「宝石!? 腹が宝石で一杯になんのか!! 流石、金持ちらしい発想……」
「りょーちゃんは俺達の宝物だからな。勿論もちろんあずさ自身も……」
「何でそこでキュンとさせてくんの!?」
 俺は憎まれ口を叩いたのに、京一郎は優しく微笑んでそう言ったから、真っ赤になった。とても嬉しい——だからぼそっと「ありがと」と呟いた。
 それから産婦人科に着くと、一番の予約だったので待合椅子に腰を下ろそうとした瞬間に呼ばれた。そして今までと同様の検査を受けたが、途中、助産師から乳管にゅうかん開通かいつうマッサージの指導を受けた。
「い゛い゛い゛、い゛だい゛ー!! 乳首千切れる!!」
「しっかり付いてるので千切れたりしませんよー。ほら、自分でもやってみて」
「うう……」
 乳管が開通していないと授乳のときトラブルが起き易いので、この病院では妊娠後期から妊婦自身でマッサージをするよう指導している。だから五十代のベテラン助産師は、俺の乳首を引っ張って捻る動作を繰り返した。それに悲鳴を上げていたら、呆れ顔で自分でもやるように言われた——きっと俺の叫び声は外まで聞こえているから、待合室の京一郎が心配しているだろう。
「ウホッ。何かかたまり出て来た!」
 やり始めたら痛みも薄れて来たし、何より面白くなって来たから夢中でマッサージしていると、少しずつ母乳が滲み出て来た。けれどもその中に白い塊のようなものが混ざっているので声を上げたら、助産師が「乳垢にゅうこうですよ。ちちカスです」と説明したので、俺は思わず「チン◯スの対義語だな!」と叫んでしまい、彼女をドン引きさせた……。

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深川シオ
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