![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/59998332/rectangle_large_type_2_d194f6b224dedd974ebd62266030019d.jpeg?width=1200)
【ショートショート】張り込み
どんどんとノックの音がした。
「私、こういう者です」
いきなり警察手帳を見せられて驚いた。
私にはホンモノかどうかの区別もつかない。
「どうかしましたか」
「実は、お宅の二階を借りたいのです」
「はあ?」
「張り込みに使いたくてね。ぜひご協力いただきたい」
「こういうこと聞いていいかどうかわかりませんが、なにを見張るというんです」
「当然、お向かいですね」
私道を挟んで、新しい家が立っている。
「お向かいが、なにか」
「じつは……宇宙人が住んでいる可能性がありまして」
私はぽかんとした。
「警察ってそんなことまで調査しているんですか」
「そりゃあもう」と警官は胸を張って言った。「危険度が高い場合、地球警備隊に引き渡さないといけない案件ですからね」
お向かいは引っ越してきたばかりで……引っ越しの挨拶以外は、ほとんど会話を交わしたことがない。朝のゴミ捨ての時に会釈するくらいの付き合いである。
「宇宙人、毎日、生真面目に分別ゴミを捨てますかね」
と私は言った。
「まあ、宇宙人によっては。しかし、凶暴性はなさそうですな」
「お父さんとお母さんと小学生の子供さんひとりの、ふつうのご家庭みたいですよ。ほら、駐車場の横に小さい自転車が置いてあるでしょう」
「ふむ」
と警官はうなずいた。
「まあ、しばらく観察してみます」
私と妻は寝室をほかの部屋に移し、私道に面した二階部屋を警官に譲った。
一週間ほど経過した。
「いかがです?」
警官がぜんぜん遠慮しないもので、今朝も朝食を運びつつ、私はたずねた。
「あやしいですな。断然あやしくなってきた」
「へえ。どこが」
「まず旦那さん。毎日、7時10分前に家を出て、夜8時10分過ぎに帰ってきます。1分もズレません。地球人では、とてもあんなに几帳面にはいきませんな」
「ははあ、そうでしたか」
「奥さんも怪しい。毎日、買い物に出かけるのですが、かならず里芋を買ってくる。人間、そんなに里芋ばかり食べますかね」
「微妙ですね」
「ただまあ、ふたりとも凶暴性は認められない」
「いい宇宙人ということですね。その場合、どういうことになるんですか」
「私は引き上げます。すでに相当数の宇宙人が日本に住み着いていますからね。そのうち、人間だの宇宙人だのといった区別はなくなっていくでしょう」
「そういうものですか」
「そういうものです」
ということでうちのお向かいは宇宙人らしいのだが、どういう顔をしてお付き合いしていいのか、よくわからない。今度、いい里芋でも手に入ったら、お裾分けしにいってみようか。
(了)
ここから先は
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/2631/profile_0442fbe1840df3955cb8f5545730f4d2.jpg?fit=bounds&format=jpeg&quality=85&width=330)
朗読用ショートショート
平日にショートショートを1編ずつ追加していきます。無料です。ご支援いただける場合はご購読いただけると励みになります。 朗読会や音声配信サー…
新作旧作まとめて、毎日1編ずつ「朗読用ショートショート」マガジンに追加しています。朗読に使いたい方、どうぞよろしくお願いします。