藤原審爾の初期代表作「秋津温泉」を読んだ。
「戦争育ちの放埒病」つながりで、藤原審爾の初期の代表作「秋津温泉」を読んだ。
藤原審爾は、色川武大の師匠である。初期には感性が剥き出しになったような私小説を書き、やがて職人職を深めていった。
「秋津温泉」は、1947年に発表された初期作で、戦中から書き始められていたという。戦後に書き上げ、前半を『人間別冊』に、後半を『別册文藝春秋』に掲載した。
あらすじは一言でいえる。主人公の〈私〉が5度にわたって秋津温泉を訪れ、旅館の女主人である新子と交流を深めていく物語である。前半に重要なヒロインとして直子さんという女性が登場するが、後半、どんどん影が薄くなっていく。私としては、頑なに己を通す直子さんとの交流のほうが気になった。
戦争もこの三人の交流に深い影を落とす。直子さんは寡婦となってしまうし、〈私〉は結婚してしまう。ひとり新子さんだけが、〈私〉を待ち続ける。
文体は独特で、目で追うよりも声に出したほうがいいような気がして、音読もしてみた。時折、読めない漢字があるのが無念であった。
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