【オメガバース小説】犬のさんぽのお兄さん【第128話】
【地方都市×オメガバース】オメガでニートの園瀬梓は、T中央公園を散歩中に謎の長髪イケメンアルファ(ダサい臙脂のジャージ姿)に出会う。その瞬間、ヒートが起きて運命の番だと分かり——!?
そんなこんなで思い掛けない方向に話が進んだが(京一郎は依頼の返事を保留にした)、とにかくマタニティペイントをして貰うことになった。俺の腹はほかほかのタオルで綺麗に拭かれ、しっかり乾くまでTシャツを捲ったまま待つことになった。かなり間抜けだが、俺は気にしなかった——だから腹を放り出したまま、「あっ」と声を上げて質問する。
「俺の腹毛、絵描くのに邪魔になんないかな? 何なら剃っちゃう?」
「ブッ」
「アア、毛なら無い方が描き易い……デモ、お腹に傷が付いたらいけませんネ」
「それじゃ、ムダ毛処理用のシェイバーを買って来ます。近くのスーパーに売っている筈」
京一郎は俺の発言に噴いたが、直ぐに立ち直ってそう言うとさっと腰を上げ、「あずさ、もう腹を仕舞え」と指示した。だから俺は口を尖らせて「言われなくても……」と答え、捲っていたTシャツを元に戻す。すると、「さあ行くぞ」と手を引かれたので、「え? 俺も行くん?」と首を傾げる。そうしたら京一郎は答えずに、ガブちゃんに向かって「コーヒーをお飲みになってお待ち下さい。すみません、お忙しいのに準備していなくて」と謝った。それにガブちゃんは笑顔で首を横に振り、「イエ、ワタシも失念していましたカラ」と答えた。
「ふう。ムダ毛処理なんて生まれて此の方したこと無いから、思い付かなかったぞ」
「それよりもあずさ、どうしてガブちゃんとだけのニックネームなんか付けたんだ」
「だって、『アズサと呼んでもイイですか?』って聞かれたから……あずさって呼んで貰うよりは良いだろ?」
「そうだが、ガブちゃんとだけというのが気に入らない。他の奴にも呼ばせろ……そうだ、中川と寒川さんにも『アズサン』と呼んで貰うことにしろ。今直ぐラ◯ンでそう頼め」
「はあ!? 薮からステックに新しいニックネームで呼べって送るん? 頭おかしいだろ」
「あずさは元元そうだから、二人共気にしない筈だ」
「失礼過ぎへん!?」
そんな風に再びぎゃあぎゃあ言い合いながら、最寄りのスーパーであるキョー◯イY店への道程を歩く。京一郎はいつも通りしっかり俺の手を握っているが、憮然とした面持ちだ——そして憎まれ口もたたき捲ったから、俺も顔を顰めた。
「あっ、そういや今、ガブちゃんとぽん吉が二人っきりだけど、大丈夫かな?」
「ぽん吉さんにはサークルに入って頂いているから問題無い」
「ていうか、そもそも会ったばっかの人にお留守番させていけるん?」
「世界的なアーティストだし信用出来る筈だ。それに、何か盗られたとしても痛くも痒くもない……とびきり高いものは置いていないし、金が余っているからな」
「相変わらずの嫌味な金持ち発言……」
俺は京一郎の答えに呆れたが、目的地に着いたので「おっし! シェイバー買って腹をトゥルントゥルンにするぞー!!」と大声で叫んだ。すると背後で京一郎が、「産毛がびっしり生えているから、一度で綺麗に剃れるかどうか……」と不安げに呟いた(ぽん吉のそれには遠く及ばないが、俺の腹は人間にしては豊かな? 被毛に覆われている)……。
そうして人気の女性用シェイバー「アフロディーテ」と替え刃を購入し、急いで自宅に戻った。
「ガブちゃーん? お待たせ!」
「お帰りなサイ。思ったより早かったネ」
「直ぐ側なので。おいあずさ、手を洗ったら直ぐ様腹を放り出せ」
