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第10回山田風太郎賞受賞作「欺す衆生」を読んだ。

 毎年9月1日から翌年8月31日までに発表された小説で一番面白いものを選ぶ山田風太郎賞の第10回受賞作品「欺す衆生」を読んだ。
 第二期の月村了衛作品としては一番面白い。
 題材は詐欺である。詐欺師達は自分たちの仕事をビジネスと呼ぶ。
 昭和の時代に豊田通商事件という大きな詐欺事案があり、会長は刺殺された。そのあとに残された豊田通商のDNAが地下組織と結びつき、大規模になっていく様子を描く。
 主人公の隠岐隆は臆病な人間だ。元豊田通商あることを知られるのではないかと恐れつつ、文具メーカーで働いている。そこにあらわれる元同僚。隠岐は欺す側へと再度身を投じていく。家族のため家族のため、と唱えつつ。後半にあらわれてくるその家族の実相が、とても恐ろしい。
 隠岐は豊田通商のやり方を憎んでおり、年寄りや非資産家を食いものにするビジネスを拒絶しつつ、より大きなビジネスを立ち上げる。隠岐に近寄ってくるのは似たような輩ばかり。事態はどんどん悪化していく。隠岐ははたしてなにをみることになるのか。お薦め。

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深川岳志
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