2024の
もう2025年も2月になってしまい、もう2024年に何をしていたかという記憶も薄れ始め、2025年も早速ろくに音楽を聴けていない状態が続く(その代わりに増えたのがお笑い芸人のラジオやポッドキャスト)。いくら無理して聴くことはないというのが当たりまえとはいえ、世には毎日のようにビッグネームから新人まで素晴らしい音楽が流れ続けているというのに、何に対してというわけではないが少し寂しい感情を覚える。ちょっとした自分に課す習慣としてこれを書くという年毎の道標があるから聴くことができているようなものだ。
ということでいつもの個人的年間ベスト楽曲をつらつらと書いていきます。それどころじゃなかったこともあり、大晦日の投稿から大きく遅れてしまったものの、とりあえず書いていこうと思います。いつも通り「2024年にリリースされた曲」かつ「Spotify上に音源がある曲」というのが条件で(後者に関してはこうすることの沢山の問題はあるわけだけど)、その中で「個人的に印象が強く残った曲」「今後も聴き続けるだろうな」と思った曲を挙げ、ごちゃごちゃなんか書いてみようというものです。本当はもう少し音楽シーンの振り返り、あるいは特定のミュージシャンのバイオグラフィー、あるいは個人的なエッセイを書きながら挙げていくという、いろいろな書き方に絞るべきなのだろうけど、どれもが中途半端な形になると思う。さらに2023年に引き続き昔の楽曲しか聴けない時期が延べ3ヶ月くらいあったはずなので、大して広がらず、大きく偏りもあるという感じ。
まともでもっと面白くて楽しい音楽を挙げてくれ、かつまともなレビューが欲しければ他所へ。十数曲挙げていきます。それでは張り切ってどうぞ。
①イト/UNISON SQUARE GARDEN
この記事の建て付け的に一曲ごとに挙げるしかなかったけど、これが入ったアルバム全体が良かったという印象。クリープハイプのトリビュートアルバム「もしも生まれ変わったならそっとこんな声になって」からの一曲。クリープハイプといえばやはり2010年代のいわゆる「邦ロック」の代表格的存在だと思う。その枠組みが一旦沈静化してもバンドとしての強度、そして歌詞の強度(小説もすごく良い)もどんどん増していったように思うのだけど、印象からいうとクリープハイプ以上にフェス的な見栄えの良いバンドだったり、さらにキャリアが長いバンドがもっと最初に挙げられていて、かつ変なイメージ(「メンヘラ」的な)がネットの冷笑に晒されるなどという不憫さもあったと思う(ずっと人生のやるせなさを歌っているだけなのだけど)。
私がこうやって書く以上の歴史(事務所移籍騒動とか)や思いがリスナーそれぞれにあるバンドだと思うけど、現メンバー15周年という節目でこのようなトリビュートが出たというのは、なんというか長いこと音楽を聴くもんだなと思うような出来事でした。加えて同世代を輪切りにするような音楽として、かつ「邦ロック」の一つの集合地点が他でもなくクリープハイプだったというのがとても嬉しく、あの頃背伸びしてロッキン読んでた自分が少し報われたような。
この曲は映画「帝一の國」のEDのカバー。ユニゾン本人の曲のオマージュも入れながら、サビが「たんたんたこたこ」(草野マサムネが言ってたやつ。聴けばわかる)のアレンジになっているのもかっこいい。あと田淵智也も歌うんだという、ユニゾン無知ゆえに知らなかった側面も。
うん本当に素晴らしいアルバムだった。
②野菜もどうぞ/MONO NO AWARE
2024年はあまりいい年ではなかったことは前の記事で書いたことではあるけれども、特にご飯を食べている時以外の幸せをなかなか見つけづらかった時期だったと思う。ただ、楽しかろうがそうでなかろうが人は生きるためには食わねばならず、私は偶々それを楽しいと思えていただけだったのかもしれない。そしてその中でも今度はバランスを要求される。現に不健康な体重の増加を伴った年だったので、まさに「野菜もどうぞ」な感じ。
バランス。肉と野菜を二項対立的に置くのもどうかという感じはするけれども、肉ばかり貪っていると豚になり、有象無象に紛れ込んでしまうように(ふと思ったのだけど私がジブリが苦手なのは食描写のまさに「貪る」感じなのかも)、人が人でいるためには(メタファーでもあり現実的な意味でもあり)「好き嫌いしない」ということだといえるかもしれない。
