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【ショートショート】睡眠時無関係症

「あんた誰」
 と寝起きの夫がいう。
「うるさいわね。はやく起きなさい」
 とわたしは命令する。
「ここはどこだ?」
 夫は首を振りながらいう。
「ベッドの上でしょ」
「ベッドなんかオレと関係ねえ」
 夫は不機嫌に呟いた。
「にゃあ」
 足下で寝ていたネコが鳴いた。
「にゃあとか関係ねえ」
 猫にもいちいち反応する夫。
 わたしはすでにキッチンにいる。
「ごはんは?」
「飯なんてオレと関係ねえ」
 と夫はあくまで無愛想だ。きっと駅前のファストフード店かなにかで食事を済ませるのだろう。
「あなた、これからどうするの」
「オレがどうしようと、おまえなんかと関係あるもんか」
 ほっておいたら、夫はぎくしゃくと服を着て、勝手に会社に出かけていった。会社に行くことだけは本能的に覚えているらしい。
 睡眠時無関係症。まったく、なんてややこしい病気にかかったことやら。眠るたびに、関係性が切れてしまうなんて。
 わたしは自分だけで食事を済ませ、食器類をキッチンに叩き込んだ。
 腹が立つ。
 わたしだって、あんたなんかとはなんの関係もないのに。
 夫も世界も滅びてしまえばいい。
 わたしはソファに寝転がって、Netflixで時間をやり過ごす。
 夜になると、夫が帰ってくる。
 帰宅するときにはニコニコしているのだから始末に負えない。
「おまえはいつも機嫌が悪いねえ」
 キッチンに山をなしている皿を洗いながら夫は言う。
「あなたにだけは言われたくない」
「どうして?」
「朝、機嫌が悪いのはそっちのほうでしょ」
「そうかい」
「そうよ。いっつも関係ない、関係ないって」
「それは病気だから仕方ない。悪いとは思っているんだよ。会社にいく途中でいろいろ思い出してくるのさ」
「それじゃあ、遅いのよ」
「さあ、晩飯ができたよ」
「晩飯なんて、あたしには関係ないっ」
 あたしは覚醒時無関係症なのだ。

(了)

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