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【オメガバース小説】犬のさんぽのお兄さん【第54話】

【地方都市×オメガバース】オメガでニートの園瀬そのせあずさは、T中央公園を散歩中に謎の長髪イケメンアルファ(ダサい臙脂えんじのジャージ姿)に出会う。その瞬間、ヒートが起きて運命の番だと分かり——!?


 OA神社とは県北にあるいちみやで、当然県で一番大きい。毎年大晦日と元旦には大量の参拝客で賑わい、屋台もたくさん出ているから楽しい。
 御節料理に舌鼓したづつみを打った後、俺と京一郎とぽん吉はオフロードタイプのベ◯ツに乗り込み出発した。
「へへっ」
「どうしたあずさ。ご機嫌だな」
「いや、ぽん吉と車でお出掛けするのって初めてだと思って」
「嬉しいのか?」
「だって俺、ペット連れで遊びに行くの、夢だったんだもん」
「ほう。でもぽん吉さんは、別にあずさとお出掛け出来ても喜んでいないぞ」
「分かってるから、いちいち言わんで良いっ」
 ハンドルを握った京一郎の言い草に、俺はぷりぷりした。当のぽん吉は、後部座席にシートベルトで固定された小さなクレートの中に入っている。中にはふわふわのクッションが敷いてあって、いつでも水分補給出来るよう、扉には薄型の自動吸水器(ボトルの先にノズルが付いているもの)が取り付けられている。本当に至れり尽くせりだ。
「ぽん吉は、旅行に行ったことはあるのか?」
「ああ。ぽん吉さんは東京・大阪・京都によく行く。飛行機に乗るのもへっちゃらだからな」
「やっぱセレブだな……」
「まあ、今年は赤ん坊も生まれるし、当分旅行は無理だが」
「そうね……」
 そんな会話をしているうちに、俺達はバイパス道路を北へ真っ直ぐ行き、日本有数の大河で県のシンボルでもあるY川に架かるY川大橋に差し掛かった。三車線の橋が二本並行していて、皆思い切り飛ばしているから中中迫力(?)がある。
 助手席の窓から青い川を眺めていたら、京一郎が口を開いた。
「途中、Yタウンのそばを通る。帰りに寄ろう」
「え、マジ? 長いこと行ってねえなあ、Yタウン」
「俺と会う前は、駅前によく行っていたのか?」
「うん。家の周り、買い物する以外でうろうろするとばーちゃんが嫌がるからさ」
「中中無職をするのも大変なのだな」
「無職って言うなよ! 俺はニートだ!」
「胸を張って言うことか?」
 俺は京一郎の突っ込みをきれいに無視した。ちなみにYタウンとは県内最大のショッピングモールである。都会にある大手ファッションブランドがたくさん入居していて、服を買うのには持って来いだ——というか、それ以外選択肢が無い(イ◯ンモールTのテナントはショボい)。

 Y川大橋を渡ると左折して堤防道路を西へ進み、それから話題にしていたYタウンの手前で右折して高速道路を潜りほぼ道なりに北へ進むと、十五分ほどでOA神社に到着する。
「毎回思うけど、でっけーよなあ、大鳥居」
「まあな」
 OA神社の参道の入り口には、巨大な鳥居がある。そこから真っ直ぐ参道が続いていて、両脇には石灯籠いしどうろうが立ち並んでいて中中壮観だ。
「第二駐車場にはまだ空きがあるようだな」
 交通整理のガードマンが掲げている札を見て京一郎がそう言い、参道から左へ逸れて第二駐車場に駐車した。もう朝の八時を回っているから、大勢の参拝客が本殿に向かってぞろぞろ歩いている。
「んー、良い匂い! これはイカ焼きか?」
「流石あずさ。着いたらすぐ食べ物の話か。さっき御節を食べたばかりなのに」
 助手席のドアを開けて降りた途端に香ばしい匂いがして声を上げたら、京一郎が呆れたように言った。それに口を尖らせて「中にもう一人入ってんだぞ! 食欲が凄いのは当たり前だ!」と言い返す。
「ふ。そうだったな」
 すると京一郎は嬉しそうに笑ったので、ちょっとこそばゆくなった……。

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深川シオ
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