また野菜は、歌詞にもあるように意外とどんな状態でも食べられる。さらに前段のことをここでひっくり返すけど、「美味しいから食う」ものでもある(ネットミームをポップスに落とし込むことの如何に関しては今後どこかでやりたいな〜)。あとは美味しいということに気づけるかどうか。ハンバーガーを主食とする独裁者もどきに、そこに挟まれたレタスは気づけるのか。またレタスはその存在を伝えられるのか。
こちらも良いアルバムでした。
③悪夢のような/ブランデー戦記
関ジャムでも紹介されていました。なんともいえない憂いを纏った曲の感じがとてもはまった。
「Coming-of-age-Story」は関ジャムではグランジがどうこうといっていたけど、この曲はむしろ無機質なリズム感と、シティポップ的なギターがあって、好みに刺さった部分が大きかった。Bメロからサビに食い込むように流れてくる展開も好き。それだけいろいろな顔を見せられるバンドということなのだと思うし。
悪夢みたいな1週間が連続して続いているように感じる1年だったもんで、私は単にもういいよって言ってほしかっただけなのかもしれない。寝る前に聴く。
これどういう詩の世界なんだろう。
④River Suite 川の組曲 アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先) / いちょう並木のセレナーデ 東京ガーデンシアター Live 2022/小沢健二
タイトル転記したら2022年の曲でした。ただリリースは2024年なので大丈夫。前者が2019年、後者が1994年と、25年隔てた2曲が組曲として成立している様子。一見無関係な複数の事物を並べてみてそこに意味を見出す偶然性みたいなものが芸術的な好みなので、音楽にもそれを見出すことができたのが嬉しい。ある種のナラティヴを求める心性。
アルペジオはリアルタイムで聴くことができたけど、いちょう並木〜は当然産まれていないわけで、私が過去の曲を振り返ること、あるいは小沢健二本人が紆余曲折あったものの長いこと音楽を続けてくれているということの意味について考える。
いちょう並木〜は川なのか?海では?と思わないこともないけど、涙(=blue)も、汚れからの再生も一緒くたに水辺から行われるという点でこの2曲が1つにまとめられることの正しさみたいなのが出てくる。それに私小説的な意味合いを持つ曲とある種普遍的なもの(別れ)とが同居していると頃とか、つなぎが少し強引でStrawberry Fields Forever的なのもいい。
⑤Electricity/宇多田ヒカル
25年といえばこちらも。宇多田ヒカルのデビュー25周年を記念して発売されたアルバム「SCIENCE FICTION」からの新曲。ベストと言っても既存曲はリミックスとかがされていて、正直有名曲くらいしかしっかり知らない私でも違いにびっくりするなど(Can You Keep A Secret?の歌い出しが鳥肌立つくらいにクリアで……)。
2024年は『オッペンハイマー』を観て、修論を書き終わったら『三体』を読んでいたこともあり、どこか物理学に触れるタイミングがあった。本当に何を言っているのかわからないのは高校時代から変わらないけど。『三体』を読んだいま、少しこの曲の歌詞世界がわかるような。もはや言葉が必要とされないコミュニケーションや、それが途轍もない距離を隔てていても伝わるような。でも「〜かなにか」という遊びも残すような。
「traveling - Re-recording」も曲としての強度が増していた。22年の時を超えて「今、何してる?」と語りかけられる、この軽やかさはどこにいってしまったのか。
宇多田ヒカルは2024年、ライブにも行きました。滅多にないチャンスなので友人に同行し、夢のような時間を過ごしました。歌うますぎる。
⑥BIRDS OF A FEATHER /Billie Eilish
やっとBillie Eilishの良さがわかったかもしれない。そうかこれが響くということかと思った。「同じ穴の狢」ということなんだろうけど、一種の共依存。一緒にいられないくらいなら死んだほうがマシ〜みたいな。また書くにあたって歌詞を読んでみると、すごい韻踏んでいる!と思った。これが綺麗だと思うところなのかといった感じで。
独り言が発信できる場が増えたからこそ、結局個人の人格のようなものは分裂してしまっていて、本音と建前の矛盾に気づいてしまい、それに引き裂かれるようになったこともまた増えていると思う。死にたいけど死にたくない、死んでほしいけど死んでほしくないみたいな。その中ではこの婉曲さみたいなところが一番まっすぐに伝わってしまうという話でもあるのかもしれない。死が近い音楽は好きだしみんなもっと内省的になるべきだとは思うけど、実際に流行ってしまうとなんか違うのかもと思ってしまうのだけど。永遠とかないし。
