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【ショートショート】仏壇

 君は仏壇がだんだん大きくなっていくことを知っているか。
 ぼくは田舎の旧家の出身だから知っている。
 小学生の頃、すでに仏壇は六畳一間の仏間いっぱいにまで膨らんでいた。
 ぼくは次男で家を継ぐ者ではないので、東京に出てきて自由気ままに働いているが、夜中にふと田舎の仏間を思い出すことがある。
 旧家は古い家柄なので分家も多く、遠い親戚が亡くなっても、本家の仏壇が大きくなっていく。
 今頃、どうなっていることやら。
 ちょうどお盆なので、ぼくはひさしぶりに本家を訪ねてみることにした。
「兄ちゃん、元気?」
 と、ぼくは電車に何時間も揺られた後、たずねた。
「ああ、元気にやっとるよ」
「先に線香あげてこようかな」
「ああ、それがいい」
 仏間に案内された。
 襖をあけると、すぐ目の前が仏壇だ。迫力がある。上は天井に届き、横は仏間からはみ出している。ぼくは線香に火をつけ、御先祖様に挨拶した。
「ずいぶんでかくなったねえ」
「ああ、あいかわらずな」
「すこし持って帰ろうか?」
 というと、兄は「えっ」と驚いた。考えたこともなかったのだろう。ぼくだって、いまのいままで考えていなかった。ふと、思いついたのだ。
 仏間からはみ出た部分をノコギリで切り落とし、宅配便に託した。
 一泊したぼくは東京に戻り、マンションの自宅で切り落とした仏壇を受け取った。
 細長い板のような仏壇のはずだったが、運ばれてくる途中で変形したらしく、小さな仏壇へと変貌していた。
 リビングの隅に置いた。
 妻が「可愛い仏壇ね」と言った。
 水を替え、線香に火を付け、誰ともわからぬ先祖を弔うのが、ぼくらの新しい日課となった。
 仏壇はエサをもらった猫のように少しずつ大きくなる。まるで新しいペットがやってきたようだ。
「こいつはね、縁者が亡くなるとその分、大きくなるんだよ」
 とぼくは言った。大きくなるスピードがちょっと早いけど、それはコロナのせいかもしれない。
「大丈夫なの」
「なーに。大丈夫大丈夫。そのうち、仏間のある家を買うよ」
「あら、頼もしい」
 と妻は言った。

(了)

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