「言い方がいちいち嫌な感じだな!!」
玄関ドアを開けて、廊下の奥のスタジオに向かって声を掛けたら、ガブちゃんがひょこっと顔を出して応えた。すると、京一郎に相変わらずの言い様で指示されたので、俺は顔を顰めると洗面所へ向かった。
「このアフロディーテは、期間限定ショッキングイエローなんだ! しかもハイビスカス柄。お洒落だろ!」
「アア、可愛いネ」
「どうでも良い自慢をするな。ほら、風呂場へ行くぞ」
「え? ここで剃らんの?」
「見苦しいだろう」
ちゃんと手を綺麗にしたらまたスタジオに戻って、キョー◯イのレジ袋から取り出したシェイバーのパッケージをガブちゃんに見せて自慢した。すると、料理用のとは別のエプロンを着けた京一郎が顔を出し、眉を寄せて手招きした。だからむうと口を尖らせて付いて行く。
「全く、お前には羞恥心というものが無いのか? 他の男の前で平気で腹を放り出すし、ムダ毛処理まですると言うし……」
「俺は、恋愛対象以外にはクールだからな!」
「クールな訳無いだろう。フールだ。ちなみに阿呆という意味だぞ」
「解説してくれんでも知っとるわ! エイプリルフールのフールやろ」
「中学校の教育課程は修了しているようで安心した」
「マジでさっきから憎まれ口が止まんねぇな!!」
例によってぎゃあぎゃあ言い合っているうちにバスルームに到着し、ドアを開けると京一郎は「風呂椅子に腰を下ろせ。乾いているから大丈夫だ」と言って座るよう促した。
「ていうか、さっきから気になってたんだけど、何でエプロンしてんの? しかもいつものとは違うやつ」
「あずさの毛が飛び散るだろうと思ってな」
「ここはトリミングサロンかよ!!」
「マスクもした方が良いだろうか……」
「そんなこと真剣に悩まないでくれる!?」
まるで長毛種の犬みたいな扱いをされて、俺は大いに憤慨した。そして口を尖らせると「水で濡らすんだから飛び散る訳無いだろ。全く、京一郎きゅんはフールなんだから」と言った。
「ふむ、シェイバーの先端に石鹸が付いているのか。便利だ」
「おっし! 濡れたら嫌だしおぱんちゅも脱ぐぞ! 大事なところが丸見えになるけど、興奮したら駄目だぞ、京一郎きゅん!」
「しっ! 声が大きい! ガブちゃんに聞こえたらどうする!」
シェイバーのパッケージを開封した京一郎が感心した様子でそう言い、俺は(何故だか)うきうきと京一ん◯んスウェットパンツと下着を脱いだ。すると京一郎が眉を寄せて注意し、慌ててバスルームのドアを閉めた。
「おお……おお……」
「だから妙な声を出すな!」
「だって凄い毛が取れるぞ! 俺の毛って焦げ茶色だったんだな……おお……」
下半身はすっぽんぽんになって、腹に温いシャワーを掛けるといよいよムダ毛処理作業を始めた。自分でやると言ったのに、京一郎は許してくれなかった——絶対に流血騒ぎになると信じているらしい。そして、シェイバーの先端にはジェルが付いているから肌の上をスルスル滑って、それと同時にびっしりと生えた茶色い産毛が取り除かれて行った——毛の無くなった白い素肌があらわになり、軌跡がよく分かったので俺は「絵描いてくれよ」と京一郎に強請って素気無く断られた。
「ふむ。腹が突き出ているから、座ると大事な場所が見えなくなって助かった。ひくひくさせられたら、流石の俺も興奮するからな」
「おおうい!! 京一郎きゅん、破廉恥発言も大概にしなさい!!」
真面目腐った口調でとんでもないことを言われて、俺は真っ赤になって叫んだ(きっとガブちゃんに聞こえただろう)……。
次のお話はこちら↓
前のお話はこちら↓