⑦今世紀最大の夢/Tempalay
何かのエンディングテーマを聴いているみたいだと思ったら、ドラマのオープニングテーマだったそうだ。人間の印象なんてそんなもん。
壮大さを引き算で出した曲という感じ。大体タイトルが歌い出しで歌われて以降出てこないというのも、改めて歌詞を読み直すと驚くことではある。ここでの夢は子供が見るような将来のそれのようなものでもありながら、その敗れた夢の集積が今の風景を作っている、というような物悲しさがある。ここ最近は自分のあり得た形について考える場面が多いけど、光るおもちゃ箱をひっくり返した後でもなお、最後は立派に死ねるなら。
⑧Born With a Broken Heart /Damiano David
Måneskinのフロントマンのソロ曲。他にもいくつか出していたけど、うっすらTake On Me歌謡館あるこの曲を。正直ソロデビュー早すぎる!と思ったけど、この声とオーラはまず周りが放っておかないのだろうなとも思う。
この曲も欠落とわかりあえなさを歌っていて、それも自分のせいだから〜という。自分の欠落を埋めるのは他人ではないで間違いなく、そこが難しい部分である。MVかっこよ。
⑨さよーならまたいつか!/米津玄師
決して無気力というわけではないし、知的好奇心は一応止むことはないけど、どこかで何かを諦めている部分がある気がしている。ただやはりその一方で、「塵も積もれば山となる」的な言説を信じている自分もいる。縋りつきたいだけなのかもしれない。
100年後。想像ができない。この10年すら思っていたのと全く違っていた。ポジティブさばかりが称揚されるような現在に、軽やかに怒るということが未来への投機になるというさまを示したことが一つの新しさだと思うし、朝ドラ主題歌であったこと以上の意味があったと思う。これはポップソングでしかできない。
MVのTENETチックな逆回しも、「次はやり直せるよね?」と直線的な時間に少しでも抗おうという形があって、実は今までのどのMVより意図がしっかり見えた気がした。100年経てば演者は違うけど時代は同じことを繰り返すから。次はやれるよね?
2024年に出たアルバムは今までのどれよりもポップで、既発曲ばかりという見た目の印象とは裏腹に、最後のインスト曲で1つに収束していくという感じは、むしろ1stに近いようにも思う。新曲群も厭世的であり少しディストピア的情景を出しながらもそこでどうやって人性を描くかみたいなところがあったと思う。ライブが楽しみ。
地獄系の曲の参考。
⑩BLUE HEART/IVE
夏頃リリースのEPからの一曲。少し機械的な感じがとても気に入ったし、沢山あるこの曲調(2•3のジャージークラブだ。流行は玉石混淆ありながらも国境も越える)の中で一番好みでもあったし、そういう記録という意味でも選んだ。
傷つき続けて強くなった心は青くなり、真っ赤な嘘を簡単に見抜けるようになるみたい。すごい。どこかでIVEは韓国では小統領と呼ばれているなることを聞いたことがあるけど、そのかっこよさをひしひしと感じる曲でした。
他にも詰め込んだのはこのプレイリストから(11曲目以降。Number_iやタイプロなどからみるグループアイドルの話とか、MOROHA凄すぎる話とか多分できるけど今はモチベーションがない…)
終わり!
2024年、たくさんいい音楽があったはずなのに何も聴けていないなという印象。この記事も例年通り尻すぼみではあるが、今年は初っ端から筆致が低空飛行という感じもする。年が明けてから2024年の聴き逃していた曲に改めて出会うなど、それなりに聴けている一方で、2025年の曲は2月中旬になってもろくに聴けていない。とはいえ自由なので、ここに関しては緩やかに。最悪音楽もなくていい。
大事なのはこうやって書くこと。一種のトレーニング。自身の感情や良いものに出会った衝撃を書くことで緩和させ、ここに固定しておくこと。自身の好みの線を引き、そこに意味を見出すこと。読まれるのは(このような文章の場合では)その後の話。とはいえ良かったら読んでね。
春から働き始めるので、ここからまたどんな人生になるか不確かなところ。2025年版は今回よりもご機嫌にこの記事を書ければと思う。それでは!